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ベリアル 第二戦 その①

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 「…………」
 「…………」
 「…………」
 「…………」


 どちらも何も言わない。
 数秒の沈黙ののち、先に口を開いたのは敵の少女だった。
 「……ねぇ」
 「…………」
 「……死んで」
 「――ッ!!」


 敵の少女が銃口を向ける。
 アリスは反射的に身を屈める。
 するとその頭上をかすめるように光弾がかすめていき、アリスの背後にあったトイレの扉に命中。 そこで大爆発を起こす。
 再び破片が飛び交うが、それよりも爆風で飛ばされまいと足を踏ん張るので精一杯だった。
 アリスは顔をゆがめると敵の能力について推察を始める。
 銃から放たれた光弾は魔導光弾に似ている。


 しかし、威力が段違いだ。 普通の光弾の数倍の威力はある。 まともに喰らうと即死だろう。
 「…………」
 アリスは速攻で終わらせることにした。
 無言で魔力を発すると半径三m以内に魔力の結界を張る。 集中力さえ切れなければこのまま維持することができる。 これで範囲切断を使用することができる。
 敵の能力を学習できないのは惜しいが、思いのほか敵が強そうなので、諦めることにした。
 アリスは後ずさりしながら壊れた扉を潜ると数歩距離をとる。

 その時、気が付いた。
 外に人がいる。
 「誰だ、お前たち……」
 アリスはこっそりと後ろを振り向く。
 するとそこにはどこかのクラスの先生がいた。 どうやら爆発音に気が付いて見に来たらしい。 その顔は真っ青で、アリスと敵の少女、二人の姿を見て呆然としている。 
 敵の少女はアリスが後ろを見ていることに気づいたのか、攻撃を仕掛けて来た。 銃口を向けると引き金に指をかけ、何の躊躇もなく引く。
 すると再び光弾が発射される。


 それを見たアリスは、腕を伸ばし先生の襟元をつかむと、そのまま持ち上げ、飛んでくる光弾に向けて投げつけた。 
 「え――――」
 ドゴン、という爆発音とバシャッという人間が試算する音が連続して聞こえてくる。 肉片や血液、偶然にも残った内臓、骨片たちが二人の頭上に降り注ぐ。 まるで何かの洗礼のようだが、そんなことより今は目の前の敵だ。
 アリスは敵の少女が目を丸くしている隙に廊下の角を曲がり、教室が並ぶ、一直線の廊下に出る。
 そして、敵の少女が出てくるまでの一瞬の間に結界の範囲を広げる。
 それは隣にある教室内まで届く範囲だった。


 アリスはそんなこと気にしない。 まっすぐ前を見ると、敵の少女が角を曲がってくるのを今か今かと待ち構える。
 「おい、君!!」
 「…………」
 後ろから声をかけられる。 どうやら別の先生らしい、どこかで聞いた声だが気にしない。
 集中力を切ってはいけない。 下手するとあっさり殺されるかもしれないから
 「おい、お前!! 聞こえないのか!!」
 「…………っ!!」
 アリスは角から何か出てくるのを見た。
 その瞬間に剣を横一文字に大きく振るう。 すると、切断が範囲内に一気に広がる。
 角から出てきた何か、さらに教室内にも切断が襲い掛かる。
 その瞬間、何かがドンっという音を立てて爆発した。
 

「――ッ!! 光弾!!」
 爆炎が消えると同時に、敵の少女が天井すれすれを飛びながら姿を現す。
 どうやら光弾を囮にしてこちらの攻撃を避けたらしい。 切断はおそらく宙に浮いてかわしたのだろう。 範囲切断は一直線上の攻撃しかできない、横に振るったなら上に飛べば簡単に回避できる。
 アリスはそれを察した瞬間、二つのことに確信を抱いた。
 まず、あの光弾は魔導光弾で違いない。
 そしてもう一つ


 敵はこちらの能力を把握している。
 「……面倒だな」
 その頃、教室は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
 アリスの範囲切断は教室の半分まで結界を広げていた。 その状態で教室まで切断が広がるように剣を振るったのだ。 結果どうなったかというと、教室のいる生徒の四分の一が突然真っ二つになるという事態が発生した。


 上半身と下半身がきれいに切れ、一瞬の間の後、重力に引かれて床に転がったり机に突っ伏すような形で倒れこむ上半身、下半身
 その状況で冷静になれる人などその教室にいなかった。


