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ベリアル 学校 その②

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ジャバジャバジャバと水がかけられる音が耳障りだ。
 あの後、アリスはトイレに連れ込まれて、水を掛けられていた。 水道にホースをつなぎ、どんどん制服が水を吸って重くなっていく。 不快感が半端ないが、文句をいう気分にもなれない。
 そういえば、と思い出す。 昨日風呂に入っていなかった。 これはシャワーの代わりになるんじゃないだろうか。 ハハハハハ、死ぬほど面白くない。
自分のくだらない考えに吐き気が止まらない。 いっそ吐いてしまいたいが胃の中に物が残ってない。
 「ハハハ、ぼろ雑巾みたい」
 「ウケる―」
 

 何がだよ。
 ぼろ雑巾みたいなのは分かるが、それの何が面白いのかさっぱりわからない。 この取り巻き二人はぼろ雑巾を見て日常的に笑っているのだろうか。  
 そんなわけないだろと思いつつも、本当にそうだったらこの二人が哀れに思えてくる。 人のことを憐れんでる暇があるのか、と心の声が聞こえてくるが、それもまた聞こえないふりをする。
 ちなみに、宝樹はここにいない。 自ら率先してアリスを水浸しにした後、「水性絵の具をとってくる」とか言って出ていった。 何をやろうとしているかは明白だったが、止めようがなかったので諦めた。
 と、取り巻きAがトイレの隅っこにある箒を持ってくると、その先でアリスを突いて遊び始める。


 「ほんと汚―い」
 「ねぇ、何で生きてるのかな? これ」
 「………………ッ……」
 箒の先で下腹部を強めに突かれ、少し痛みが走る。
 が、そんなことより取り巻きBが言ったことに不快感を覚えた。


 誰が好きで生きてるか!!



 アリスはそう叫びだしたかった。 人の気も知らないで勝手なことをのたまう口を今すぐ閉ざしてしまいたかった。 この間、殺した名も知らぬ人たちのような目にあわせてみたかった。
 アリスはそこで思い出す。
 自分には、今、それができるんじゃないか。 できる力があるんじゃないか


 こっそりと、腕を背中に隠す。 そして、掌の先に魔導光弾を生み出せるかどうか試してみる。 できるかどうかは正直五分五分だった。 先日の練習のときはずっと変身していたから、変身なしでできるかは試していなかったのだ。
 静かに意識を集中させてみる。
 イケた。
 アリスはそれを撃ちだしてみようかと思った
 その瞬間
 

 「だめだ!! アリス!!」
 「――ッ!!」
 クライシスの声が脳裏に響いてくる。 それと同時にゴッと脳天に今までで一番強い一撃を食らう。 痛みはあまり感じないが、かなりイラッとした。 クライシスに話しかけられ邪魔され、しかも不快になった。
 アリスの機嫌は最悪だった。
 手のひらに発生させていた魔導光弾は集中を切ったせいで消失してしまった。
 

 しかしクライシスはアリスのことなんかそっちのけで話を始める。
 「だめだ、アリス!! 今はまずい!!」
 「…………」
 声は出せないので視線で語り掛ける。
 こっそりと非難の目を向けると、ご丁寧に説明をしてくれた。
 「アリス、悪い知らせだ。 敵の魔法少女が近づいてきている。 先日の戦闘と、この間の練習のせいでここ周辺にいることがばれたらしい。 そして今、絶賛こっちに向かってきている」
 「…………!!」




 とりあえず、情報を整理するアリス
 それには五秒もかからなかった。
 敵がここに来る。
 次の瞬間アリスは、行動を起こしていた。


コンマ一秒で魔導光弾を左手に顕現すると、起き上がると同時に取り巻きAに向かって魔導光弾を飛ばす。 それが命中するのと同時に、数歩前に進むと、アリスは腕を伸ばして取り巻きBの首元に掴みかかる。
 バンッという小さな爆発音、次の瞬間には取り巻きAの肉片が辺り一帯に飛び散った。 女子トイレ一帯が真っ赤に染まっていく。 小さめの光弾だったせいか、上半身が半分吹き飛ぶだけだったが、命を奪うにはそれで十分だった。
 ドサリと、取り巻きAの残った下半身が倒れる音がする。
 横目で見ると、ドロリと内臓がこぼれているのが見える。
 

