夜に生きる
彼はよくその公園に行っていた
夜に行くのが好きだった
公園には小高い人工の丘があった
ゴミを埋め立てて造ったそれは外側が整備されてとてもきれいな円錐形をしていた
彼は平らになった頂上に佇んだ
そこからは彼の一日を過ごす学校とその周辺が見下ろせた
あくせく生きても怒られても楽しんでも夜になればすべては静まりかえり、
街は昼間見せなかった側面を見せた
その日は夜風が気持ちよかった、蒸し暑いのも気にならなかった
丘の上から見た町はしんと静まり返って、学校と街灯数台の車の明かり、
漁港の明かりくらいがともっていた
丘の頂上に風が吹き抜ける
想像する
町の東の山の端から太陽が昇りそして沈みまた夜がくる
太古の昔から何万回と繰り返される現象を自分だけが観測している
昼間死にたくなったり落ち込んだりすることがどうでもよくなる一瞬
丘の上から世界を俯瞰する
人間を移り変わる自然の一つだと感じた
生きていくことの本質を見た気がした
彼は日ごろ恥ずかしくてできないポーズをとった
自分がこの町を支配している気持ちになった
だれも気が付いていないことに自分だけが気が付いた気がしたのだ
誰にも気を使わない、怒られない夜の世界の存在に気が付いたのだ
その世界からみた昼間の人間の慌ただしさといったらない
「重大な事実」
と、どうじに朝が来ると溶けてしまう魔法でもあった
彼は深夜もとうに過ぎた頃アパートに戻った
途中、犬を追跡した
夜だからできた
昼間だせなかった動きができる
だからポーズもできた
毎日の暮らしは死の危険こそはないが
気を使い、結果喋らず動けず、そのうち周りとの関係も薄くなっていった
どうすればいいのかわかっていたのにその行動がおこせず、
自分が不利益を被ったり怒られたりする
突き詰めていえば楽な選択をし続けた
リスクを取らずにリターンを取ろうとしていたからなのだろうが、
昔から黙りこくってきた彼には会話や行動の中で周囲と自分に
折り合いをつけることが実体験としてなく、頭では分かっているのだが、
中途半端に頑張るとそれも自分を不安定にするのだ
結果いつまでたっても安定した関係が築けず、会話もできなかった
毎日、人生の意味を悲観的に考えるようにもなる
そして彼は家に戻ってくることはなかった
やさしい夜の世界にいってしまった