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真実 その①

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 アパートの一室
 アリスは煎餅布団の上で正座をすると、クライシスと向かい合う。 それを見て、準備が終わったことを察したクライシスは両腕をアリスの顔の両側にもっていくと、自身の力を最大限に発揮する。
 すると、初めてアリスと会った時に使った仮想空間を顕現し、アリスをその中に招待する。
 二人は真っ白な空間の中央で早退すると話を始めた。



 「いいかい、全ての始まりは今から何十億年も前の話だ。 人類に『大いなる災厄』が降りかかったのだ」
 「『大いなる災厄』?」
 「そう、それは人類が、世界が滅びるのに十分すぎる災厄だった。 どんなことが起きたのか詳しい説明はできないが、それだけの強大な危機が襲い掛かったのだ。 それはそれはすさまじいものだった」
 「………それが?」
 「僕はそれに対抗する手段として生み出されたんだ」


 「……詳しく説明した」
 「僕は世界を救うため、あるコンセプトをもとに生み出された。 そのコンセプトとは完全なる生命体だ」
 「完全なる……生命体……」
 「そう。 だから僕は生命エネルギーを無限に生成することによる不老不死、強大な体と圧倒的パワー。 それを兼ね備えた一種の『神』として人類の手によって生み出されたのだ」
 「……それで?」
 「それで僕は見事世界を救うことに成功した」
 「…………?」


 何となく違和感を感じるアリス
 しかし、その違和感は一瞬のうちに氷解した。 クライシスが言葉を続けたからだ。


 「そして僕は人類を滅ぼした」
 「は?」


 飛躍している。
 間の話がすっぽ抜けている。
 アリスの疑問を感じ取ったクライシスは説明を始めた。


 「いいかい、完全なる生命体として生み出された僕は、世界を救った後も被害を受けた人類を導くための手伝いをすることとなった。 その結果、僕はある結論に達した」
 「その結論って」
 「お察しの通りだ。 人類が存在するから世界が危機にさらされているのだ、世界を救うには人類を滅亡させるしかない」
 「よくある話ね……」


 「だから、僕は人類を滅亡させたのだ」
 「ちょっと待って」
 「なんだよ、ここからがいいところなのに……」





 アリスもそんなことは分かっていたが、さすがに突っ込まざるを得なかった。
 さっきから再三「人類は滅亡した」という旨の発言を繰り返しているが、どういう意味なのかさっぱり分からない。 いや、どういう意味なのかは分かる。 人類は滅亡した、そのままの意味だ。
 だが、今現在人類はこの地球を支配している。 絶滅して無い。


 しかし、クライシスが嘘を言っているとかどうも思えない。
 さすがのアリスもどういうことなのか理解できない。 少しだけ考えてみるものの、どう考えても矛盾が前提にありすぎて話にならない、それにどう考えてもクライシスの話を聞く方が早そうだった。
 アリスは続きを促した。


 「で?」
 「で、僕は人類を滅ぼした後、一人で世界を再建した。 自分一人が生きる分には地球は広すぎた。 でも楽しい作業だったよ。 僕は数千万年かけて地球を限りなく現在に近い形にした。 大気汚染やオゾン層もすっかり元に戻したのだ。 そこで、僕は気が付いた」
 「何に?」
 「この世界は僕一人で支配するにはやや退屈すぎた」
 「…………」
 「本末転倒だと思わないかい?」


 確かにそうだった。
 だが、何となくその気持ちはわからなくはなかった。
 アリスがそんなことを考えているうちにクライシスが続きを話す。
 「一人で支配するのに飽きた僕は、完璧を追求するために、自分と同じ存在を生み出すことにした」
 「というのは?」
 「そのまんまの意味さ。 僕と同じ完全無欠の生命体さ、生命エネルギーを永遠に生成できる不死身の存在。 僕は自身のデータから自分のコピーを八体生み出した。 その名も『スパラグモス』」
 「それは知ってる」
 「だよね。 この間研究所でその話していたし」
 知りたいのはその続きだ。



 無言のまま話を促す。
 「その結果、何が起きたかというと、僕はスパラグモスに襲われたのさ」
 「へー」
 「まぁ、スパラグモスたちがどういう考えで僕を襲ったのかは分かった。 おそらく、彼らは僕と同じく完全をのそんでいた。 そのため、スパラグモスから見るとこの僕は世界で唯一の異物だ。 完璧であることを望む彼らからすると僕は邪魔ものだったのだろう」
 「…………」
 「僕はある意味では同類であるスパラグモスには油断していた。 隙を狙われ、僕は致命傷を負った」
 「で、死んだの?」
 「死んでないよ。 その証拠に今ここにいるじゃないか」
 「じゃあどうなったの?」
 「何とか逃げ出した僕は、自分の体をいくつかに分割したのだ。 肉体を上半身と下半身に、頭脳をA文書と∀文書に、力など残った部分をコアとエネルギー体であるこの僕に。 合計六つに分けて、地球上いたるところに隠したのだ」
 「……なるほど」


124, 123

  





 だから世界中でクライシスの体が見つかったのだ。 しかもバラバラの状態で
 それが今、達也たちが集めている物なのだろう。 
 六つということは既に全部集まったのだ。 すると何が起きるのか気になったが、その疑問を尋ねる前に、クライシスが話を続けた。
 「その後、僕はエネルギー体を――つまりはこの僕のことなんだけど――それを宇宙に飛ばして数億年間待ったのさ」
 「何を待ったの?」


 「スパラグモスが僕を集めて再び組み立てるのをさ」
 「どうして?」
 「僕は知っていた。 スパラグモスは僕のことを邪魔に思ってこそいたが、決してバラバラなんかにしたかったわけではない。 逆に僕の能力を利用したかったはずなんだ。 だから絶対組み立てると思ったのさ」
 「……でも結局?」
 「なかった。 予想では百年以内に組み立てられると思っていたのだが、どういう訳かそうならなかった」
 「どうして?」
 「スパラグモスは僕がいなくても平気だと判断したんだ。 僕がいなくてもこの世界は自分たちの手でなんとでもなると、思ったんだろう。 そのせいで、彼らはある事実を知らないまま過ごすこととなった」
 「ある事実?」


 アリスがそう尋ねると、クライシスは今まで見せたことのないような顔を見せた。 悔し気に顔を歪ませつつ何かを必死にこらえるような表情を見せる。 いやらし気に笑い続けていた口元が少し力を失ったかのようになる。
 初めて見る顔にちょっと驚くアリス
 クライシスはその顔のまま話を続ける。


 「完全ということはどういう意味なのか分かるかい?」
 「……さぁ?」
 「進化が無いということさ。 これ以上どこにも向かうことができず、何者にもなれないということなのだ。 つまり、この世界に存在する価値がないということなのだ」
 「へー」
 「その結果、どうなるかというとスパラグモスは自身がゆっくりと、しかし確実に絶滅へと向かって行っていることに気が付いたのさ」
 「ちょっと待って、おかしくない?」
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