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旅の仲間

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◆ミシュガルドSHW交易所 仲間探し 1日目

体臭のキツイ依頼主が席を立つと、私はすぐさま遺跡に潜る仲間を集め始めた。
酒を煽っている1人の冒険者に近づき、名前を呼ぶこともなくその背中に囁く。

「明日潜るから。日当300YEN。酒、肉制限なし。財宝山分け」
「お前と仕事するとロクな目に合わない気がするが……」

魚人の女戦士が参加表明を皮肉交じりに伝えてくる。勿論、そんな憎まれ口は右から左に流して捨てる。

「あと2人。ガザミ、恋人でも誘う?」
「いねーよそんなモン。誰でもイイけどな、腕が立つヤツにしろよ?」
「努力はする」

明日の集合時間だけ伝え、テーブルを離れて視線を巡らす。
直立している豚と目が合う。比喩ではない。直立した豚としか言いようがない生命体がいる。
(あとで知ったが、穏やかな性格のオークだったらしい)
亜人にガザミのような、コスプレしてるだけの人にしか見えない種族と、
豚とか狼とか虎とかの獣が二足歩行してるようにしか見えない種族がいるのは不思議だ。
ともあれ、この豚ちゃんは非常食にはいいかもしれないが、戦力にはならない──。

「仲間を探しているのですね……」

不意に横から声をかけられる。
見れば、大きな白い魔導帽を頭に乗せている11歳かそこらの子供がテーブルに腰掛けていた。

「お姉さん、魔法の助力がほしくない?ボクが力になってあげるよ……」

子供を連れていけるような仕事ではないが、魔法の力は侮れないものがある。
ガザミと私とで前衛は足りているのだから、悪い申し出ではない。

「仕事は遺跡潜り。日当は300YEN。財宝山分け。出発は明日の日が昇る前。でも子供をパーティーに入れるのはスキじゃないから。他に良さげな人が居たらそっち優先するけど、いい?」

補欠扱いだったが、少年はそれでいいよと微笑んでいる。

「日当もお宝もいらないよ。だからボクの取り分は全部お姉さんにあげる。でも代わりに欲しいものがある……母乳をください」
「……」
「母乳をください……」
「……」
「母乳を……ください……」
「さて……2人目は~あ、そこの君。ちょっといい?」

おっぱいは宝だのなんだのと騒ぐ魔法少年をひっぺがし、手近な場所で食事をしている駆け出し冒険者風の男の子に声をかけた。

「ア?俺?」

見た目通りの生意気盛り少年、といったお返事である。
腰に下げているのは、おそらく何らかの魔力の秘められた短剣なのだろう。
察するに、シーフか何かに近い仕事をするのではないかと思われた。

「うん。君。明日潜るんだけど、来ない?日当は300YEN。財宝山分け。食料その他スポンサー持ち」
「へ~……」

ジロジロとこちらの様子を伺っている。私の腕を値踏みしているのだろう。当然の反応だ。
なんなら腕相撲でもしてみる?と虐めてやりたくなったが、そう切り出す前に彼は前髪を掻き上げ名乗りを上げた。

「トレジャーハンターのケーゴだ」
「じゃあ、ケーゴ。明日の朝、ここで」

視界の隅に映るガザミが、うげ!ガキじゃーん!と顔芸で伝えているのに気付いていたが、それは無視した。
さっさと定員を埋めないと、魔法少年に何をされるかわからない。
3人目を探して酒場を一周したが、今日に限って、ベテラン冒険者の姿が見当たらない。
日頃男達と張り合っているが、こんな時に自然と男性冒険者を探してしまうのは少し悔しい。

