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ベリアル 第四戦 その③

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 アリスが考え込んでいるとその隙を狙ってか、一本の矢がアリスの背中へ襲いかかる。
 しかし、強化された張力のおかげでそれを察したアリスは後ろを振り返ることなく腕を伸ばすと、それをつかみ、再び真っ二つに折る。
 「……やってみるか」


 アリスは一つ策を考えるとそれを実行すべくオフィス街の中心へと向かって行った。
 到着するまでの間、合計十五本ものの矢が襲い掛かって来たが、アリスはそのすべてを蹴散らして無事、目的地にまでたどり着くことができた。 
 中心、というよりはビルとビルの隙間の非常に狭い場所だった。
 アリスはそこで動きを止めると両腕を斜めに上げて構える。
 「……行くよ」


 アリスは指を鳴らし、空間削除を発動する。
 それも自分を中心として三六〇度、やたら目ったら適当に空間を消し続ける。 すると必然的に周囲の建物にそこそこ大きな穴が開いていく。 そこから悲鳴が聞こえてきたり、何か人の死骸っぽいものが見えるが気にしない。
 一分もしないうちにアリスは動きを止める。


 するとアリスを中心として放射状に削除であけた穴が無数に広がっているような形となる。
 「はぁ……はぁ……これで……」
 「アリス、大丈夫かい?」
 「うるさいなぁ!! ちょっと黙ってろ!!」
 「……ごめんなさい」


 素直に謝るクライシス
 本当は魔力を相当消費していることを教えようと思っていたのだが、どうやら魔力減少の余波を受けて相当イライラしているようだった。 さっきが痛いほどに感じられる。 下手に喋りかけると消されてしまいそうなので黙っていることにした。
 空間削除は相当魔力を消耗してしまうのだ。


 アリスは顔を上げると小さく呟いた。
 「これでどこから矢が来るかわかる……」
 そう呟いた後、かなり広範囲に魔力の結界を張る。 
 範囲切断で使用するこの技、アリスはある特徴に気が付いていた。


 切断を広げる役目を持つ魔力の結界、自分の魔導麗装から発生し、広範囲に張られている。 そのためか、この結界内に物体が侵入すると察することができるようになっているのだ。 
 つまり、結界を張っている間、三六〇度どこから矢が来ても察することができるのだ。
 アリスは意識を集中させ、顔を伏せる。
 一瞬、風が吹きアリスの髪をなびかせる。 緊迫した空気が辺りに満ちる。 シーンという静寂な音がどこからか聞こえてくるようだった。


 その時
 アリスから見て少し右斜め
 もっと細かく言うと四時の方向
 そこに何かが侵入してくるのを感じた。


 アリスは急いでそっちの方向を見る。
 すると、その穴から矢が向かってきていた。 その一瞬前、穴の向こう左手の方向から矢が飛んできて、穴の入り口に入ると同時にアリスの方を向いたのが見えた。 おそらくそっちの方向に射手がいるのだろう。
 「こっちかぁ!!」
 アリスはそう叫ぶと一気に宙を飛ぶと、矢に向かって飛んでいく。 剣を顕現すると矢をすっぱりと切り捨てる。



 そしてスピードをますます上げて穴の中を進み、出口に出ると急旋回し左を見る。
 すると、ひときわ大きいビルの方から何本もの矢が迫ってくるのが見えた。 強化された視力と魔力視を合わせて使いどこから矢が飛んできているのか探ってみる。
 一瞬の観察の後、アリスはどこに敵がいるのか分かった。
 ビルの向こう側だ。 矢がビルの左右から飛んで来ていることと、その奥に魔力の反応がある点からそう推測した。 しっかりと見てみると奥の方の魔力は他の物と微妙に反応が違うことが分かった。
 さっきまでその違いに気づかなかったところから、もしかすると敵は魔方陣の魔力に擬態する能力もあるのかもしれない。
 が、そんなことは関係ない


 アリスはさっさと終わらせることにした。
 「ぶっ殺してやる!!」
 そっちの方向に向かって飛んでいく。
 しかしそれを妨げるように何本もの矢が迫ってくる。 その姿はびっくりするぐらい煩わしいものだった。
 「邪魔すんなよぉ!!!!」


