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「アフターミシュガルド~親愛なる者達の為に~」作:防衛軍LOVE(5/19 13:51)

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目が覚めると、そこは「家」の寝室だった。
何か長い夢を見ていた気がする。
何か苦しい思いをしていた気がする。
何か大切な事を忘れている気がする。
頭がぼうっとして落ち着かない。
体を改めてみる。
何と無く手足の感覚がおぼつかないけれども…、どこもおかしい所は見えない。
僕の…体……幼い、僕の、体だ。

「ルキウス」

僕を呼ぶ声がした。
女の人の声だ。
これは誰の声だっけ?
遠い昔に聞いた気がするし、つい最近聞いた気もする。

「ごはんができたわよ、起きてらっしゃい」

優しい声。
愛に溢れた声。
僕の好きな声…。
そう…これは…母さん、母さんの声だ。

「今行くよ」

僕はベッドから起き上がると、リビングへと向かった。
もう朝ごはんの準備ができていて、父さんもテーブルに座っている。
父さん……そう、父さんだ。
不思議だな、なぜかとても懐かしい気持ちになる。

「おはよう、ルキウス」
「おはよう…―――父さん!」

挨拶を返して、僕もイスに座った。
テーブルにはパンが置いてあり、母さんが台所で料理を作る音が聞こえる。


父さんと母さんがいて、一緒に朝ご飯を食べる。
不思議だな、いつもの事のはずなのに、何故だか…とても懐かしい様な…新しい様な、そんな感じがする。
それに、何故だろう、心のどこかで違和感を感じる。

何故…?

「ルキウス」

僕の方を見つめていた父さんが、声をかけてきた。

「何?父さん」
「ビビとは仲良くしているかい?」

ビビって言うのは、僕といつも一緒にいるエルフのお姉さんだ。
ビビは戦時中にお父さんお母さんと仲良くなって、ずっと一緒に…

あれ?なんでビビがお父さんお母さんと仲良くしている場面が浮かばないんだろう。
それに何か…何か僕は今おかしな事を考えた気もした。

何がおかしいんだろう…。
ビビはお父さんやお母さんとは仲がよくなかったっけ?
いや、そんなはずは無い。
そうだ、そんなはずは絶対にないんだ。
それに、僕とは仲がいい。
僕はビビが…優しいビビが大好きだ。

「勿論仲良しだよ」
「そうか…、よかったよ」

お父さんはそう感慨深そうに言うと、今度はニコロは?だとか、トーチは?だとか、昔一緒に戦った人達の事を聞いてきた。
元気だし、僕とも仲良しだよと応える度に、お父さんはうんうんと優しく頷いてくれる。

「そうか…皆元気にやっているんだな」

目を瞑って何か思いにふけるお父さんに、僕は首を傾げた。
なんでお父さんはそんな当たり前のことを聞くんだろう。

あれ?そういえばお父さんと皆が最後に会ったのっていつだっけ?
皆の事を思い出そうとする度、心の中に不思議な感覚が生まれてくる。
朝起きた時から、ずっと感じている違和感だ。
ここでこうしている場合じゃない様な…そんな…。

「さあ、ご飯ができたわよ」

母さんが朝ご飯の入った鍋をもってこちらへとやってきた。
流石僕の母さんだ、とても美味しそうな匂いがする。
鍋に入ったスープを皆の皿に配り、籠に入ったパンを皆に分けると、母さんは自分も席に着いた。

「それじゃ、いただきましょう」

僕とお父さんはお母さんが椅子に座るのを確認して、食事に手を付け始めた。

…―――おいしい。
特別な食材や、調理はしていないのに、今まで食べたどんな料理よりもおいしい気がする。

あれ…?
不思議だな、母さんの料理いつも食べているはずなのに、初めて食べた様な気がする。
これが母さんの料理。
心が温かい物で満たされて、頭の奥のもやもやした物が晴れていくような感覚がする。

変だな…いつも食べてるはずなのに…。

変…。

そう、変だ。
何かがおかしい。

心の中にあった疑念が明確に形を持ちはじめ、僕はスプーンを置くと、俯いて考え始めた。

まず何がおかしい?
今ここで起きている事柄、その全てを僕は「初めて体験した気がする」。
お父さん、お母さんがいる家でこうして目覚める事。
お父さんと話す事。
お母さんと話す事。
その全てが…。

いや、そんなはずはない、僕は母さんや父さんと…ずっと一緒…に?
そうだ、昨日だって……昨日?
昨日僕は何をしていただろうか?

僕は…今まで…何を…?

「ルキウス」

お父さんの声に顔を上げると、お父さんとお母さんが優しくこちらを見つめていた。

「お父さん…お母さん、なんか変なんだ、僕…」
「わかっているよ、ルキウス、それでいいんだ」
「何かおかしいって、そう思っているのよね」
「ルキウス、目を瞑って、自分が今やるべき事をよく思い出して見るんだ」

お父さんの言葉に、僕は目瞑り、ゆっくりと記憶をたどる。

僕は…ルキウス・サンティ。
僕は……そうだ、もう僕は幼い少年じゃない。
それに父さんと母さんは僕がまだ赤ん坊の頃、僕の故郷、アルフヘイムで起こった戦時中に亡くなっているはずだ!
何故、こんな大事な事に今まで気づけなかったんだ!?
そうだ…僕は、今まで…。

