真実 その②
「何が?」
「あなたたちは死なないんじゃないの? どうして絶滅するの?」
「正しく言うと消滅だね。 存在そのものが無意味なものになっていき、やがて何の意味もない物体になる。 するとどうなるかというと、完璧であるはずが逆に完璧とは程遠い物となってしまう。 結果、自身のコアが負荷に耐え切れず崩壊していくのだ」
「…………」
「スパラグモスがその事実に気が付いたことは、地球に残した僕の残されたパーツから宇宙に漂流する僕に伝わった。 最悪のパターンではあったが予想できなかったことではなかった」
「…………」
よく意味が分からなかった。
何とか頭を振り絞って考えを巡らせる。 そして自分なりに結論を出してみる。
つまりは人間の自殺に近いものなのだろう、それなら何となく意味が分かる。
アリスが考えている間、クライシスは話を続ける。
「彼らは消滅などしたくなかった。 しかし僕と彼らが生まれてから何千万年の間、完璧だというのに存在し続けていた。 これは変えようのない事実だ」
「……確かに……すぐに消滅していてもおかしくないのに、あなたはスパラグモスを生み出してからも消滅しなかった。 おかしい」
「その理由は簡単さ」
「何?」
「世界が不完全だったからさ。 不完全な世界を完全にするまでの間、僕たちとスパラグモスは消滅の危機のさらされることなく存在していたのだ」
「……なるほどね」
「さてアリス、ここまで来たらスパラグモスが何を考えたのか分かるよね?」
「…………世界を再び不完全にしようとした?」
「その通りさ」
簡単な推察だ。
スパラグモスは存在を続けようとする。 ならば世界を不完全なものにして、もう一度世界を再建する仕事を始めようとするだろう。 その間、彼らは存在し続けることができるから
クライシスは満足そうに頷くと話を続ける。
「しかし、完全なる生命体が世界を不完全にすることができない。 スパラグモスはそう考え、ある手段をとることにした」
「それって?」
「簡単な話さ、不完全な生命体を生み出して、再び地球を不完全なものにすればいいのだ」
「それで?」
「それで、だ。 スパラグモスは不完全な生命体を生み出した。 かつて僕を生み出した人類もモチーフにしてね。 そして世界を一度無に戻し、新たに生み出した生命体に世界を任せたのだ」
「ちょっと待って!! それって……」
「そうさ!! さっきから言っているだろう!! 人類は絶滅した。 今現在地球を支配しているのは人類ではない!! スパラグモスが生み出した不完全な生命体、オモパギアなのさ!!
クライシスは勝ち誇った笑みでそういった。
アリスは理解した。 完全に理解した、確かに人類は滅亡している。 自分たちは人間ではなく彼らが言うところのオモパギアという生命体なのだろう、ということは、クライシスの目的も何となく分かった。
オモパギアとスパラグモスの殲滅、それがクライシスの最終目的ということは、自分たち人類――正しくは違うがとりあえず人類と呼ぶことにしておく――を絶滅させるということだ。
ということは、
世界を救うというクライシスの言葉も何となく理解できる。
スパラグモスの計画が順調に進んでいるということは、いま世界は不完全なのだ。 ということはオモパギアを殲滅し、世界を完全なものにする。 それは世界を救うと言えなくもないんじゃないだろうか
アリスがそんなことをぼんやりと考えているとクライシスは話を続けた。
「スパラグモスはオモパギアに地球を預けた後、自身の体を封印して月の裏側に設置したのだ。 そうして地球の観察を続けた」
「だから、あそこに……」
「そして数億年の月日が経った。 そんなある日のこと、ある人が僕の体の一部を発掘したのさ」
「……小岩井研究所の人?」
「ちょっと違う。 僕の体が発掘されてから小岩井研究所が設立されたのさ」
「…………」
細かいことはどうでもよかった。
アリスが冷たい目線を向けていると、色々と察したクライシスは話を続けた。
「僕は肉体の一部が発掘されたのを察して数十年かけて地球へと戻って来たんだ。 すると、予想外の出来事が起きた」
「……それは?」
「僕が戻ってきたことで焦ったスパラグモスは、先に僕を始末しようと魔法少女を生み出したのさ。 そして何かされる前に先手を打って僕を消し去ろうと試みたのだ。 彼らからすると僕が戻ってくるのは予想外の出来事で、僕からするとスパラグモスが魔法少女を生み出したのは予想外だった」
「どうして敵は魔法少女なの?」
「敵は肉体の封印がすぐに解けず、焦ったので魔法少女を生み出したのさ。 善は急げ、早く自分を叩きのめそうとしたのさ」
「……で?」
「僕は少し焦ったが、ある意味では好都合だった。 敵が動いたということは、わざわざ僕の肉体を組み立てなおしてスパラグモスを殲滅する必要が無くなる。 力の片鱗しか持たない魔法少女だったら、僕が魔法少女を生み出して殲滅する方が確実で、早い」
「なるほど……」
「という訳で僕はアリスと契約してこの戦いが始まったのさ」
「…………」
「オモパギアならいつでも殲滅できる。 それに一番厄介なスパラグモスを簡単に殲滅できるチャンスが巡って来た。 となると、そのチャンスを逃さない手はあるまい。 僕はそう決心し、アリスと契約したのさ」
「…………」
全てのことに納得がいった。 今までの疑問全てが地球温暖化の影響を受けた北極の氷のように解けさって行った。 今思い返してみるとクライシスが自分たち人間のことを『人類』と呼んだことなど一度もなかったような気がする。
A文書などに書かれたこともこれで完全に理解した。 クライシスは未来から来たのではなく、過去に生まれた存在で、スパラグモスはまだ人類を滅ぼすつもりなどなかった。 だからここ何万年もしくは何千万年も月で観察を続けていたのだ。
オモパギアが一体何なのか、今までクライシスが言わなかった理由もわかった。
アリスは絶句した。
この世界はクライシスが完全にし、スパラグモスによって支配され、自分たちオモパギアによって不完全にさせられようとしている。
いったい自分たちはどうしてこの世界に存在しているのか
自分の存在意義だけではなく、この世界の存在意義が分からなくなるアリス
クライシスは腕を伸ばすと言った。
「アリス、僕はこの自らが生み出した世界を救うために、この不完全な世界を終わらせる。 さぁアリス。 ともにオモパギアを消し去ろうじゃないか」
差し出された手に対して
アリスは
アリスは
アリスは?