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ベリアル 出会い その①

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 足を引きずって学校に行く
 行きたくないという心の声にはもう二度と耳を傾けないことにした。 傾けたところで自分は救われないし、それはそれで地獄が待っている。 今朝もおじさんは私の部屋で寝ていた。 あと少しでも家を出るのが遅かったら襲われていただろう。
 アリスはそんなことを考えて空腹を紛らわせていた。
 もともと小食で、一日一食、下手すれば二日で一食でも平気なアリスだが、三日はまともな食事をとっていない。 今、胃の中に残っているのは、昨晩おじさんにイラマチオされた時に流し込まれた精液とチンカスぐらいだ。 
 お世辞にも食事といえる食事ではない。
 それに、今着ている安物で中古の制服には煙草やその他もろもろの嫌なにおいが染みついていて、慣れていないとまともに着ることもできない。 まるでポケットの中で三日間放置していたハンカチのようにクシャクシャだが、アリスの家にアイロンはないのでどうしようもなかった。

 
一歩、一歩ゆっくりと踏み出す。
 すると、ズキッと今日一番鋭い痛みが足を襲った。
 「…………」
 アリスは無言のまま足を上げ、靴下をまくると足首を見てみる。 するとそこにはくっきりと縄の跡が見えた。 相当きつく縛られていたのか、少し紫色になっている部分もある。
 これも、おじさんの仕業だ。
 アリスが処女を失った日、つまり、初めておじさんに犯された日のことだが、あまりの痛みに私が逃げ出そうとしたらしい。 それを抑え込むと、今度は暴れだしたという。 その時、おじさんの金的を蹴り上げたらしい。
 だからか、おじさんは今でも警戒して私の右足を柱に括り付けてから私を犯す。 
 かれこれ二年間はそうしているだろうか、今さら逃げる気もわかないのでいい加減やめてほしいと思う今日この頃だった。


 おじさんは、アリスの身元引受人だった。 事故で唯一の肉親である母親を失ったアリスは、少しの間病院に入院した後、おじさんが大家をやっているアパートの一室で暮らすこととなった。
 父親は事故にあう数日前に離婚したらしく、事故があったという連絡をしても「私には関係ありません」と一言いい残しただけらしい。 また、母親の両親、つまりはアリスの祖父、祖母だが、どちらもすでに死去していた。
 小学校四年のとき、そのアパートで過ごした。


 処女を失ったのはそれから二年後、中学に上がってすぐのことだった。 別に驚きはしなかった。 それまでの間、普通の虐待から性的虐待まで受けていた。 裸にされ、煎餅布団に押し倒された時、大して驚きではなかった。
 が、痛いのは嫌だった。 あの頃は血を見るのが嫌だった。 その時、というか処女膜が破れ、赤い血が流れた瞬間、その瞬間に血が苦手というアリスのトラウマは克服されたともいえる。
 それから、アリスはおじさんの性処理道具だった。


 アリスとしてはもうどうでもよくなっていた。 何度犯されても気持ちよくはならず、最初の数回を除いてはただひたすら気持ち悪いだけで、特に感想をも浮かばなかった。
 世間一般でいうマグロというやつなのだろう。
 あまりにも自分にぴったりで、初めてその言葉を知った時、アリスは自虐D¥的な笑みを浮かべたものだった。
 一週間に一度か二度、酒に酔ったおじさんにレイプされる。


 これがアリスの日常だった。

 ふと、雲が晴れて明るい光が差し込んでくる。 アリスは日の光を受けても何も感じない。 隈のある目を地面に向けたまま、ひたすら惰性でのみ歩き続ける。
 
 死にたい

 いつもそう思う。
 でも、死ねない。
 それはとてもつらいことだった。



 学校
 時刻はすでに放課後
 アリスは保健室のベッドの上にいた。 朝の八時半に学校に到着してからずっとここにいる。 約八時間ほど保健室にいたが寝たのはせいぜい一時間ぐらい、その他の時間はひたすら天井を眺めていた。
 本を持ってきたこともあったが、うっかり教室に置きっぱなしにしていたところ、女子トイレの便器の中に捨てられていた。 別に好きな本でもなかったが、おじさんに殴られて怒られたのでそれ以来本は学校に持ってこない。
 というか、筆箱すら持ってきてない。 アリスのバックの中には何も入っていない。
 最初から勉強する気がなく、保健室にいるだけのアリスにとっては教科書など不要の長物なので、全部使い物にならなくなった日には逆に清々としたものだった。
 

