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ベリアル 第七戦 その①

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 「変身」


 目の前に七人目の魔法少女がいた。


 ここはアリスの住む町の中心部、そこに敵の魔法少女の反応を見つけたと、クライシスが一報を残したのでわざわざやって来たのだ。 クライシスの話を聞いてから二日間ぶりにアリスは部屋の外に出たのだ。
 達也もクライシス関連で忙しかったらしく、あまりアリスにかまおうとしてこなかった。 そのおかげで学校にも通うことなく順調に引きこもることができた。
 今まで以上にどす黒い雰囲気をまといつつ、同じぐらいどす黒い魔力で魔導麗装を織りなす。 そして黒いオーラが作り上げた球体の中でそれを身にまとう。 闇色に光る魔力の粒が、球体内部でキラキラと光る。 それはさながらプラネタリウムのようだが、そんなものアリスは全く興味ない。
 手に剣を顕現する。
 それを振るうと球体を内部から切り裂いた。 そして、開いた切り口に手を添えて力づくで押し開く。 こうして大きな穴をあけると、ゆっくりとその穴から飛び出す。 こうして変身を終えると敵少女と向かい合う。
 すると敵も変身を終えていた。
 上半身だけやけに露出が多く、まるで包帯を巻いているかのようだった。 しかし下半身はやけに長い物でまるで袴のようなものを着ていた。 どちらもどす黒い紫色をしていた。 まるで、ヤンキーの服装のようだった。
 そして手には大鎌の柄を握っており、それを肩にかけていた。


 まさにヤンキーだが、敵少女の顔はびっくりするほど暗いもので恐ろしかった。 顔のせいでアリスの目からすると敵少女はまるで死神のようだった。
 アリスは剣を構えると敵少女と相対し、呟く。
 「殺す」
 「…………」
 「……何さ……その目は……」
 「好きに、したら」
 「殺す殺す殺す!!!!!」



 アリスは地面を蹴って飛び出すとまっすぐ敵少女へと向かって行く。
 剣を構え振るうとまっすぐ突っ込む。 一撃で終わらせるつもりで敵少女に切りかかる。 もちろん終わるはずがないが、気迫はそれだけ込める。 
 走りながら結界を張る。
 範囲切断をいつでも発揮できるようにしたのだ。
 敵少女はそんなアリスの姿を見て地面を蹴ると後ろに飛ぶ。 空中浮遊能力を使って、超高速で後退してく。 それに対抗するかのように、アリスも速度を上げるとまっすぐ近づいていく。


 敵少女は背後にあったビルの壁に背をぶつける。 これ以上下がれないことに気が付いて、敵少女は顔を後ろに向ける。
 「死ねぇ!!!」
 アリスはまだ距離が一瞬の時間も無駄にする気はなかった。
 剣の持たない左手に槍を顕現すると、爆破能力を持たせる。 そして腕を振るうとまっすぐ槍を敵少女に向かって投げつける。 宙を切り、それは見事敵少女の胸部に命中した。
 ――かに思われた


 しかし、敵少女の姿が消え、その槍はさっきまで少女がいた虚空を切ると、背後のビルに命中する。
 「んなっ!!」


 ガギンッという音がして、槍の先端がビルに突き刺さる。
 次の瞬間、槍が赤い光を放ち大爆発を超す。 その勢いはそこまでなかった、爆煙が上がるとビルの一階部分が大きくえぐれる。 しかし、それだけでビルが倒壊するはずもなくただ破片が辺りにぶちまけられるだけだった。
 アリスは目を見開き、そこを見る。 驚きを隠せない様子だった。
 破片が飛び散る中


 敵の少女は立っていた。
 そして、小さく呟いた。
 「……ねぇ、殺してよ」
 「――ッ!! うるさい!! うるさい!! うるさい!! うるさい!! うるさい!! うるさい!! うるさぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」
 アリスは切れた。







 二日前
 アリスはクライシスの差し伸べた手を掴むことができずにいた。
 なぜだろう。
 その理由は定かではなかった。 でも、アリスはどうしてもその手を握ることができなかった。
 生理的に無理
 違う



 世界やオモパギアを滅ぼしたくない?
 違う



 じゃあ


 なんで?


