いくつかあやふやだった点があったので、お答えしよう。
わたしは普通の隊員として入隊した。一般的に普通の隊員というのは
※軍曹候補生と、任期制隊員の2つに分かれる。
(この物語は事実を忠実に再現しつつも、半ばフィクションを織り交ぜた
ハーフフィクションストーリーであるため、あえて実在の呼称を避けています。)
こちらの2つは前者が軍曹になることを前提に入隊する隊員、
後者が2年ごとの任期(最大3任期:計6年)で継続、満了、あるいは軍曹になることも可能な隊員である。
前者と後者の違いは給料・退職金の違いと、任用時の階級の違い
(前者は1等兵、後者は2等兵)と、襟元に桜のバッジ(隊員たちは「鼻くそバッジ(笑)」と呼んでいたが。)
の有無だけである。強いて言うなら、進路がはっきりしていない、あるいは将来は
除隊を考えているのならば後者を選ぶのが良い。
いずれにしろ、別に大卒でもなることが可能だ。
ただし、年齢制限があり28歳まで。要は志があれば誰でもなれるのだ。
皆さんが言及していたのは幹部候補生のことだ。任用時には曹長の階級が与えられる。
これは大卒の資格が必要で、試験内容もかなりハードである。
わたしは将来は軍人として骨を埋めようと考えていたため、
軍曹候補生と、幹部候補生の2つを受験した。
筆記試験はパスしたが、面接試験まで行き、最終的に前者の方を合格した。
幹部候補生はあまりよく覚えていないが、地方上級レベルの難易度だった気がする。
正直、選択問題がまっっったくわから無さ過ぎて止むなく英語を選んだが
かなり難しい日本語の文章を「全部英訳しろ」とだけ書かれており、
頭が真っ白になりながら、知っている単語をひたすら羅列していただけの記憶しかない。
わたしは将来軍人として英語の通訳官として働くのが夢だった。
まあ、いずれにしろ わたしが受験していた段階で
思い描いていたこの夢は叶うことはなく、目の前の現実という名の鉄槌に粉々に砕かれることになるのだが。
私自身も正直至らなかったこともある。いや、この際だからはっきりと言おう。
後々になって正義ヅラして騙しやがってとなるのも あれだ。
正直言ってわたしは陰湿なクソ人間だった。
先輩の差し入れのジュースに唾を混入したり、洗濯物に唾を擦りつけたりしたこともある。
もっとも私なりの理由はあった。
前者は日頃からわたしを「プレデリアンw」「害児」と呼び、
アイロンがけや靴磨きを強要し、私から20万近くの借金して踏み倒そうとしていた
浅見伍長(ワキガのくせに、わたしに「臭い」と何度も言ってきた)に
ジュースをパシりに買いに行かされた腹いせに、
後者はわたしの机の真上に洗濯物をぶら下げ、わたしが机に座るたびに頭に当たるような
吊り方をした同部屋の浅原に対して行った行為だ。
正直、もうこれでわたしに幻滅してくれてもいい。
どんな理由をつけようと、わたしがした陰湿な行為はクソに群がるハエ以下の行いだ。
部屋は驚くほど汚かったし、職場の資料を家に持ち帰って上司にどやされたこともあるし、
正しいことを言っているのにも関わらず逆ギレしたこともある。
風俗に行けば、お気に入りの娘ミア(仮名、バイオ7のミアに似ているため)さんにナイフの滅多刺しのような激しいピストンをしたり性欲の捌け口にしていた……
あろうことか、
「実際にレイプしていないからいいだろう、これしてなかったらリアルでレイプしてた」と自分で自分に言い訳をし、自分本位の快楽にうもれていた。
もうわたしは きっと誰かに愛されることはできないのかもしれない。
愛すことはできるかもしれない、だがそれが愛する人を傷つけることに
なるのが怖い。育ててくれた母には申し訳ない、孫の顔を見せられないわたしの不甲斐なさを詫びる。
挙句の果てにミスをすれば怒鳴られ、殴り散らかされるのが怖くて自分を護るために嘘をついた。そのために、その責任を取らされた同期が罰を受けたりしたこともある。
救いがたいカス野郎だ。
にも関わらず、その時は、自分が世界で一番不幸な人間だと思ってたし、
怒ってくる人間の方がクソだと思っていた。
だが、今となっては正直そんな自分を八つ裂きにしてやりたい時もある。
その話をするために、突然だが時計の針を現在に進めることを詫びたい。
正直、過去なんて何もかも捨ててしまいたいと思っていた。
かつて軍人時代にいた頃のシャツも写真も色紙も 何もかも破り捨てた。
辛い想い出しかない過去など かき消せる。
そう信じてわたしは今の仕事に専念し、必死に頑張った。
4ヶ月の試用期間の間、わたしは社長と……特に専務に目をかけていただき、
ついに社員になることができた。給料もかつてよりは安い。
休みも一日だ。 だが、手に職の就くこの仕事はわたしにとっては魅力的だ。
数は少ないが、ご贔屓にしてくれるお客様も出始めていてやりがいもある。
「ありがとう~ 酒屋先生」
そう言われるたびに、疲れなど一瞬で吹き飛ぶ。
いつしか国家資格を取るために夜学の専門学校に通いたいという夢も出来た。
無論、国家資格など無くてもできる仕事ではあるし、
国家資格や、学校では得られない知識や技術がここでは手に入る。
だが、悲しいことにここで得られる知識や技術は
「どうせ民間資格だろw」という心無い言葉で片付けられてしまう。
悲しいことに国家資格を持つ人々からだ。彼らもかなりの苦労を
してきたのだろうし、その想いが苛立ちとなって出てきてしまうのも
