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「かつて天才だった俺たちへ」Creepy Nuts

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動画はこちら
https://youtu.be/_dAzUOzWvrk
THE FIRST TAKEバージョン
https://youtu.be/QRajFRjuZFY

 何をしても何かに繋がっている。
 例えば私のしてきた事。兄に付いて行ったついでに通ったサッカークラブ(熱心に練習した覚えがない)、中学時代のバスケ部(一年の夏休みに私以外の同級生全員が辞めた)、スポーツで勝ちたいという思いがすっぽり抜け落ちた私の発見。
 書けと言われて書いた将来の夢の嘘臭さ。
「ピアニスト」
 真面目に練習した事がなかった。
「サッカー選手」
 何でも書いていいと言われて「自由のあるサラリーマン」と書いたら「意味が分からない」と小学六年生の時の担任に突き返され、腹いせに書いた偽りの夢。


苦手だとか怖いとか気付かなけりゃ
俺だってボールと友達になれた
頭が悪いとか思わなければ
きっとフェルマーの定理すら解けた
すれ違ったマサヤに笑われなけりゃ
ずっとコマ付きのチャリをこいでた
力が弱いとか鈍臭いとか知らなきゃ
俺が地球を守ってた
破り捨てたあの落書きや
似合わないと言われた髪型
うろ覚えの下手くそな歌が
世界を変えたかも…
かつて天才だった俺たちへ
神童だった貴方へ
似たような形に整えられて
見る影も無い


 職場で取引先にかけた電話の保留中に、延々とその会社のPRソングが流れていて、耳にこびり付いた。このままでは殺られる、と思い、会社の変人達の名台詞を頭の中でサンプリングしてラップ調にした。今度はそちらが頭の中から抜けなくなった。
 そんな訳でCreepy Nutsのニューアルバムを聴いていた。娘のココの演劇ごっこと組み合わせて、菅田将暉と組んでいる「サントラ」という曲で音楽小説を書いていたのだが、機種変更したスマホと執筆アプリとの相性か、バグが直ってないのか、後は仕上げだけ、という段階のテキストを、誤って全部消してしまった。
 大体の内容は、ココの演劇を解説しながら徒然と何やかんや書く、というものだ。
 演目「人形ごっこ」
 職場に届いた大きな人形は実は警察官兼探偵で、社長がみんなのゲームを取り上げて隠れて楽しんでいる、という悪事を暴いて社長を逮捕する、という流れ。人形警察官探偵はココ、私は人形を運ぶ社員兼使いパシリ兼傍観者兼色んな役柄の人形を動かす人。息子の健三郎は「泥棒を捕まえろ!」とココが言う際に「ドボロ! ドボロ!」と賑やかす係。
「健ちゃん、どろぼー、ど・ろ・ぼ、はい」
「ドボロ!」

 架空のボイスレコーダーを駆使する、人形探偵警察官から悪事の証拠を突き付けられた社長(トトロのぬいぐるみ)は逃げ出そうとするが、巨大な相撲取り(大きい熊のプーさんのぬいぐるみ)に取り押さえられ、屁をこかれ、糞までされる。

 といういつもの休日風景と接しながら、「うちの子は天才女優だ。子役にしよう」などとは思わない。ダンスが好きなココではあるが、あくまで好きなのは自分で自由に踊る事であり、踊りたいタイミングで身体を動かす事だ。自分の好きな道には最終的には自分で辿り着くしかない。きっと最終なんてない。自分自身だって未だにそうだ。何者だっていうんだ。

 サッカーやって、ピアノやって、バスケ部入って、ギター買ってもらって、バンド組んで、文学にはまり込んで、小説書いて、ここに書けないような事や、書くほどの事でない事や、書いても仕方のない事などやって、何やかんやあって今になって、振り返れば何もかもがそれなりに今の自分を形作ってる事に気付く。同調圧力という奴を気にしない性格を、早い内から手に入れていた事が一番の幸運かもしれない。

 
生まれてこの方
一体いくつ分岐点を見過ごして来たんだろうか?
墓場に入るまで
後一体いくつ可能性の芽を摘んでしまうんだろうか?


 この曲を聴きながらかつて歩んでいた道をそのまま歩んでいたらどうなっていたか、なんて考える。今と変わらず子供達におもちゃにされている気がする。
 まだまだ遊び足りない健三郎が、眠りたくなくてミニカーを握り締めて「あそぼ」と呼び掛けてくる。遊び疲れたココは先に眠っている。
 もうすぐ猛暑日の続いた日々が終わる。そうなれば久しぶりに大きな公園で目一杯遊ぼうな。
 健三郎が子供用のちゃぶ台に突っ伏して眠そうにしている、と思いきやグーグーとわざとらしいいびきを立て始めた。ははあ、と思い、私は「ピンクパンサー」のテーマを口ずさみながらそっと近付き、健三郎の手元にある積み木を取ろうとする。薄目を開けていた健三郎は取られる寸前に積み木を手で抑えて「ギャハハ!」と爆笑した。「ドボロ! ドボロ!」と叫んで私を部屋の隅まで連行する。そこは牢屋なのだ。

 子供達の寝た後、小説を書くとかさっさと寝たりすればいいのに、新しく好きになれる曲を探したり、マインクラフトというゲームで思い付くままに何か建築したりしている。そもそもトトロ社長は、仕事中にゲームをプレイする不良社員からゲーム機を取り上げただけだったんじゃないか。

 そういえば自分が子供の頃に、親の前で演劇を始めたり踊ったりした覚えはない。何かの付録についていた「ことわざ辞典」とかを読み込む子供だった気がする。

 朝、今はココと同じ時間に家を出ている。準備を整えてから五分ほど時間に余裕があったので、Cleepy Nuts「よふかしのうた」をかけるとココが踊り出した。その横で私はストレッチを始める。朝一でこの選曲ってどうなの、と自分のチョイスに首を傾げながら。

(了)
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