 「キャアアアアアアアアア!!!」
 「逃げろ!!!」
 「ヒィィィィィィ!!!」
 「うわぁっ!! うわぁあぁぁぁぁぁぁ!!」
 席を立ち、次から次へと教室の外に逃げ出す生徒たち。 ちなみに先生いない。 さっき爆発音が聞こえたとき「ちょっと見てくる」と行ったきり帰ってこなかった。
 統率する者もなく、次から次へ廊下へ飛び出る生徒たち


 彼らを待っていたのは宙に浮かぶ黒い少女と、迫りくる光弾だった。
 アリスは宙を舞い、光弾を避ける。
 するとそれは必然的に生徒の集団に命中した。

 バチャンという爆発音
 さっきまでとは違う。 一度に大量の人が同時に吹き飛んだせいでやけに水っぽい音がしたのだ。 それに伴い、辺りに吹き飛ぶ内臓、肉片、その量も半端じゃなかった。 まるで雨のように人体のパーツが降り注ぐ。
 悲鳴の中、降り注ぐ血の雨
 その中、対峙する二人の魔法少女

29, 28

  


 アリスはこみ上げてくるものをこらえきれず、口の端をゆっくりと上げると笑い出した。
 「ハハハハハハハハハハハハハ!!」
 「――ッ!! 何がおかしいの!?」
 「ハハハハハハハハ!!! ハハハハハハハハハハハッハハハッハハハハハ!!!」


 笑いながら剣を構えると地面を蹴って敵の魔法少女に接近する。 ちなみに、結界は解除されている。 確かめたいことがあったので、能力を解除したのだ。
 敵は虚を突かれたのか、それとも笑い続けるアリスを不気味に思ったのか、一歩後ずさる。
 アリスはその隙をつき剣をまっすぐ突き出すと敵少女の喉元を狙う。 
 敵は体勢が崩れていたためかわすことができず、急いで腕を上げると手にしていた銃でアリスの剣を受けた。
 ガキンという硬いものと硬いものがぶつかり合う音がする。
 アリスはそのまま力で押し切ろうと、一歩前に進む。
 「……クッ!!」
 「ハハハハハハハハッハ!! ハハハ!!」


 敵はこのままでは押し負けると察すると、床を蹴って後ろに飛び、いったんアリスから距離をとる。 そして銃を構え、銃口をアリスに向けようとする。
 しかし、アリスの方が早かった。
 アリスは敵が離れた瞬間、剣を持った腕を振るうと思いっきり投げつけた。 宙を切る剣はその途中、光の塊に変化すると一瞬のうちに槍へと姿を変えた。 それはまっすぐ敵の顔面を狙って飛んでいく。
 「クソがっ!!」
 敵の少女はひどく悪態をつくと銃を構えるのをやめ、急いで左手を上げると魔導光弾を顕現、それを槍に向けて発射する。
 一瞬の間の後、槍は魔導光弾に撃ち落とされ、小さな爆発を起こす。
 「……ッ!!」
 アリスはそれを見逃さなかった。


 この瞬間、アリスは敵の能力を完全に把握した。
 一旦笑うのを止め、腕を伸ばすと撃ち落とされた槍を光の塊へと変化させ、自分の手元に引き寄せる。 そして、敵がもつのと同じような銃の形に変化させると、その銃口を敵に向ける。
 その時、偶然にも敵がアリスに銃口を向けていた。
 お互い引き金に指をかけ、撃つ準備を整える。
 緊迫した空気が流れる。


 そんな中、アリスは口を開いた。
 「……あなたの能力……分かった……」
 「え?」
 「……あなた、その銃に魔導光弾を入れて、強化して撃ってるんでしょ」
 「…………」
 「図星?」
 「だったら何!?」


 そう言って敵の少女は引き金を引く。
 それに合わせてアリスも引き金を引こうとする
 だが、それを邪魔するものがあった。
 「ダメだアリス!! かわせ!!」
 「――ッ!!」
 クライシスの声が脳裏に響く。
 それを聞いたアリスは反射的に身を屈めると、その光弾をすんでのところでかわす。


 光弾はアリスのはるか後方で逃げようとして混乱する生徒たちに命中、再び大量の人が吹き飛んで死んだ。 しかし、アリスはそんなこと気にせず、クライシスの方を向くと文句を垂れる。
 「何!! 邪魔!!」
 「アリス、一ついいかい?」
 「だから、何!?」
 「君は敵の能力を使えないぞ」
 「はぁ? 何で!?」
 クライシスの言っていることがうまく理解できなかった。
 確かに自分は相手の能力を理解したはず。 となると使えないとおかしい。


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