「ヒザーニヤもいない……」

弓の名手である傭兵の名前を呟く。
彼の弓の腕は是非とも欲しかったが、その姿は見つけられなかった。

「うわ!女トロルが男探ししてるぞ!発情期だー!」

足元に来てキャッキャと囃し立ててる近所のガキを無拍子に捕まえて裸にして梁に吊るす。

結局その日は、ローパー退治の疲れもあり、最後の1人は明日の朝捕まえる事にして二階の宿へとあがった。

◆ケーゴ

宿の自室に戻った男の子は頭を抱えていた。
寝れない。
明日の冒険に胸が高鳴り、興奮して寝付けないでいるのではない。

「トレジャーハンターだ……(フッ」

などと自己紹介したものの、彼の冒険者としての経験はまだまだ極々浅いものだったからだ。
今更ながらに、プレッシャーに押し潰されそうになっていた。

判断を誤ったか……?と自問自答する。

今回のパーティリーダーは女性で、自分より年は上だろうが、そこまで差があるわけでもない。
「慣れっこ」な空気ではあったが、特に凄みはない。
そんな彼女がこなせる仕事なら、自分も軽くこなせないとかっこ悪い……。かっこ悪い……。
それ故に、本当は言わなければならない言葉を飲み込んでしまった。
言うべきだったのだ、正直に。「俺、まだまだ駆け出しだけどいいの?」と。

繰り返すが、相手はちょっと年上のねーちゃんだった。

「トレジャーハンター目指して頑張ってるケーゴです!よろしくおねがいします!」

などと言えるわけがない。男の見栄だ。
繰り返すが、そして何より、エロいカッコしたねーちゃんだった。

「えへ。俺、元商人の家の出で、トレジャーハンターになりたくてココに来て……ケーゴです!がんばります!よろしくおねがいします!」

などと言えるわけがない。
寧ろ理想の立ち位置は、そう、魔物に苦戦する女戦士を援護し、魔法剣による中距離攻撃で華麗に屠る。

「ケーゴくん、やるじゃん!」
「別に?コレくらい普通だよ……」

トラップに引っかかりそうになった女戦士を制して、罠の所在を知らせ、チョイチョイと解除する。

「ケーゴくんにまた助けられたね」
「やれやれ。俺が居なければどうなっていたか……」


「うわあああああああ!!!!」
頭を抑えてベッドを転がる。落下してそのまま床をも転げ、壁にぶつかって止まる。
自分の理想を守るために、現実と戦う。なんというプレッシャーだろうか。
その時だった。窓の外から薬売りの声が聞こえてきた。

「薬~。いらんかね~。薬~。なんでもあるよ~」

「薬屋!こっち!こっち!」
「ややっ!切羽詰まった感じのお兄さん!ハハァン、さてはアレだね!わかった!そっち行くよ!」

ケーゴは窓から身を乗り出し、鬼の形相で薬売りを呼び込んだ。
招き入れた薬売りはロイカと名乗った。アレ?女の子か?と身構えたが、すぐに同い年くらいの男子であるとわかった。
一緒にいる魔法生物みたいな大男(?)はアルドと言うらしい。

「じゃあ、コレね。一包飲めばバッキバキ。二包飲めば果て知らず。三包飲めばどんな女の秘肉も貫く無敵の神槍と化す……」
「ち、ちげーよ!」
「ありゃ?違うの!?」

夜に宿で切羽詰った顔してたもんだからテッキリ「ソッチ」の悩みかと!いやいや失敬!と己の頭を小突くロイカ。

「ほんとそそっかしくて。そっかそっか。じゃあこっちだ!コレね。この一包を酒にでも混ぜて飲ませれば、どんな堅い女でも所構わずお兄さんの前で股を開く…」

ケーゴに殴られてタンコブを作ったロイカが、目当ての薬を調合し終えたのは、それから一時間後の事だった。

「こっちが聡明薬。頭が冴えて、精神的なストレスも遮断するよ。集中力が増して敵の剣は止まって見える。水無しで飲めて効き目は30分。一日6回まで服用」
「ふんふん。30分6回か……」
「で、こっちが、覚醒薬。鼻から吸い込んでね。超強力な自己暗示を自分にかけて、自分の限界を超えてパフォーマンスを引き出せるよ。体質に合わないとバッドトリップするけど、今の所見たこと無いね。多幸感すごいから、自分が無敵になったように感じて、それに体も引っ張られるんだ」
「へ~……いろいろあるんだな~」