 気持ち悪い。 何となくそんな予感がした。 クライシスの掌に宿るどこか清々しい雰囲気、それがアリスの気に障ったのだ。 もっと、ギスギスしたものや、死ぬほど気持ちの悪いものだったまだ理解できる。
 しかしどういう訳か、清々しいものだった。
 意味が分からない。



 本気で意味が分からない。

 アリスは

 結局アリスはこの問題を保留にした。




 しかし、敵はアリスに向かって襲い掛かってくる。 だったら先にこちらから出向いた方がいいんじゃないかとクライシスが提案した。 だからアリスはここまで戦いに来たのだ。
 今まで以上に戦う理由が分からないままに

 「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 絶叫しながら敵少女へと向かって行くアリス
 今、アリスの視界には周囲で騒いでいるギャラリーや、隣でブツブツ言っているクライシスなど眼中にはなかった。 アリスが見ているのはたった一つ。 それは、殺すべき敵の姿
 左腕を上げて連続で指を鳴らす。


 ガオンガオンという音が響くも、その全ては敵少女を殺すに至らなかった。 どういう訳か攻撃が当たらないのだ。 いや、当たらないと言っては語弊がある。 そもそも敵の少女の姿がないのだ。
 確かに指を鳴らす直前までは目の前にいるのだ。 しかし、指を鳴らした途端にどこかへと姿を消すのだ。 どこへ行ったのかさっぱり分からない、目にも映らないし、影一つ残さない。
 アリスは相当いらだっていた。
 どういう訳か敵少女は空中に飛び上がることなく地面すれすれを移動していく。 そこらへんに何か秘密がありそうだったが、まださっぱり分からない。




130, 129

  





 とりあえず攻撃を仕掛けることにした。
 「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
 「…………」


 今度は接近戦で叩きのめすことにした。
 一気に接近すると敵少女の潜むビルの影に入る。 そして両手に剣を顕現すると、敵に向かって切りかかる。 
 しかし敵はそこまで危惧することなく、冷たい目線を向けてくる。


 それがさらにアリスの気を苛立たせる。
 「死ねぇぇ!!!!」
 「……」
 敵少女はピクリとも動かず、アリスを迎え撃つ。
 アリスは剣を振るうと敵少女の首を切り飛ばそうとする。
 するとまたその直前に敵少女の姿が消えた。
 「またか!!」
 「…………殺す」
 「――ッ!!」


 ゾクッとするような殺気がアリスの背中から襲い来る。 背中をミミズが這うような寒気が走る、今まで感じたことのないような鋭く貫くような殺気。 完全に隙をつかれていた。
 アリスは急いで身を屈める。
 すると敵少女が振るった鎌が頭上を掠めていく。
 危なかった。


 しかし、いつの間に後ろに回ったのだろうか、さっぱり分からない。 おそらくこれも敵少女の能力か何かなのだろう。 片鱗は何となく見えたが、まだどんな能力なのかさっぱり分からない。
 大鎌が過ぎ去った後、アリスは屈んだ姿勢のまま腕を後ろに回すと指を鳴らした。
 ガオンという音が鳴り響く。 だが、敵少女の苦しげな声は聞こえてこない。
 アリスは何とかビルの影から飛び出すと、宙で一回転してさっきまで敵少女がいたところを見る。
 やはり、いない。


 「いったいどこに……」
 悔しげにそう言うと、どこからともなく敵少女が姿を見せた。
 そして、こっちに冷たい視線を向ける。
 「……こっち来なよ」
 「うるさいなぁ……うるさいなぁ!!!!」
 アリスは剣を十本顕現する。 そしてその全てを操作するとまっすぐ敵少女に向けて飛ばす。 それと同時に敵少女の姿が消え、剣は全て道路に突き刺さっていく。 見事な切れ味で、墓標のように剣が突き刺さっていく。
 すべての剣が刺さった後、その間を縫うように敵少女が姿を現す。


 それを見たアリスは弓を顕現し、光弾を装填し、光の矢を生み出す。 そして狙いをつけると間髪入れずに矢を放つ。 ヒュンッと宙を切り、矢は高速で敵少女に向かって飛んでいく。
 しかし、また少女の姿は消え、矢は再び地面に命中し小規模な爆発を引き起こした。
 爆煙が辺りに満ちる中、敵少女が再び姿を現す。
 「…………無駄」
 「…………そうかな?」


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