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ベリアル 第五戦 その①

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 アリスは変身し、敵の少女と相対する。
 まずは両手に剣を顕現するとそれをしっかりと握りこむ。 それを見た敵の少女は両手を大きく広げて空中に五つの赤い光を発生させる。 その次にその光が次第に細長く伸びていき、やがて槍へと変化する。
 顕現されたそれらは重力に引かれると、敵の少女の周囲にガンガンという心地よい音を鳴らしながら地面に突き刺さる。 そして敵少女は手を伸ばすと右手に一本、槍を手にする。


 しかしまだ地面から抜かず、用心深くアリスの方を見る。
 アリスは先手を打つかどうか一瞬悩む。 敵の能力が分からない以上、あまり接近戦を挑む気にはなれなかった。 理由は相手の武器が槍で、複数個顕現しているからである。 もし、武器に何か能力があるとしたら少し面倒なことになる。
 槍の長さはそこそこ長かった。 中距離戦が行える程度の大きさで、下手すると接近する前に能力による攻撃を仕掛けられるかもしれない。
 そう考えると、一瞬躊躇してしまう。


 「…………」
 「…………」


 お互い何も言わない。 間合いを計っているのだ。
 アリスは意を決すると、じりじりとすり足のように足を動かすとゆっくりと敵に向かって行く。 剣先を少女の首元に向け、いつでも切りかかれるようにする。 敵もそれが分かっているのか槍を大きく振りかぶるような構えをとる。
 投げるのか
 アリスはそれに警戒する。


 しかし、敵は投げない。
 緊迫した空気が流れる、二人は周囲のことなど目に入っていない。 奇行を繰り広げる二人の魔法少女の周囲を大量の観衆が囲んでいく。 パシャパシャという写真を撮る音も、「何あれ」という声もすっかり慣れてしまった。
 右から左へ聞き流す。
 ところが、観衆に気が付いた敵少女は何かそわそわし始めた。 アリスの方に槍の先端を向けて、いつでも投げられるようにしている。 だが、きょろきょろと視線を泳がし、観衆のことを気にかけている。


 額に皺を寄せるとただでさえ苛立たし気な顔がより一層険しくなる。 腕がプルプルと震えだす。 歯ぎしりをはじめ、そのギシギシという音がどこからともなく聞こえてくるようだった。
 瞳の奥で燃えていた炎がより一層大きなものになっていく。
 「…………っ………」
 「ん?」


 敵少女が何か呟いているかのようにもごもごと動く。 それに気が付き、アリスは怪訝そうな顔をする。
 一瞬、剣の先が敵少女からずれてしまう。
 その隙をつき、敵少女は動きを見せた。 








 「うざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!」


 突然大口を上げて絶叫すると、体を観衆の方に向け、思いっきり槍を投げつけた。
 常人をはるかに超える腕力で投げられたそれは、目にもとまらぬ速さで弧を描きながら宙を切り飛んでいくと、観衆が一番集まっているところに落ちていった。 あまりの速さに観衆は逃げることがかなわず、「ギャーッ!!」という叫び声が聞こえてきた。


 次の瞬間
 ドゴォォォォォォンッ!!! という爆発音が辺り一帯に響き渡る。 巨大な爆煙が上がると、空に向かって立ち上っていく。 その姿はまるで黒い龍のようで、アリスは一瞬見惚れてしまう。
 しかしそんな余裕があるのはアリスだけだった。


 観衆は大慌てだった。
 「ギャーッ!!」という金切り声や肉片がまき散らされる悲惨な声や音がアリスたちのいるところまで聞こえてくる。 敵少女は大きく肩で息をしながら、怒りに震えつつもその顔に大きな笑みが浮かんできた。
 どうやら相当満足しているようだった。


 アリスはこの攻撃のおかげで敵の能力がある程度分かったような気がした。
 「……爆発能力か……?」
 おそらくそうだろう。
 アリスはそう見当をつける。 というかほぼそれで間違いはないだろう、さっきのを見た限り、破壊力でいうと今までで一番のようだった。 観衆がいなくなった爆心地を見ると大きく地面が抉れ、真っ黒のクレーターが生まれていた。 ところどころ赤いのはおそらく血や内臓。 うごめいているのは動けなくなった人と思われた。
 もし命中すると、いくらシールドを張っていても、多少回避したところで身体が粉みじんになるのが簡単に想像できた。


 「くそっ……」
 中々に厄介な能力だった。
 敵の周囲にはまだ四本の槍がある。 油断すると吹き飛ばされてしまうかもしれなかった。


 やはり空間削除で畳みかけるしかないのだろうか。
 アリスがそんな考えに至った時
 敵少女がくるりと回ると槍を一本手に取り、体を回転させ、その勢いのまま腕を振るい手にした槍をアリスに向かって投げつけた。 さっきの倍以上のスピードでその槍は敵少女の手を離れ、まっすぐアリスに向かって飛んでいく。
 日光がそれに当たりキラリと眩い光を放つ。 
 アリスをそれを見て顔を歪ませた。
 「クッ!!」



100, 99

  





 この時



 この瞬間




 まさにこの時をアリスは後悔することとなる。

 アリスは致命的な判断ミスを犯してしまったのだ。




 高速で飛んでくる槍を見て、アリスは一瞬の間に何をするべきか決めた。
 全力で重力干渉波を発生させると、一気に宙に飛び出したのだ。



 この判断は間違っていなかった。 敵少女の能力の特性上、下手に切り捨てたり触れたりすると爆発を起こしてしまう。 そのため、アリスがそれを止めるには空間削除で槍を全て消し去すしか選択肢は残されていなかった。
 だが、両手で剣を持っている以上、指を鳴らすことができず空間削除が発動できない。
 そのため、アリスは全力の回避を選択した。


 しかしそれが悲劇を生んだ。


 アリスが回避した敵少女の槍、それはそのまま虚空を切るとまっすぐ宙を切り続けた。
 そして必然的にアリスの背後にある建物に命中することとなった。


 その建物とは何か。
 マリアの入院している病院である。



 正面玄関の自動扉を突き破り、紅蓮の槍が病院内部へと消えていく。 それはあっという間の、あまりにも自然なものだった。 ごくごく当たり前のようにやりは突き抜けていった。 まるであらかじめ決められていたかのように



 アリスでさえも何が起こったのかすぐには理解できなかった。



 病院のロビーで槍は着弾、するとその瞬間に大爆発を起こす。
 病院内、実に限られた範囲で爆発が発生する。 ドンッというあたりの空気を振るわす大きな音が響き、病院一階から二階にかけての窓が大きな音をたてて吹き飛ぶ。 割れた破片が光を反射してまるで涙のように地面に落ちる。
 爆発はそれだけでは終わらなかった。
 ドンッ!! ドンッ!! と小刻みに何度も爆発音が響く。 どうやら爆発はゆっくりと上階へと移動しているようだった。 三階、四階と窓が割れそこから火が噴き出る。 ところどころ壁が吹き飛んだり崩れたりしていく。
 どこからともなく悲鳴が聞こえてくる。 「ギャーッ!!」だったり「うわぁーっ!!」だったり「助けてくれ!!」だったり。 病院にいる患者や医師、看護師の断末魔の悲鳴だ。
 アリスは背後で起こった爆風に巻き込まれる。 シールドのおかげで吹き飛ばされることもなければ熱を感じることもない。 おかげでアリスはしっかりと病院が爆発を起こすさまをしっかりと見ることができた。
 やがて爆発は五階にまで達する。







「あ」






 そこにはマリアがいる。





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