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ベリアル 変化 その④

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 「柚木茂、ですか」
 「そうよ達也君、彼がアリスの父親」
 「……今何をしているんですか?」
 「どっかの企業の重役をやっているみたいよ。 それに今では七歳と五歳になる娘がいるらしいわ」
 「……そうですか」

 何とも言えない気分になる達也
 ここは小岩井研究所、クライシスの下半身の搬入作業が行われているので来ているのだ。 しかし、まだ搬入作業は始まっていない。 軍用の運搬ヘリ四機を動員して運んでいるが、まだ到着していない。
 その間、二人は前々から調べていたアリスの父親について話していた。
 想定以上に時間がかかってしまったため、こんな時に話していたのだ。
 調査書に載っている写真を見ると、そこにはまだ若々しい男性の姿が映っていた。 年齢は三十八歳らしいが、まだ二十代にしか見えなかった。
 こいつがアリスの父親なのか
 何となく腹立たしいものを感じる達也だった。


 「で、所長どうします?」
 「……引き合わせるかどうかという話のこと?」
 「俺は反対です」
 「どうして?」
 「アリス、殺しますよ。 たぶん」
 「…………」


 あり得そうな話だった。
 小岩井所長は小さく頷くと話を続けた。


 「じゃあ、このことは私たち二人だけの秘密ということで」
 「そうですね、じゃ、調査書は捨てときますね」
 「そうね、頼んだよ。 達也君」

 
 自分の判断は間違っていない、そう確信する達也だった。 百%とまではいわないが、九十%ぐらいの確率でアリスは自分の父親を殺すだろう。
 ボーッとそんなことを考えながらお茶を一口飲む達也
 すると、小岩井所長が話しかけてきた。


 「達也君、一ついい?」
 「何ですか? 所長」
 「君はアリスのこと好きなのかい?」
 「ブハッ!!」


 お茶を吹き出す達也
 急いでポケットからハンカチを取り出すと口元を抑える。 そして落ち着くまでそのまま抑え続ける。
 その後、少し焦った顔で達也は反論する。


 「な、なんなんです、いきなり」
 「いや、何となく、ね」
 「……そんなことないですよ」
 「本当?」
 「……これは同情ですよ」


 そうだ、これは同情だ。
 それ以上でも以下でもない。
 達也はそう結論付けていた。

 でも

 でも?

 でも、でもなんだというのだ?


 達也が少し混乱している時
 その混乱を引き裂くようにクライシスがやって来た。


 「やぁ、お二方。 僕の下半身が来たよ」
 「あ、あぁ、分かりました。 今行きます。 所長、行きましょうか」
 「そうね。 じゃ」



 こうして三人(?)は空が見渡せる所長室へと向かって行った。










 アリスは帰ることにした。
 
 今までと比べるとほんの少しだけ意気揚々とアリスはマリアの病室から出ていく。 そのまままっすぐ病院の正面玄関から外へ出た。 その瞬間に日光と、人々の喧騒と、そして自分を射抜くかのような冷たい視線がアリスを襲った。
その視線は敵意がこもっていて、それに違和感を覚えたアリスは顔を上げてみてみる。 すると出入り口を出てすぐのところに敵と思われる少女がいた。

少し簡素な服を着て、こちらのことを睨み付けている。 今までの奴とはタイプが違い、はっきりとした敵意を向けてきている。 その眼光は憔悴しきった眼から放たれえているものとは思えないぐらい強く、アリスは少し驚いてしまう。
 どす黒い瞳の奥には炎が燃え滾っているようで、後ろに何か背負っているようにも見える。
 怒っている。
 その少女は怒っていた。
 しかし、アリスには関係ない。 一歩踏み出すとその少女へと向かって行く。




 あと四戦
 あと四人と+αを殺すだけで自分は心残りなく死ぬことができるのだ。

 アリスは全力で敵少女を殺すことにした。


























 その日、アリスは絶望と歓喜を知ることとなる。







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