史上最悪の絶望少女戦―訪問 その①
「今日もいい朝ね」
フレイヤはそう呟くと、布団の上で大きく伸びをする。
ここは柳葉町にあるアパートの一室
彼女はこの一年間ここに滞在していた。
ここ一帯は再開発地域に指定されており、何かが建設される予定だった。ところが建設会社の方で何か問題が起きたらしく、計画は頓挫した。その結果どうなったかというと,
住人が立ち退き誰もいなくなってしまった。
このアパートを中心として、数十mはだれも住んでいないのだ。
だが、どういう訳かライフラインだけはしっかりと残っており、生活するには何も問題はなかった。
野宿することも多かった彼女としては、アパートでの生活は非常に贅沢なものだった。
洗面所で歯を磨き、顔を洗ったリビングに戻る。そこで、あることに気が付いた。
「おなか減ったわ」
フレイヤはそう呟くと冷蔵庫の扉を開ける。
朝ご飯を食べなくても死ぬことはないのだが、生活リズムを崩すことはあまりしたくなかった。食パン一枚、牛乳一杯でもいいから口にしなくてはと思う。
ところがまともな食材が一つも見当たらなかった。
「あら? おかしいわね」
そういえばと思い出す。
昨日の晩に皆で食材を買いに行ったのだが、そこで絶望少女を発見してしまい、戦闘を行ったのだ。
そのせいでスーパーに行きそびれ、そのまま帰って寝てしまったのだ。
「困ったね」
このままでは食べることができない。
そう思ったフレイヤは、どうするべきか少し悩んでしまう。
だがすぐに解決案を見つけた。
一旦扉を開けて出ると、外付けの廊下に出て隣の部屋のドアを叩く。
すると中から返事が返ってきて、開いた。
「誰ですかぁ?」
「私よ、彩芽」
「えぇ!? フライヤさんっ!!」
寝ぼけ眼をこすっていた彩芽が驚きふためき、飛び上がる。
そしてすぐに覚醒すると冷静になってから話しかける。
「なぁ、なんですかぁ?」
「食料品がなくってね、朝ご飯、食べさせてもらえないかしら」
「あぁ……その程度なら構いませんよぉ」
そう言ってフレイヤを部屋へと案内した。
こうして二人は一緒に朝食をとることとなった。
「そういえば、今日は休日よね」
「そうですねぇ……」
「久美が午前中から来るって言ってたわ」
「そうなのぉ? じゃどうしますかぁ?」
「特に何もしないわ、あなたたちはもう一流だもの」
「そう言って貰えてうれしいですねぇ」
「フフフ」
二人は談笑していた。
ほんわかとした優しい時間が流れていく
この時間は永遠に続くかと思われた。
ところが、あっという間に幸せな時間は終わってしまった。
突然バガンッという廊下に何かが大きなものが落ちる音がした。それを不審に思ったフレイヤは、いったん箸をおいて立ち上がると、扉を開けて外を見る。すると誰かが倒れ込んでいるのが分かった。
一目見てそれが魔法少女だと分かったフレイヤは、急いで彼女のもとに駆け寄ると、体を抱きかかえて様子を見る。
するとそれに気が付いた少女は弱々しく顔を上げると小さなかすれた声で話しかけてきた。
「あ……あなたが………フレイヤさん……ですか?」
「ええ、そうよ。あなたは?」
「お…………お願いします!!」
そう言って少女は縋りつく。
両の手をギュッと握りしめると必死の表情でこう言った。
「私を……助けてください!!!」
こうして銀麗咲夜は無事にフレイヤのもとへとたどり着いた。
「よっす、久美さん」
「あら詩音、朝早いのね」
「そうでもないっすよ。普通です、普通」
久美は朝食を食べた後、フレイヤ達のところに行こうと思い、外に出たのだ。するとそこに詩音が待ち構えていたのだ。本当は家を出てすぐに電話をして、現地集合しようと思っていたのだが、その手間が省けた。
だが、それと同時にある疑問もわいてくる。
詩音の家はここからそこそこ離れている。具体的に言うと、電車で十分ほどかかる。歩けば三十分はくだらない。
ラフな格好をしている詩音はどう見ても何十分もかけてここまで来たとは思えなかった。
しかも、結構朝が早い。
「あなた、まさかここまで飛んできたの?」
「あ、ばれました?」
「バレバレ」
「すいませんねー、電車代なかったもので」
「もー、しょうがないわね」
「ハハハ」
笑ってごまかす。
詩音と出会ったのはほんの一か月前だった。
街中で誰の迷惑も考えず暴れまわっていた詩音を、久美が仲間に勧誘したのだ。始めこそ渋っており、なかなか首を縦に振らなかったが、ある絶望少女との闘いで自分達の戦いぶりを見てから考えが変わった。
今ではすっかり仲良くなり、フレイヤ、彩芽を含めた四人で絶望少女狩りを行っている。
ちなみに彼女は久美の弟子であってフレイヤの弟子ではない。
免許皆伝するには詩音を一人前にしなればならないのだ。
そんな理由もあって、最近は二人で行動することも多々あった。
二人は取り留めもない話をしながら、道を行く。
「そういえばさー、久美さん」
「何?」
「あの二人ってさ、結構いい暮らしをしてるよな」
「そうね」
「いくら人がいないって言ってもさ、電気代とかは大丈夫なのか?」
「あぁ、そこら辺は大丈夫よ」
「それまた何でですかい?」
「フレイヤさんの知り合いにね、ハッキング専門の魔法少女がいてね、彼女がごまかしているらしいわ」
「ハハハハハ、面白い」
「その代わり、定期的に絶望少女のコアを送っているらしいわ」
「へー、面白いシステムっすね」
「ま、世の中にはいろいろな魔法少女がいるのよ」