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一話 「出会い①」

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 もともとは東京二十三区と呼ばれてたそこは今では「封鎖区域」と言われ、誰も近づくことがなくなった。三年前に起きた「あの事件」のせいで、二十三区を隔離するように巨大なフェンスが張り巡らされた。全長8mもあるその壁は全体ではないが一部だけだが電気まで走っている。絶対に何物も通さないという固い意志を感じる。
 「あの事件」が起きてからこの壁ができるまで半年もかからなかった。普段と比べると圧倒的な早さだった。だが、そのせいか一か所だけ小さなほころびがあった。
 それに気づいたのがどこかの悪意のある人間ではなく、一人の青年だったというのはある意味幸運だったのかもしれない。

 フェンスには何か所か扉が備え付けられているのだが、そのうちの一つの鍵が壊れているのか簡単に開くのだ。どうしてそれに気づかないのだろう、その理由は単純で「封鎖区域」に好き好んで近づく者はいないし、パッと見は壊れていないようにしか見えないので気づかれずにいたのだろう。
 そしてそれはその青年――星宮天吾にとっても幸運だった。
 彼は一年に一度、四月の初め。そろそろ桜がみられるであろうというその日に必ず封鎖区域に、そこにあった自分の家族の家へと向かうのだ。そしてその日は「あの事件」が起きた日でもある。


 その日、星宮は突然天涯孤独の身となった。
 そしてそれは三年たった今でも変わりはない。



 封鎖区域内はあの時からほとんど変わってない。ビルや民家、電柱に信号機まで、人気が全くなく電気も水も一切通ってないことを除けば。だがそれはほんの一部の地域をだけだ。星宮が向かっているところは昔の面影はあまり残っていない。
 フェンスから歩いて二十分から三十分の所にある、一番激戦区だった場所だ。

 そこは文字通りの焼け野原だった。脳裏ににもしっかりとその光景は焼き付いている。燃えさかる家々、悲鳴を上げ逃げる人、薄れていく声、薄れる意識、そしてすべてを壊しつくす怪物。目を閉じれば瞼の裏に投影されているかのように思い出すことができる。だが、今はその時ではない。
 焼け野原となった場所は今はコンクリートで整備され、何も残っていない。あれだけあった瓦礫はすべて封鎖区域内のある場所に集められ、遺体はすべて埋葬された。ただ、プレハブ小屋のようなものがいくつか残っている。
 それは埋め立ての業者が利用するために残されたもので、今でもたまに瓦礫の持ち出しやらで活用されている。青年はそのうちの一つ。自宅のあった場所の上に建てられた小屋の扉の前に立っていた。



 服装はお気に入りのジーパンにジャージを着て、手には何も持っていない。適当に刈り上げられた黒い髪にやけに澄んだ瞳をしているが、そこには何も映っていない。星宮はプレハブ小屋の扉に手をかけると、ゆっくりとそれを開く。鍵はそもそもついていない。おそらく二年も残っているとは想定していなかったのだろう。
 それは星宮にとっても同じだった。来年には奴らに手によって跡形もなく壊されているものだと思っていた。一年ぶりの訪問に懐かしさを覚えるも、そんなに物があるわけではない。一階にはリビングと簡単なキッチンしかない。
 星宮はとりあえず中に入り扉を閉めると壁にもたれかかって「ふぅ」と息をついた。
 普段あまり運動も遠出もしないせいか、少々疲れた。


「…………みんな来たよ」


 今年も今日が来た。
 家族を弔うためにここに来る。でも、供え物とか入らない。ここにいて、そして亡くなった人のことを偲ぶ。それだけでいいのだ、それだけで。

「…………」

 いつもそうなのだが、ここに来るまでにいろいろと考えているのだが、いざ来ると何も考えられなくなるし、何も言えなくなる。あの日のことを鮮明に思い出してしまい、それどころではなくなるのだ。
 あの時自分はまだ十六歳だった。
 何が起きたのかよくわからないまま、目の前の惨事を見守ることしかできなかった。



 燃えさかる町々。炎と人々の死体を背景にそびえたつ巨大な影。
 そしてそれに対峙する一つの影。まるで昆虫のように光り輝く二つの目に、炎の明かりに照らされ怪しく輝く黒とも緑ともつかない色をしたその全身。悪魔にも見えるそいつは何の躊躇もなく地面をけって飛び上がるとその巨大な影に向かっていった。
 そこから先は覚えていない。一段と大きな煙が上がるとその二つの影を覆い隠してしまったのだ。それに星宮は身の危険を感じていたので、気にはなったものの、すかさずその場から逃げたのだ。
 結局東京二十三区内のほとんどの住人は避難に成功したらしいが、星宮の住んでいた世田谷区から逃げ延びた人はほんの一握りだけだったらしい。そして星宮はそのうちの一人だ。
 あの事件がなぜ起きたのか、原因はわかってない。
 何が起こしたのかははっきりしている。
 EATER―イーター―と呼ばれる怪物だ。そいつらが初めに現れたのは十五年ほど前。年号が変わった年のことだった。まずは東京に現れ、街中で大暴れしたのをはじめとして、日本各地で出現した。一応世界中に現れていたようなのだが、最も被害が大きく、問題視されたのは日本だった。
 その名の通り、奴らは喰うのだ。人を、物をすべてを食らいつくさんとする。どこから現れたのか、何が目的なのか。それらは一切はっきりしていないが明らかな悪意を向けて襲い掛かってくる。

 ここは封鎖区域
 三年前に大量のイーターが突如出現し、すべてが終わった場所。そして大量のイーターの住みかとなっている。といってもこんな端ではなく、もっと中央区に多く生息しているらしい。この二年、ここでイーターと遭遇したことはない。
 そしてここは僕にとって一生忘れられない場所でもある。
星宮はここでは死ななかった。
 じゃあどこで死ぬべきなのか。
 彼には見当もつかなかった。
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