序章
燃え盛る戦場やうず高く積み上げられたイーターや人の死体を背景に
叫び声や何かが崩壊する音が響き渡る中で
少年はいつも以上に興味なさげな顔で彼女の方を見ていた。
彼女は完全に機能を停止したライダースーツを身に着けていた。マスクは半壊していて、右目周辺の装甲は完全になくなっていて中が覗けるようになっていたが、そこはすでに血まみれで肌を確認することはできない。右腕があるはずの場所には何もなく、まだ無事な左腕でそこを抑えて出血を最低限に抑えようと努力していた。
満身創痍を体現したかのようなその姿だが、まだスーツの裏に隠されている左目には怒りと様々な感情が入り交じり、何ら変わらぬ姿で立つ少年を睨みつけていた。
一瞬でも気を抜くと、気を失ってしまうかもしれない。しかし彼女は不屈の意思でその場に立っていた。
そんな彼女の方をちらりとも見ようとしていなかった少年だが、少し表情を複雑なものに変えると彼女を見た。
そしてその痛々し気な姿を見て悲しげな顔をする。そのまま二人は静かに見つめあう。といっても彼女は睨みつけている、といった方が近いのだが
緊迫した空気が流れる中
先に口を開いたのは少年だった。
「ごめんね。こんなことに巻き込んで」
「…………」
何か返事をしようと思った彼女だが
どうにも口が動かない。思った以上に衰弱しているようだ。
それが分かっているのか、少年は言葉をつづけた。
「もしさ、また僕と君があったらさ」
「…………」
「その時は、君が僕を殺してよ」
静かな
でも、決意のこもった声。
それを聞いた彼女は、
小さくもはっきりと頷くことしかできなかった。
そこで彼女の記憶は途切れている。
そして「あの事件」から三年の月日がたった。