やむを得ないことだろう。
だが正直、そんな言葉を聞くたびにわたしは涙が出るほど悔しい。
たった一人でこの会社を築き上げ、今も現場で活躍している社長の苦労を
考えるとその言葉はあまりにも屈辱的だ。
ここの知識や技術は、もっと評価されてもいいはずだ。
わたしはそんな想いを抱えながら、新しい我が人生を謳歌していた。
だが、今の仕事に就いてある先輩Tさんと一緒に勤務することになった。
仕事が出来ず、ミスも多く、声も小さく、覇気も無く……
まるで過去の自分を見ているようだった。
突如として、わたしの脳裏に過去の自分がフラッシュバックする。
「おまえの捨て去りたい過去は いつまでもおまえを許さないのだ」
と
わたしに言い聞かせるかのように。
私はある日、彼の指導を頼まれるようになる。
昔の自分からは考えられなかったことだ。
いざ、彼と向き合うことになったわたしは かつての自分に彼を重ね、
必死に必死に怒らぬようにと堪えてきた。
あまりにひどい時は私もすこし怒ったりすることもあったが、
その度に、「カリカリするな、ここは軍隊ではないのだ。」と言い聞かせていた。
そして その度に深い自己嫌悪とフラッシュバックに襲われる。
過去に陰湿なクソ野郎だった
わたしに誰かを怒る資格はないし、自分も怒られるのが嫌だったから
絶対にしないでおこうと心に固く誓っていたはずだった。
だが、ついにわたしは切れてしまった。
会社と銀行との取引で生じた料金の金額が合わない事態が発生した時のことだ。
その取引を任されていたのはTさんだった。
Tさんはその金額が合わない理由を銀行のせいにしたのだ。
その時は先輩Tさんの言い分を信じて、彼と共に取引先の銀行に向かい、
Tさんの代わりに何度も謝罪しながら、忙しい中
銀行の方々に無理を言い、取引時の状況と、足りない料金の行方を追跡調査してもらった。
追跡調査の結果、銀行の方々に落ち度が無いことが判明するや否や、
Tさんの発言が二転三転し、ついにはよく覚えていないと言い出した。
最終的に、会社の方でもう一度原因を調査したところ Tさんの数え間違いであることが発覚。
完全にこちらの落ち度だった。
「おい、ワレェ こっち来いや。」
正直、シャバのビジネスマンとしては似つかわしくなく、かつ
わたしの出身地の関西弁では絶対に使わぬような荒い言葉遣いで
静かにTさんに詰め寄りながら、わたしは彼を会社の裏手の
人気のない路地に連れ出していた。会社ではお客様の目もある。
事情を知る専務は、自身も多数のお客様を抱える現場畑の人間だ。
オフィスに座ってただ命令するだけではない。人として尊敬すべき上司だ。
自身もお客様の対応に追われる中、彼を連れ出す許可を得ていたのが
唯一の救いだった。
「性根腐っとる蛆虫が……おまえ、何してくれたか分かっとんのか?」
わたしは怒りで震えながら、抑えろ抑えろと内なる声を無視し、
尋ねた。
赤っ恥をかかされたことではない。
わたしの顔に塗られた泥などどうでもいい。
問題は不確かなことを 相手のせいにしたことだ。
そして、相手の居る前で「そちらの方が渡す直前にミスをした」と責任転嫁したことだ。
Tさんが指をパキパキと鳴らし始めた瞬間、わたしの怒りは頂点に達した。
「なんで覚えとらんのじゃ!!ゴラァア゛ア!! おまえがやったことやろが!!
土壇場ンなって、なんで言ってることがコロコロコロコロ変わんのじゃ!!!
挙句の果てに、向こうさんに責任転嫁かボケがァア゛!! 今度、あの向こうさんと
取引破談になったら どうするつもりじゃゴラァ!!」
無口なまま、謝罪する先輩に わたしは目を見開き、怒鳴り散らしていた。
わたしと彼の間の空気は完全に凍りついていた。
「……もう ええ。 おまえ 二度と金触るな。さっさと帰れや。」
「……ごめん」
「謝らんでええってもう……もう……ええわ……おまえの言い訳なんか 聞きたない。
どうせ 嘘だらけや。おまえの言い分なんて耳障りやわ。」
もはや先輩後輩という立場もなかった。相手は私より2歳年下だ。
だが、年齢など持ち出したくはない。仕事上では彼は先輩だ。
だが、もう わたしは人として我慢が出来なかった。
「……でも」
「耳障りや言うとんじゃ!!!! さっさと帰れェ!!!」
完全に絶望に打ちひしがれた背中をわたしに向け、
途中退社する彼を見送りながら、わたしは一人座り込んだ。
かつて わたしはミスをするたびによく激しく怒鳴り散らされたものだ。
怒鳴り散らされ、殴られ蹴られ、何度わたしは絶望のどん底に叩き落とされただろう。
その度に何度心に誓ったことか。
いずれ人を指導する時は絶対に怒鳴らず、殴らず、蹴らずだけは破らぬようにしようと。
だが、わたしは怒鳴らずを破ったのだ。
自分がされて嫌だったことをわたしはしてしまったのだ。
(きっと……わたしを指導していたあの先輩たちも……こんな気分だったのか。)
滋賀との県境の空気は冷たい。見上げる曇り空が、冷たい空気をより一層凍らせ、わたしの心をドス黒く曇らせる。
結局、過去からは逃げられないのだなとわたしは思う。
いつか人はかつての自分と出会う……
その時に、果たしてその自分を人は許せるのだろうか。
生きるということは自分を許し許さない戦いの始まりなのだと思うのだった。
(会社に入ってからの件は、5割ほどフィクションを混ぜています。
どこまでが真実か否かは各々の判断に任せます。)