が、そんなことより今は目の前の取り巻きBだ。
 「んんぅんんぅぅんんぅ!!!」
 「…………」
 「んぅんん!!」
 「……うるさいなぁ……」
 

バタバタと両手両足を振るい、抵抗してくる。 やたら腕や足が当たってうざい。
 なので、さっさと終わらせることにした。
 左腕に力を込めると、首の骨を折る。
 ゴキッという嫌な感触が掌を伝わってくる。 筋力も強化されたままになっているらしい。 あっさりと取り巻きBの人生を終わらせることができた。
 「アグゥ」
 それが取り巻きBの最後の言葉だった。


 白目をむいて、口の端からよだれをたらしながらぶざまな顔をさらす取り巻きB、もし、彼女が生きていたらこの顔を見てこういうのだろうか「ウケる―」と。 そんなことが本当に起きたら面白いだろうなー、と思う。
 しかし今はそんな暇はない。
 アリスは死体を投げ捨てるとクライシスに尋ねる。
 「で、敵はどこまで来てるの?」
 「何をしているんだ!!」
 「……ここで戦う」
 「馬鹿なのか!! 学校で戦うと犠牲者がどれだけ出ると思ってる!! それに場所が限定されるだろう、不利じゃないか!!」
 「何を言ってるの」
 

 アリスは冷たい声でそう言うと、死んだ魚の目をクライシスに向けながら話を始めた。
 「クライシス、今、私が戦闘で使える能力は何?」
 「範囲切断と武装変化、魔導光弾かな?」
 「その能力を使って広いところで戦うのは不利」
 「…………」
 「違う?」
 「…………そうかも」
 


26, 25

  


 冷静に考えるとそうだ。
 範囲切断は一直線上に一撃必殺の切断を飛ばす。 しかし、前日の戦いのときのように広いところで戦うと回避される可能性が高く、一撃とはいかない。 が、学校のような狭い範囲だと力を発揮する。
 特に廊下などは最適だ。
 クライシスはアリスの言いたいことを理解することができた。
 それでも容認することはできなかった。
 「だめだよ、それでは目立ちすぎる」
 「…………」
 「こちらとしてはあまり目立つようなことはしてほしくないんだ。 校内で戦うということは君の顔を知っている人がいるということだろう、君が魔法少女だとばれたら面倒じゃないか」
 「……じゃあ、これで……」
 

 アリスはそう呟くと、壁に張り付いていた取り巻きAの肉片の一つを取り上げると、それを何の躊躇もなく、自分の顔面に張り付けた。 ベチョリという嫌な感触と、血がべったりと顔につく不快感が同時に襲ってくる。
 こうして自分の顔を血で真っ赤に染める。
 この間の戦闘の時も偶然ではあるがこうなった。
 アリスは肉片を投げ捨てて、クライシスの方を向くと尋ねた。
 「これでいい?」
 「…………もういいよ、何でも」
 どうやらクライシスは完全に諦めたようだ。
 呆れた顔をすると、無言のままアリスの後ろについた。
 

 「……変身……」
 アリスはそう小さく呟くと、黒いオーラに身を包み、魔導麗装を顕現する。 同時に左手に顕現された杖に力を込めると、剣状に変形させた。 いろいろと試してみたがこれが一番気に入っていた。
 臨戦態勢を整えた後、首を左右に曲げ準備運動を終える。
 後は敵がどこから来るか、問題はそれだけである。
「クライシス、敵は?」
 「すぐそこまで来ている」
 「……具体的に」
 「トイレの外の壁だね」
 「え?」


 突然
 ドゴォッン!!!
 そんな音が響き、トイレの壁が爆発四散する。
 「クッ!!」
爆発の勢いで飛んでくる破片がアリスの全身を打つ。 とっさに腕を上げると顔の前でクロスさせて防御する。 そんな事せずともシールドがあるので平気なのだが、反射運動なのでどうしようもなかった。
 破片が飛んでくるのは数秒で終わり、体を打つ音も止まる。
 

それを察したアリスは腕を下げると敵の魔法少女の姿を確認する。
 壁に空いた大穴から日光が差し込み、まるで後光のようにも見える。 敵の魔法少女はまるでその光に溶け込むような姿をしていた。 まるで透き通るような皿の色をした魔導麗装、胸に光るオレンジ色の宝石がまるで太陽のようだった。
 しかし、そんな晴れ晴れとした麗装が似合わないような顔を少女はしていた。 それは、死んだ魚の目だった。 アリスと同じ、何かを見ているようで何も見ていない。 底がないように見えて底しかない目
 憎たらしいものだった。
その魔法少女は手に大きな銃のようなものを持っていた。 どうやらそれが固有の武装らしい。 
少女とアリスは図らずしもにらみ合う形となった。
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