オーダーした薬を受け取る。それだけでなんだか安心して気持ちが落ち着き、明日に備えてぐっすり眠れるような気がした。

「ありがとうな。助かった」
「なんのなんの!まいどまいど!おおきにおおきに!こっちは商売だから!そうだそうだ。さっきのコレ、ついでにあげるよ!よかったらリピートしてね!じゃあねー!!!」

セールストークを決めていたイカガワシイ2種類の薬をケーゴに渡して、ロイカとアルドは宿を後にする。

「いや~。2種も調合すると疲れるね!でもアレだね!人の役に立つっていいよね!」
「薬屋さん……」

アルドに話しかけていたつもりのロイカは、いつの間にか隣りにいたホワイト・ハットにうひょお!と飛び上がったが、すぐにセールスモードとなる。

「びっくりした……あ。薬っすか~?入り用っすか~?」
「うん……匂いを嗅がせただけで二次性徴期以降の女性のおっぱいから母乳が吹き出して止まらなくなる薬がほしい……」

ロイカは立ち止まり、しばし考え、真剣な顔で魔法少年を見た。

「そんな薬ないっす」




◆ミシュガルドSHW交易所 2日目 午前

「さて……」

共にダンジョンにアタックする3人目の冒険者を求めて、女戦士はまだ外も薄暗い早朝から活気にあふれている酒場に降りる。
大事な大事な仲間ガチャ。
早速Sレア級の逸品を見つけ、駆け寄った。

「ハイ。ダンディ」

声をかけられた壮年男性は、ゆっくりとこちらへ姿勢を正す。

「おはよう!いい朝だなお嬢さん」

ダンディ・ハーシェル、51歳。
ビシッと伸びた背筋、その体から漲る気配はベテランのそれ。
顔深くに刻まれている皺の一つ一つも強さの証に見える程頼もしい。
装備もスタンダードな片手剣。その選択もシブい。
持ち主の技量で如何様にも使える、基本にして全て、そんな武装であるのだ。
(もっとも、数年前までは大声を上げて大剣を振り回すスタイルだったらしい)

「今日、潜れる?」
「うむ……実は……」

ダンディは顔を赤らめ、若干モヂモヂする。

「今日は妻の誕生記念日なのだ……」
「あー……。それは確かに。おめでとう。奥様によろしく!」


彼が加わったら前衛3になってしまうのだし、これは仕方ないか、と自分を納得させて傍らを離れる。

「ホワイト・ハットのここ、あいてますよ……?」

いつの間にか並走している魔法少年には「オハヨウ」とだけ伝えた。
私とガザミとトレジャーハンターくんとこの子。この歪なパーティーで地下に潜る。
それを考えると、やはりもう少し粘って仲間を探すべきだろう。

「おーっす」

ガザミも酒場へと降りてきた。並の人なら夕食の2人前に相当する肉料理をオーダーしている。
彼女が朝食を食べ終える頃までが、時間的なリミットか。

「しかたない……」

昨日、依頼を受けてる時も見かけた、陰キャまるだしな青年へと接近する。
彼は売れ残ったペットの如く、昨晩と同じ場所に鎮座していた。

「ちょっと、いいかな?」
「俺か……?」

剣を抱き込むように抱え、更にマントに身を包むようにしている、漆黒で固められた長髪の青年。彼は目を合わせないまま返事をしてきた。
一瞬盲目の剣士であるのかと思ったが、そうで無いことは直ぐに分かった。

「これから、遺跡に潜るんだけど、どう?」
「これから……?」
「ええ。仲間を探しています。1人はアッチにいる、肉食べてる赤い硬そうなアレ。もう1人はまだ子供だけど、トレジャーハンターだそうで」
「フッ……なるほどな……」

これはアレか、カッコつけているのだろうか。
でも私は知っている。この青年が3秒に1回おっぱいを見ている事を。

「俺の剣が……必要か……」

会話のテンポの悪さに多少イライラする。
ダメならダメで、さっさと次の交渉相手を見つけないと、隣でぴょんぴょんしてる魔法少年を連れて行く他なくなるのだ。

「ええ。日当は300YEN。財宝山分け。食費その他の経費はスポンサー持ち。返事は?」

ぐぐっ!と彼に身を寄せ返答を迫る。
青年の目が泳ぐ。その五体よりにじみ出るコミュ障感。ダンディとはエライ違いだ。

「おはよーさん」
ケーゴも降りてきた。いよいよ残り時間が少ない。
私は彼を手招きでよび、ガザミもメンバーであることを伝えて、共に朝食を済ませることを提案する。
そして再び陰キャくんへと向き直った。