 アリスは大きく腕を開くと自分の周囲に十三本の剣を生み出す。 
 そしてそれらを操作すると矢に向かって飛ばす。 剣は日光を反射しキラキラとあたりに光をまき散らしながら一本一本確実に矢を切り落としていく。 しかし、それですべて叩ききることはできなかった。
 矢は次々と数を増やしていっているのだ。 しかも十三本も剣があるせいで全て完璧に操作できているわけではない。 多少動きがぎこちなく、動きも遅い。 アリスはそれに苛立ちを感じる。
 でも仕方がないと割り切る。
 残った分は空間削除で何とか消し去っていく。
 「くそぉぉぉ!!」
 アリスは何とか矢を回避すると高度を上げ、ビルの屋上を飛び越えるとその向こう側を見る。


 するといた。
 アリスが飛び越えた大きなビルに隠れるように立っている少し小さめのビル
 その屋上に一人の少女が立っている姿が見えた。
 やはりと言っては何だがその少女の姿もただものには見えなかった。


 少女が纏う麗装はまるで法王が着る服のような形状をしていた。 まるで輝くような真っ白な服を首から足先まで覆いつくすように着こなしていた。 余計な装飾などは一切ついていないのにもかかわらず、その姿はとても神々しかった。
 頭には鼻までを覆い隠すように大きな筒のようなものをかぶっていて、そこに刻み込まれている紋章はまるで巨大な目玉のような印象を与えた。
 そしてその魔法少女は右手には弓を持ち、左手には矢を握っていた。 どうやらさっきまでそれで攻撃してきていたらしいのだが、どういうわけか今は攻撃せず辺りをきょろきょろと見渡していた。
 どうやらこちらの姿を見失ったらしい。


 アリスはその隙をつくことにすると両手に剣を生み出し、それを握ると一気に下降、敵の少女の目の前に降り立つ。
 ストンと軽い音がして屋上に降り立つ。 その動きは激しいものの静かだった。
 アリスはそこで違和感に気づく。
 敵の少女はアリスが目の前に来ても何も反応を返さず、首をしきりに左右に動かし何かを探すようなしぐさを続けているのだ。
 「……?」


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 一瞬疑問に思うも、すぐに氷解する。
 この少女、目が見えていないのだ。

 アリスは両手の剣を大きく振り上げ、狙いをつける。 そして剣を振り下ろすとその少女の肩から先を切り落とした。
 肉を切る心地よい感触が腕に伝わってくる。 アリスはそれをじっくり味わいたい衝動に駆られるがそういうわけにもいかない。 見事に切断された腕は重力に引かれて地面に転がる。
 次の瞬間、切断面から噴水のように血液が噴き出した。
 バチャバチャと血液が地面に当たる音がする。


 敵の魔法少女は小さな声で「え……?」と言い。 そのまま動きを止める。
 次の瞬間、叫んだ。
 「ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
 「ハハハハハハハハハハ!! いい響きじゃない!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
 「……いつもの調子に戻ってる……」


 クライシスは絶句することしかできなかった。
 敵の少女は方の傷を抑えることもできず血を垂れ流しにしたまま痛みに悶えると、膝をつき、うなだれるとその格好のまま小さな声でうめき続ける。 どうやら痛覚麻痺が集中的に働いてるらしく、痛みのピークは過ぎたようだった。
 しかし、敵の少女に致命的な隙ができたことに間違いはない。
 アリスは二本の剣を宙に投げると形状を変化させ、槍を生み出す。 そしてそれを操作すると敵の少女の足、太もも部分に突き刺す。 それは見事に貫通すると足の動きを完全に止める。
 「アァアアァァ!!」
 「これで逃げられない……!!」



 アリスは満面の笑みを浮かべると新たに剣を一本生み出す。
 そしてその切っ先を敵の首元に突きつける。
 もうくだらない問答などするつもりは無かった。 魔力を相当消費してしまったことは自覚していた。 そのせいなのかどうかは分からないが、自分の顔面に異変が起きていることに気が付いていた。
 右頬の部分、そこが崩壊を起こしているのだ。 皮膚が粒子状の何かになって風にまかれて飛んでゆく。 すでに中の肉もくすんだ色になり、同じく崩壊を始めようとしている。
 どうしてこうなるのかは後でクライシスにしっかり問いただすつもりだった。


 「殺す」
 アリスがそう呟き、斬首の構えをとる。
 すると敵はそれを察したのか、唯一見ることができる口元が苦し気に歪み、ゆっくりと開かれる。
 そして、か細い声がゆっくりと漏れおちる。

 「……やめて……」
 「は?」
 「やめて……見ないで…………」
 「……は?」
 何かおかしい
 アリスは少し腕を下げると相手の声に耳を澄ませる。


 「見ないで……やめて………そんな目で見ないで……」
 「……何言ってるんだか」
 「やめて……やめて……やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
 「もういい、分かった」 
 アリスは剣を振るった。







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