史上最悪の絶望少女戦―開幕
長野県の山中
そこで二人の少女が戦闘を行っていた。
「ガハッ!!!」
「沙織さん!!」
一人の魔法少女が絶望少女の触手に弾き飛ばされて数十m向こうまで飛んで行くと、そこにある樹木に背中を打ち付ける
沙織と呼ばれた魔法少女は口から少し吐血した後、ぐったりと地面に倒れ込む。痛みのあまり体をうまく動かすことができずにそのまましばらく「ううぅ」と呻く。下手に動くとまた的になる可能性があるので、そのまま体の調子が戻るまで大人しく休むことにする。
ただ弾かれただけなのに、酷い痛みだった。
沙織が着ている麗装はまるで修道女の着るものに似ており、黒が基調で清楚なデザインだった。しかし服装とは不釣り合いな無骨な槍を手にしていた。
彼女が苦しんでいると、もう一人の魔法少女が姿を現す。
「大丈夫ですか!?」
「さ、咲夜こそ………平気なの?」
咲夜と呼ばれた魔法少女は純白のドレスを身にまとい、美しい髪をなびかせていた。それにどういう訳か沙織が持っているのと同じ槍を彼女も持っていた。
じっと見ていると沙織の傷が癒えていくのが分かった。
「……咲夜、敵は?」
「こっちに来ています……どうします?」
「ここまで強いだなんて………思ってもいなかったわ……」
ゆっくりと首を上げるとさっきまで敵のいたところ見る。
すると夜の闇の中から一つの影が姿を現すのが分かった。身長は2~3mほど、まるで新婦のような形状をしており、その手にはブーケを握っていた。彼女は周りの物が目に入っていないかのように、木々を踏みつけ一心不乱に歩き続ける。
まるで機械のように
感情などまるで感じない
ただひたすら前に進む。
ウエディングドレスの背中からは何本かの触手が伸びており、それが攻撃を仕掛けていたのだ。
二人はまるで抱き合うような格好でジッと絶望少女の方を向く。
このままでは埒が明かない。
そう判断した沙織はあることを決めると、手の中にメモ帳を生み出す。そしてそれを咲夜の手に押し付けながら言った。
「咲夜、お願いがあるんだけど……いいかしら?」
「なんですか? 沙織さんの頼みなら何でも聞きますよ!!」
「ここに、ある魔法少女の現住所が書かれているの。彼女の元に行って、この絶望少女のことを伝えてほしいの」
「え、それって……?」
「私はここで足止めをするわ。だから、気にせず行って」
「え……でも……」
咲夜はそう言い淀み、困惑する。この絶望少女に勝てないということは分かったが、納得がいかない。どうして自分が行かなければならないのか、自分に沙織を見捨てろというのか。そんなことできるはずがなかった。
だが、反論の言葉が思いつかなかった。
沙織は昨夜のことを押しのけて、ゆっくりと立ち上がると自身の武器を顕現する。
それは鏡だった。月光を反射して、キラキラと輝きを放っていた。
それをいくつも生み出すと、自分の周囲で待機させる。
覚悟を決めた沙織は絶望少女に向かって叫んだ。
「行くわよ」
「さ、沙織さん…………」
踏ん切りの付かない咲夜は、いまだにその場から動けずにいた。
それに気が付いた沙織は怒声を上げた。
「いいから行って!! あなたが死んだら……私は無駄死になる!!
「――ッ!?」
分かった。
沙織はもう諦めている。
それが分かった咲夜は唇をかみしめると、必死に涙をこらえて飛び出し、そしてそのまま空へと消えていく。何度も戻りたい衝動に駆られるが、その全てを振り切るかのように速度を上げていく。
鏡を携えた沙織は最後に自身の体から発した魔力で光弾を形成する。
「後は頼んだよ……咲夜、それにフレイヤさん!!!」
地面を蹴って前に飛ぶと絶望少女に向かって行く。
「さぁ!! 高木沙織の一世一代の大暴れ!! その目にしっかり焼き付けなさい!!!」
次の日、戦闘があった一帯が焼け焦げて焦土と化しているのが発見されたが、誰の遺体も見つからなかった。
それからしばらくして食い散らかされた人間の遺体が発見されることとなった。