「こっちの都合で急かして悪いけど、出発が──」

刹那。急に下腹がスゥっとした。
酒場の窓は開け放たれていて、朝霧の中を流れてきた風が涼気となって股下を流れた。
おっぱいに囚われていた会話相手の青年の視線がすばやく落ちて、今や私の股間に瀬々と注がれている。
振り向けば、ガキんちょが居た。
特別聡明さは感じないが、澄んだまっすぐな目をしている。
燃えるような赤髪は、健やかな成長を感じさせる。
私のパンツを膝上までおろしているその腕は、行動力の高さを伺わせた。

「女トロル!吊られた仲間の仇!フリオ・パオの正義の鉄槌を受けよ!」
「……」

パンツを掴んで、グッとフリオの腕ごと上げ直す。
子供は再びパンツを降ろそうと腕に力を入れる。二人は暫く無言のうちにパンツを引き合った。

「お尻からも……母乳が出たらいいのに……そうは、思いませんか……?」

居合わせた大半が見て見ぬふりをしてくれている気まずいムードの中、魔法少年はなんか勝手な事を言っている。

「フッ…………あるいは…そうかもしれないな……俺は、フォーゲンだ」

沈黙に耐えかねた漆黒青年がいらん相槌を打ち、何故かこのタイミングで自己紹介を挟む。

「見事だ少年!!!」

次いで、緊迫感漂い始めた酒場内に尚も空気を読まないごん太なセリフが響く。

「誰だ!?」

酒場の皆が声につられ見れば、ワイングラスを持ち窓枠側の壁際にもたれる人影。
身長160センチ程。絵に描いたような中肉中背系の中年体系の、紫の全身タイツに身を包んだ……直立した猫。
彼の鼻の上。狭い額の前にはキラリとひかるサングラス。
再び涼風が凪ぎ、亜人の白マントをハタリと翻らせた。

「きさまは居住区内のみに出現するという下着泥棒!危険度ヴェヒター(言うほど危険ではないが、目障りなら討伐して)!!ヘンタイガー!!!」
「ククク……」

交易所に所属の警備兵モブナルドがその名をコールする。
誰にともなくピッと人差し指中指を揃え立ててみせるヘンタイガー。

「坊主。男なら何度でも挑めよ……」

彼は謎の笑いを残し朝日に照らされ始めた街へと消えた。


茶番の後の静寂──。

ため息をつく。やれやれと肩をすくめる。フリオの手がこそ~っとパンツから離れた。

「あー。もうホンット。これだから男共は……フフッ」

天井へ向け深呼吸する。火照った頬をパタパタと仰ぐ。
フリオは大きな目を更に大きくしてこちらを見ている。

「このクソガキ……っ!」

子供達はうわー!と恐怖の悲鳴を上げて出口に殺到した。
そのタイミングでハーフオークの戦士が入ってきて、フリオ達は彼のお腹に玉突きで衝突する。
人のことを雌トロルだのなんだのと騒ぐ彼らだが、掛け値なしの雄オークの出現に立ち尽くし、1人は失禁する程ビビって後ずさった。

「どけ」

彼は人をぞんざいに扱うことに慣れた冷たいセリフを吐き、子供を蹴飛ばして中に入ってくる。
癇に障った。

「ちょっと。子供に──」

自分の行為を棚に上げ、彼を非難する。
ハーフオークは真っ直ぐこちらに向かってきた。そして眼前で止まる。

「むっ」

ダンディが唸り、腰を浮かせる。
ガザミもケーゴも、こちらに動き出す素振りを見せた。
ホワイト・ハットはぴょんぴょんしながらやや後退し。
フォーゲンは凍りついたように微動だにしなかった。


「シャーロットだな?ボルトリックの使いだ。迎えに来た」



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