どいつもこいつも、私の見た目ばっか。見た目以外に大事なことはあるだろうが。
これが万札か。一枚一枚数えながら手触りを確かめる。精巧な透かしは技術の進歩だな。人類もついにここまで来たのかと感慨に耽る。
あいつが私を後任に指名したのはもうだいぶ前のこと。どこにでも行けるし、何でもできるようになると言われたけど、私はここでいいんだと答えた。断ったつもりだったんだけど、あいつには肯定だととられたらしい。世界は一瞬で色を変え、私は神様になった。ここでいいんだと答えたせいで、役目を終えるまでこの部屋から出られない。最悪なのはあいつが話しかけてきたのが、トイレだったってこと。
ここから出るためには仕事をしなくてはいけない。ボードには、観念して作ったエネルギーに関する法則が書き残してある。あんまり何も考えずに適当に作ったら、どうも時間ってものを歪めてしまったらしい。それ以来この部屋の時計は一日に二回しか正しい時間を示さないから、私には時間の感覚がない。人間が作ったものを手にとって、その進歩だけを元になんとか時間の流れを感じている。
たまにこの部屋を覗きに来る人間がいる。私からは見えないんだけど気配でなんとなく分かる。見られてるな、というねっとりとした感覚。大抵は私のことを観察して帰るんだけど、たまにこの部屋に世界の真理が隠れてることに気づくやつがいるみたい。そういう奴が現れると、世界は急に進歩する。そういう奴が次々いるだけで、私の仕事は早く終わる。それなのに。
どいつもこいつも、私の見た目ばっか。見た目以外に大事なことはあるだろうが。