トップに戻る

<< 前 次 >>

ベリアル 第四戦 その②

単ページ   最大化   




 一方アリスはビルとビルの隙間で悪態をついていた。
 「くそがぁっ!!」
 高速で宙を飛びつつ視線を後ろに向ける。 すると五本の矢がアリスに向かって高速で飛んできているのが見えた。 数分前からアリスはその矢から逃げていた。
 ちょっとした実験としてビルとビルの隙間をなるべく複雑に飛び、矢を何とかまこうとしていた。
 しかし、一本たりともまくことができず、最初三本だったのが五本に増えていた。
 いい加減撃ち落としてしまいたくなるがそういうわけにはいかない。 まだ実験は終わっていない。 アリスは両手の剣を変形させ、独特な形状をした拳銃のような武器にすると光弾を装填する。
 それとほとんど同時にビルの影から飛び出すと大通りの上空に出る。 


 アリスはそれを見ると一気に下降し、車道のギリギリ上空で飛び続ける。 隣を見ると車の運転手が窓越しにこちらを見ているのが分かる。 車と並行してアリスは宙を飛ぶ。
 しかし、矢が向かってくるのを見たアリスはいきなりUターンするとさっきまでとは逆に車に向かって飛ぶような形になる。
 「行くぞ……」
 このままでは車とぶつかってしまう。
 アリスは車を回避しつつ速度を上げていく。 ギリギリのところでの回避を繰り返すため、麗装の裾が車にかすったり、サイドミラーが周囲に展開しているシールドに当たって折れたりする。
 しかしさすがはアリス。 ギリギリのところでの回避を繰り返し、車への直撃を避けていく。 そしてその後をぴったり追うようにして矢が飛んでくる。 いつの間にか数が八に増えていた。
 「チッ……でもこれで……」


 アリスは低空飛行を続けつつ、両手の銃を構えると自分の両側を走る車に向けて連射する。 いくつもの魔導光弾が射出され、次から次へと車に命中して爆発を起こす。 爆発的な熱と爆風が襲い掛かる。
 しかしそれはアリスの邪魔をする前に周囲に展開されていたシールドに阻まれる。
 爆炎と爆煙があっという間に周囲を覆いつくす。 それでもアリスは射撃を止めず、車道にいるであろう車を次から次へと爆破していく。
 吹き飛んだ破片が辺りにばらばらと落ちていく。


 ドゴン、ドゴンという音が腹によく響く。 そのほかにも人の悲鳴がたくさん聞こえてくる。 断末魔のものから運よく生き延びて車体の下敷きになった人のうめき声、それらは爆音にまぎれてアリスの耳に飛び込んでくる。
 「ククククク……ハハハハハハハハハハハハ!!!」
 アリスは本来の調子を取り戻し、ハハハと笑い声を上げ始める。


 それと同時に異変も起きる。 こっそり後ろを見ると、自分を追いかけてきたはずの矢を見る。 すでに爆煙が辺りに満ちて視界がきかなくなってきたが、魔力視のおかげで矢がどこにいるかは分かる。
 すると矢に異変が起きたのが分かる。
 突然制御を失い、適当な方向へと飛んでいくと、地面や車の破片、街灯に突き刺さったりする。
 それを見てアリスは確信を抱いた。
 「……どこからか見てる……」」
 爆煙に紛れ込んだとたんに制御を失ってあらぬ方向へと飛んでいった。 ぱっと見ではあるが矢は完全に煙にまぎれている。 つまり的は煙の外からこちらのことを見ていたことになる。
 アリスは一旦動きを止めると、一気に上昇し煙から抜け出る。


 そして結構な高度まで上がると辺り一帯を見下す。
 「…………魔力は……」
 近くにはいくつかの魔力の反応があった。
 アリスが立てた仮設はこの大量の魔力反応は矢を発射する装置か何かなのだろう
 そして、おそらく敵はそのうちの一つに偽装してこちらのことをずっと監視していたのだろう。 
 仮説が正しいことを前提にすると、おそらく一番近くに存在する魔力が敵の可能性が高い。 アリスは目を凝らすと道の端に一つの魔力があるのが見えた。
 「あれか……?」
 アリスはそれに見当をつけ、しっかりと見てみる。




 それはどう見ても普通の女性に見えた。 突然起きた大事故に驚いているようで、あっけにとられているようで、まっすぐ車の方を見ている。 どうやらアリスには目もくれていない様子である。


 どう見ても魔法少女には見えなかったが、アリスは攻撃を仕掛けることにした。
 両手の銃を構えると、銃口をまっすぐその女性の方に向ける。 そして引き金を引こうとする。
 その瞬間、アリスは背中に何かがストトッという何かが刺さるような音が聞こえてきた。
 「――ッ!! 油断した!!」


 どうやら後から飛んできた矢が刺さったらしい。 ずぶずぶという音がして矢がどんどん体の中に侵入してくる。 普通の矢なら刺さったところで終わりだが、魔法少女の放つ矢はそんなわけにはいかない。 操作できる限りずっと動き続ける。
 アリスは痛みを必死にこらえると、急いで引き金を引いた。
 光弾が放たれるとまっすぐその女性に命中する。
 「え――っ!!」


 バンッという音がして女性の上半身が吹きとぶ。 頭部だけがきれいに残り宙を飛ぶと地面に落ち、ゴロゴロと転がっていく。 体の破片も雨のようにビチャビチャ音をたてて落ちていく。
 これで矢の動きも止まるだろう。
 アリスは一瞬期待する。
 しかし、鋭い痛みとともに期待はどこかへと吹き飛んでいく。 矢は動きを止めることなく、アリスの体を突き刺していく。
 「―――ッ!! 違った!?」


