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「万物流転」頭脳警察

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動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=0VfmlKP9dyE


 近頃は作家さんのTwitterを見て、その影響で何かを読んだり聴いたりすることが多くなった。吉村萬壱氏のTwitterを眺めて、氏が関わっている文学賞の過去の受賞者の小説を読んだり、選考する短編小説の賞に応募したり。
 伊東潤という時代小説作家さんが近頃頭脳警察のことを頻繁に呟いているのを見て、久しぶりに頭脳警察を聴きたくなった。
「コミック雑誌なんかいらない」
「ふざけるんじゃねえよ」
といった初期の曲は知っていたが、そこから外れた「万物流転」が気に入り、最近は延々とリピート再生していた。
 そこでふとSpotifyの「月間リスナー数」という数字が気になり、感覚的に頭脳警察に似たあたりのバンドの人数を調べてみた。

頭脳警察:2,996人
THE STALIN:8,527人
JAGATARA:2,153人
INU:8,170人
あぶらだこ:1,334人
アナーキー:6,240人

 あぶらだこが一番少ないのは納得。
「月間リスナー数」というのは、そのアーティストを一ヶ月間の間に一度でも再生した数となる。延々と一組のアーティストを聴き続けている人も、「90年代ヒット曲」といったプレイリストをなんとなく再生してその中に含まれていた一曲を聴いた人も、同じく一人としてカウントされる。再生時間の合計数の方が実際の聴かれ具合を表すだろうが、とりあえず「そのアーティストに触れた人数」といえるだろう。

 私が書いているこの「音楽小説集」は今回で149回。途中特別編があったりするので、厳密に149組のアーティストというわけではないが、取り扱ったアーティストのSpotify月間リスナー数を調べてみた。多い順に並べてみる(読み飛ばし可)。


アーティスト名 Spotify月間リスナー数(2022年6月中旬調べ)

COLDPLAY 56,063,019
Eminem 51,691,286
Lady Gaga 44,313,150
QUEEN 39,739,298
Alan Walker 25,630,798
Red Hot Chili Peppers 25,460,778
NIRVANA 24,295,808
AC/DC 23,758,178
Linkin Park 23,647,920
Guns'N'Roses 22,593,508
BON JOVI 21,238,176
The Rolling Stones 21,116,508
Green Day 20,533,548
Daft Punk 19,588,123
Fall Out Boy 19,098,730
METALLICA 18,980,949
The Killers 18,771,789
Aerosmith 17,140,211
Led Zeppelin 16,148,644
Oasis 15,920,292
Foo Fighters 15,361,990
Blink182 13,471,778
R.E.M 13,105,027
The Offspring 12,889,994
System Of A Down 12,113,704
The Cranberries 12,108,929
Muse 12,094,051
Weezer 12,049,634
The White Stripes 11,859,570
THE CLASH 10,751,821
Johnny Cash 10,579,544
BLACK SABBATH 9,690,170
Limp Bizkit 8,956,875
Rage Against The Machine 8,244,001
The Black Keys 7,627,628
KORN 7,468,338
Deep Purple 6,085,525
Audioslave 6,018,885
Franz Ferdinand 5,316,430
EXTREME 4,937,039
Iggy Pop 4,595,544
Thin Lizzy 4,258,547
PANTERA 4,160,477
米津玄師 3,826,482
Stereophonics 3,351,434
Enya 2,991,405
Rainbow 2,798,590
Ado 2,230,559
Morrissey 1,886,617
Dope 1,782,637
Sex Pistols 1,720,215
Scarlett Johansson 1,646,664
FLOW 1,640,838
ヨルシカ 1,457,414
Mr.Children 1,408,822
Creepy Nuts 1,327,967
HALLOWEEN 1,316,758
GreeeeN 1,316,720
Sepultura 1,268,507
スピッツ 1,238,593
Jeff Beck 1,229,836
Serg Tankian 993,847
MAN WITH A MISSION 943,316
サカナクション 894,260
サザンオールスターズ 866,396
クリープハイプ 807,025
amazarashi 645,293
Monkey Magic 631,452
槇原敬之 625,916
松任谷由実 616,500
フジファブリック 591,398
東京スカパラダイスオーケストラ 508,530
ウルフルズ 408,900
Jerry Cantrell 400,516
GLAY 394,387
きのこ帝国 351,250
the pillows 323,496
布袋寅泰 315,479
DOES 280,769
くるり 271,522
SALU 267,033
PUFFY 262,426
Jonathan Davis 260,655
Chara 232,178
OKAMOTO'S 223,303
フィッシュマンズ 213,664
THE YELLOW MONKEY 207,408
宮本浩次 193,559
Dragon Ash 192,048
大滝詠一 191,933
10-FEET 189,765
カネコアヤノ 155,573
ユニコーン 149,421
坂本冬美 148,616
Brass Against 147,273
サニーデイ・サービス 142,315
hide 139,917
ROTH BART BARON 131,187
ハンバート ハンバート 126,796
美空ひばり 117,114
ストレイテナー 116,171
Hi-STANDARD 109,560
BUCK-TICK 106,519
吉井和哉 96,565
リーガルリリー 91,344
久保田早紀 90,142
GO! GO! 7188 88,272
LOUDNESS 87,861
曽我部恵一 87,629
People In The Box 80,663
フラワーカンパニーズ 79,245
ゆらゆら帝国 77,262
ACIDMAN 66,981
SUPERCAR 63,544
平沢進 62,200
ザ50回転ズ 60,530
アナログフィッシュ 50,136
人間椅子 46,656
不可思議wonderboy 46,352
忌野清志郎 42,692
ZAZEN BOYS 33,190
The Birthday 32,951
Joe Perry 32,533
ドレスコーズ 30,897
萩原健一 27,377
GRAPEVINE 24,305
The Mad Capsule Markets 24,290
中村一義 22,404
THE BLUE HERB 15,399
GEZAN 13,764
チャーリー・コーセイ 12,151
中元みずき 12,101
G-FREAK FACTORY 11,024
P-MODEL 9,250
カサリンチュ 7,995
bloodthirsty butchers 6,375
横道坊主 4,849
頭脳警察  2,996
JAGATARA 2,162
Hermann H.&The Pacemakers 1,454
上田現 296