そんなことを考えていると、キーンコーンカーンコーンという音が響いてきた。 どうやら下校時刻らしい。
 アリスはゆっくりと体を起こすとほとんどだれにも聞こえないような小さな声でつぶやいた。
「……帰ろ」
 別に帰りたいわけではないが、そこ以外に居場所と呼べる場所はない。 あのアパートの薄暗い部屋の隅っこが唯一といっていい自分の場所だ。 
 一旦ベッドに座り込むと足元にある上履きをはこうとする。
 ところがそこに上履きがない。
 「…………またか……」
 

アリスは小さくため息をつくと靴下のまま保健室の隅にあるゴミ箱の中を見る。 するとそこにはゴミ……ではなく、ごみと見間違えるほど汚らしい自分の上履きが転がっていた。 
 きれいにしようという気も全く起きなかったので、そのまま上履きを履いてバックを背負ってゆっくりと保健室から出ていく。
 ちなみに、保健室の先生はいない。 アリスが来るといつもどこかへ消えていく、めったなことでは顔を出さない。
 その理由は少し難しい。 アリスをいじめているグループのリーダー、名前を宝樹真理というのだが、彼女の父親がこの町のお偉いさんらしい。 それだけではなく、おじいさんがどっかの会社の社長か会長で、凄い影響力を持っている。
 そのためか、この学校の教師たちはいじめに関して何も言わず、容認している。 一人、表立って抗議した人がいたが、一週間後にはその人の姿が消えていた。
 分かっていたことなので、別に驚きはしなかったし、寂しくもなかった。 逆にうっとうしい人が消えてくれたおかげですっきりした。
 

「……そうだ」
 アリスはふと思い立ち、ある場所へ寄ることにした。
 一週間に一度ぐらいの割合でそこには行っていた。
 右足を少し引きずりつつ階段をゆっくりと昇っていく。 数段昇っただけで息が切れてくるのは、運動不足だからだろう。 まぁ、ベッドで運動会していると言えばそうなのだが
「……面白くない」
 アリスはあまりにもくだらない自分の考えに吐き気がしてきた。
 と、目の前に扉が現れる。 どうやら階段を登り切ったらしい、アリスはゆっくりと腕を上げるとドアノブをつかみ、ゆっくりと回す。 扉に鍵は掛かっていない。
 何の躊躇もなく扉を押し開く。 すると、心地の良い風と夕方特有のオレンジ色をした夕日が差し込んできた。 アリスはそれがまぶしかったため目を細めるも、足を止めることなく進んでいく。
 

そこは屋上だった。
 「…………」
 初めて来たのは入学してから一週間後のことだった。
 自殺の定番といえばやっぱり飛び降り、そう考えていたアリスは下調べだけでもしておこうと思い、ここにやって来た。 それ以来、お気に入りの場所である。
 めったなことが無い限り人は来ない。 なぜなら数年前にここから飛び降りて自殺した生徒がいるらしく、それ以来ここは鬼門らしい。
 アリスは足を止めることなくゆっくりと進むと手すり越しに地面を見る。
 もし、アリスが高所恐怖症なら耐えられないような高さだが、幸運なことに平気なので気兼ねなく下を見続ける。 最近目が悪くなっているのか、地面が少しぼやけて見える。 石の一つ一つが判別できなくなってきている。
 少し顔を上げると、そこには自分の暮らす町が見える。 特に何の特徴もないつまらない町。 電車で二駅行ったところに大きな町があり、そこに職場のある人が数多く住んでいる。 そのため、人口密度は多いが何もない町


 アリスはそんな町をぼんやりと眺めつつ、小さな声でつぶやいた。
 「……マリア……」
 その時、
 後ろから声がかけられた。
 「それは妹さんの名前かな?
 「…………」
 アリスは内心少し驚きつつも、それを一切顔に出さないようにして、ゆっくりと振り返る。 おそらく教師か何かだろう。 それ以外にここにきて自分に話しかけるような人間はいない。
 しかし、その予想は外れることとなった。

 振り返ったそこにいた物

 それはどう見ても人間には見えなかった。
3, 2

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