 アリスは急いで腕を後ろに回すと刺さっていた三本の矢を握りこむ。 そして力を込めると一気にそれを引き抜く。 その瞬間、今までで一番の痛みが走る。 アリスは歯を食いしばってそれを耐える。
 ちなみにさっきまでもっていた銃は腕を後ろに回すときに取り落としてしまい、地面に落ちて消えてしまった。。
 アリス一瞬矢を見ると、思いっきり力を込めると、三本の矢を全て真っ二つに折った。
 「違った…………」


 どうやらアリスの仮説は間違っていたらしい。 
 さっき殺した相手の方を見る。 するとアリスは違和感に気が付いた。
 魔力視を顕現したままそれを見ると、死体にまだ魔力が残っているのが分かった。
 「…………おかしい」
 魔力は生命エネルギーだ、つまり死んだ人間から魔力が発生するはずがない。 ということは、この女性が魔力を発しているわけではなく、何か魔力を発するものを所持しているということとなる。
 アリスは周囲を警戒しつつ残った女性の死体を漁ってみる。
 すると、その半分残った腹部に何かおかしな紋章が出ていることが分かった。


 「これは……魔方陣?」
 「そうだね」
 「……クライシス、何してたの?」
 「ちょっとね、ところでどうだい?」
 「敵の能力がまだわからない」
 「ふーん、ところで矢が飛んできてるけど、それもバカみたいな数が」
 「え?」


 アリスは急いで後ろを向くと天を仰ぐ。
 すると十、二十程度じゃない。 五十以上はあろうかという矢がアリスに向かって飛んできているのが見えた。
 ヒュンヒュンヒュンという矢が宙を切る音がここまで響いてくる。 空を飛ぶ鳥が一匹突き刺さるも、そのまま勢いが死ぬことなく矢はまっすぐアリスの方へ向かってくる。
 どうやらさっきの隙に畳みかけて来たらしい。
 


77, 76

  




 アリスはそう叫ぶと急いで両腕を上げ、狙いをつける。
 そして連続で指を鳴らすと空間削除を発動して襲い来る矢を消し去っていく。 ガオン、ガオンという音が響き一回の削除で五~六の矢が消えていく。 アリスは額から汗を流し、指を鳴らし続ける。
 消されて残った破片が次から次へと地面に落ちていく。
 しかし、いくつかの矢は消失を免れてアリスの方へ向かってくる。



 一本の矢がアリスの顔面に向かってくる。 それとほとんど同時に左右から矢が迫ってくる。 腕を左右に伸ばし襲い来る矢を消し去るが、一本の矢が目の前から迫ってくる、これでは間に合わない。
 「――ッ!!」
 アリスはギリギリのところで首を曲げるとその矢をかわす。 先っぽの矢じりの部分が頬をかすり、血が流れる。
 そのまま矢は飛び去ってしまうかと思われたが、Uターンすると再びアリスに向かってくる。
 「うざい奴がぁぁっ!!」



 重力干渉波を一気に放ち高速で振り返りつつ、魔力の塊を右腕に出現させてそれをナイフへと変換する。
 そして振り返るときの勢いのままナイフを投げつけると矢を撃ち落とそうとする。
 ナイフが宙を切りまっすぐ矢へと向かって行く。 しかし矢は方向を変えるとギリギリのところでナイフを回避し、すれ違って行く。
 「まだまだぁ!!」
 意識をナイフに集中させる。
 するとナイフも方向を転換して矢の後を追って行く。 速度はナイフの方が早かったおかげでナイフはアリスに命中する前に矢をとらえるとその鋭利な刃で切り裂いた。



 アリスはそのまま自分のところに戻って来たナイフをキャッチすると、額から汗を流しつつホッと一息ついた。
 「はぁ……はぁ……、やった……」
 「アリス、あれを見てみろ」
 「はぁ……何っ!!」
 「あれだよあれ」
 アリスはクライシスの言うことに従うと、指さす方を見てみる。
 すると、近くにあるビルの壁、そこに何かがあるのが見えた。 しっかりと目を凝らしてみてみると、そこには何かの魔方陣のようなものが張られているのが見えた。 それは殺した女性にあったのと同じものだった。


 一瞬どういう意味かと疑うアリスだが、すぐにある仮説が思い浮かぶ。
 「あれが目かっ!!」
 「たぶんそうだろう」
 「くそっ!! どんだけ数があると思ってるの!?」
 「アリス、それを考えるのが君の仕事だ」
 「――ッ!!」
 アリスは苛立ちを隠すことなく顔を歪ます。
 クライシスはアリスがだいぶ苛立っているのを見て流れない冷や汗を流す。


 しかしアリスとしてはクライシスの言うことは正論なので何も言えなくなる。 
なので、アリスは情報を整理して何とか突破口を探すことにした。 とりあえず敵の能力は分かった。 おそらく、魔方陣を刻み込んだ物、もしくは人間に自身の「目」を取り付けることができるのだろう。 そしてそれが見ているものは自分が見ることもできる。
 そういうことなら納得がいく。 これだけ大量に「目」があればどこにいても確実に捕縛することができる。 アリスが来る前にあらかじめ用意しておいたのだろう。
 中々に厄介な能力だった。 数が多すぎてすべて破壊するのは面倒くさく、その隙に再び魔方陣を張られては何の意味もない。 しかも相手はこっちの位置が分かるが、アリスはいまだ分からないのだ。
 圧倒的不利だった。




78

どんべえは関西派 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る