THE BLUE HEARTS 未解禁
十田敬三 未解禁
真島昌利 未解禁
お坊さん お坊さん


 現在の最多リスナー数のアーティストはザ・ウィークエンドで8,000万人台とか。
 1,000万人台の壁の上にジョニー・キャッシュ。直下にブラック・サバスがいるのが面白い。パンテラとステレオフォニックスに挟まれて米津玄師が現れるのが邦楽トップ。

 グループ:ソロの数字を比較してみる。グループリスナー数を100として。

エアロスミス:ジョー・ペリー=100:0.2
KORN:ジョナサン・ディビス=100:3.5
システム・オブ・ア・ダウン:サージ・タンキアン=100:8.2
イエモン:吉井和哉=100:47


 ソロ活動時はいろいろな名義になったりして数字がばらけることもあるからその影響もあるとして、圧倒的な差がある。グループリスナーの母体数に対してソロ活動に手を伸ばす人が少ないらしい。

 サブスク解禁時期やら、メインリスナー層とSpotify利用層が重ならないなどの影響もあるので、この数字は絶対的なものではない。
「え、こんなに少ないのこの人たち?」
「リスナーが日本限定ではなく世界中にいる方が桁が違ってくる」
といった発見はあるが、リスナー数が少ない=劣っているなどということはない。リスナー数3桁に驚いた上田現だが、私的にはこの中でトップテンに入ってもおかしくない。Spotifyの世界中に散らばる総ユーザー数は4億人を超えているとか。

 世界人口は現在約79億人。日本の人口は約1.2億人で1.5%。コールドプレイの月間リスナー数5,000万人の1.5%だと75万人。amazarashiとクリープハイプの間ぐらいとなる。妥当な数字であるわけだ。

 言葉の垣根を超えやすい音楽であれ、数字として現れるとその差ははっきりする(内容の優劣の話ではない)。これを文章に言い換えるなら、日本語で、日本人しか読まない、日本人の読書家しか読まない、読書家のうちのごく一部の好事家しか読まない、そのごく一部の好事家のうちのネットに手を広げている熱心な人にしか、そのごく一部の熱心な人のうちの波長のあう方にしか、自分の文章は届いていない、という見方をしてしまうと、発表することで世界に繋がっているような気がしても、実はその世界はごくごく狭かったのだ。
 

 行く河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。こちらは方丈記。
 万物は流転する。パンタレイ。こちらはヘラクレイトス。
 古人は、細胞が日々変化して、生物の組成は永遠に同じものではない、という科学的事実を知っているようにして語っている。今聴かれている音楽が数十年後同じように聴かれているとは限らない。また、数十年前に聴かれていた音楽が、今も同じように聴かれているものもある。数百年後には、数億年後には。流行は変わる。人も変わる。消えてなくなるものもあれば新しく生まれるものもある。

 自分の好きな音楽の傾向が分かり始めた中学時代の話。当時のヒットチャートを片っ端からCDレンタル屋で借りるクラスメイトがいた。
「自分の好きな曲だけ借りたら?」
「流行ってるから、いい曲なんだろ」
 みたいなやり取りをした覚えがある。時間は有限である。興味のないものや、周りが聴いているから聴く、といった聴き方をしている暇はない。「悪くないもの」よりも「好きなもの」を聴きたい。気に入ったら同じ曲だけを延々と聴き続けたい。その姿勢は音楽だけに留まらず、本でも絵でもなんでもそうしてきた。

 本当にそうか。
 あの頃の自分と今の自分とはすっかり別物になっていて、「あの頃ああだった自分」というのは今の自分が作り出した過去の幻想に過ぎなく、今後も延々と上書き更新されていく自意識こそが細胞の集合体でしかない生物の真相であり、あらゆる他物との相関は細胞の衝突でしかない。
「あの頃聴いた曲が今では響かない」
「再読するといまいち感動出来ない」
 そんなことが往々にしてあるのはおかしなことではない。二十年前の細胞が感じたことを二十年後の現在に同じ感じ方が出来るはずがない。全ての感動、感情は繰り返されるわけではない。少しずつ違った感動でもって揺り動かされる感情と共に我々は生きている。

 
一夜の酒宴のために 群狼の遠吠えを
肴に語り部の唄を かがり火に透かしてた
銀河に降る星屑が 俺の眼に降り注ぐ
新しい生命の為に 捧げようこの夜を
有限の未来を おまえと見たい

 いつまでも同じ生活が続くはずもない。
 
 9ヶ月以上に及んだ主夫生活も終わりを告げようとしている。前回書いた面接先の会社から採用の連絡が来た。妻の仕事時間の変更が必要となるため、早くても来週、遅くても来月頭からは、再び会社勤めが始まる。試用期間中はアルバイトの身ではあるが。勤務地が三つ(とはいってもどれも近隣)あるというから、希望通りに歩いて10分、自転車で5分のところで働けるとは限らない。

 時間を作れるはずのこの期間に何が出来たかというと、一応地方の文学賞に短編を二編応募した(結果はまだ)。その他は日々書くことを増やし、noteの記事で賞をいただいたものもあるが、結果的に自分の文章が多くの読者を獲得した、ということはない。有限の控えめな数字の中を右往左往している。金を稼げるとかプロになれるとかいうレベルではない。


Ahh 転げ落ちていくよ どこまでも どこまでも
Ahh 気づかないふりして 今夜だけ そう万物流転
Ahh 何にも変わらない それなのに それなのに
Ahh 変わったふりしてる おまえのため ほら万物流転


「万物流転」のところは「パンタレイ」と歌っている。
 変わらなきゃ、とか、変わってしまったな、とか、変わらないね、とか、そんなのは言葉だけで、本当は何もかもことごとく常にごろごろごろごろ転がって変わり続けている。一時二十年前に戻ったような気持ちでいたが、日々子どもは大きくなり、日々こちらは老いていくし、頭部の薄くなった部分を娘に発見されてしまう。
 体力がついていかずに疲れ果ててぶっ倒れるような状況になる可能性はあるけれども、とりあえず何か書き続けるのだろう。どこまでも。どこまでも。

(了)
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泥辺五郎 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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