僕の中に今までの記憶が次々と戻ってくる。

遺跡の中で見つけた聖刀「武真ノ太刀」の持ち主にひょんな事からなった事。
サイボーグ獣戦士を操り人類排除を企てる太古の魔物達、「獣神将」との戦いに身を投じていった事。
熾烈な戦いの数々。
平和を勝ち取る為に戦い始めたはずなのに、戦えば戦う程に増える新しい敵達。
裏の組織を動かしてミシュガルドのアーティファクトを独占しようと暗躍するスーパーハローワークの「デスク・ワーク」。
人造生物を作り出して世界征服を企むアゴエルフ「ドクターアーゴン」。
人種至上主義を掲げる甲皇国、それを裏で操る「鬼家」
アルフヘイムのテロリスト「エルカイダ」

「私達はここから全部見ていたよ」
「父さん…」
「立派になったわね、ルキウス」
「母さん…」

僕は必死に戦った。
何度もくじけそうになった…。
何度ももう駄目だと思った。
時には卑劣な罠にも苦しんだ。
諦めた事もあった。

でも、その度に周りの皆が僕に力を貸してくれた。
だから戦ってこれた。

だけれども僕は……僕は負けてしまった。

新しく現れた羊型の獣神将「ウルコー・モッコ」がけしかけてきた新たな刺客、それはビビが戦時中に幾度も戦った甲皇国最強の戦士の一人、メゼツ…そのメゼツをサイボーグ化した怪物、「メタルメゼツ」。
ビビを越えたい、そんな想いがあった僕はメタルメゼツに単身挑み、そして敗れ去った。
メタルメゼツとなったメゼツはこれまでのサイボーグ獣戦士をはるかに上回る強さを持っていたのだ。
傷ついた僕はゲオルグさんに担ぎあげられ、ビビがメタルメゼツとウルコー・モッコの二人を相手に盾になって…。

そうだ、僕は自分が弱いばっかりに…。
ゲオルグさんも…ビビも…僕を信じて任せてくれたのに…。
僕が…僕が負けたばかりに…ビビは…ビビが…。

僕は自分を想ってくれる女性一人まともに守れなかった。

父さんと母さんが愛したビビを…僕は…。

「ごめん…父さん、母さん……僕はビビを…」
「ビビは大丈夫だ」

俯きかけた僕に、父さんはそう言った。
思わず顔を上げる僕を、父さんは変わらず、優しく見つめている。
横から手が伸びてきて、母さんが僕の手を取った。

「ビビはね、あなたが思っているよりもずっと強い子なの、もちろん、あの子だって貴方が悪いなんて思っていないわ」
「母さん」

僕が産まれてすぐ、二人は死んでしまった。
だけど、今僕の手に伝わってくる温もりを、僕は知っている、記憶の奥底に残っている。
何よりも信頼できる温もり、何よりも僕を守ってくれる温もり。
優しい嘘じゃない、本当に信頼できる、母さんの言葉だ。

「貴方はなんでも自分で背負おうとしている、ビビにも言われたでしょう?」
「でも僕が…もっと強ければ」
「ルキウス、ウルコー・モッコが最初からビビを生け捕ろうと動いていた事に気づいていたか?」
「…!父さん?」
「あの戦いの最中、ゲオルグ殿はそれに気づいていた、だからビビを集中して守り、メゼツの相手をお前に一任していたんだ」

父さんの言葉に、僕ははっとなる。
確かに、ウルコーはゲオルグさんには激しく攻撃を仕掛けていたように見えたけれども、ビビにはあまり強力な攻撃をしていなかった様にも見えた。

「ルキウス、お前は冷静さを欠き、自分の失敗で生じた出来事を過剰に悪く思い、自分を責めている。だがそれはただの逃げだ」

初めて冷たく、お父さんが僕に言った。

「確かに、お前自身の力が足りない為にビビは敵に捕らわれてしまった。だが、それはビビもお前も納得した上での戦いで起こった事だ。人を率いて戦う者は常に率いられる者の犠牲を意識して戦わなければならない、だが、それに囚われてもいけない」

お父さんの言葉に、僕は聞き入りながら、思い出していた。
お父さんは決して特別に強かったわけじゃないと。
今の僕や、ビビのように精霊や古代の力を使いこなせたわけじゃない。
トーチさんやニコロさんみたいに力や技があったわけでもない。
家柄がよかったわけでもない。
それでも皆がついてきたのは、皆が納得する物をいつも示して、皆をいつもいい方へ導いていたからだ。
皆望んでお父さんについていっていた。
けれども、いや、だからこそ、お父さんはその事に悩んだでいた。
僕にもわかる。
でもお父さんは僕と違って、自分のせいで犠牲が出る事に耐える事ができていた、だから…

「俺にはそれができなかった」
「え?」

僕はお父さんの言葉に耳を疑った。
だって、それができていたからお父さんは英雄になれたんじゃないのか?
それができたから…。
僕にはそれができないから…だから、ビビが…。

「「俺一人では」な」

お父さんの言葉に、僕ははっとなった。
僕はいつの間にか、僕が抱える悩みを誰にもわかってもらおうとしなくなっていた。
知らず知らずの内に自分が特別な人間になった気になって、僕は周りを遠ざけていた。
以前にビビが言ったじゃないか。
僕がクラウスの、父さんの息子だからといって人間として特別にできているわけじゃないって。
古代の力を手に入れたって、僕がちっぽけな人間である事に変わりはないんだって。
そうか…ビビは僕を支えてくれようとして、ああ言っていたのか…。
なのに僕は…。

「俺の時は、俺が一番上に立って戦っていた、だから仲間達に弱い姿は見せられなかった。だが、どんなに苦しくて、辛くても、ミーシャが俺に味方してくれる、わかってくれる、それがあったから、俺は戦う事ができたんだ」

お父さんとお母さん、本当に最高のパートナーだったんだな。

「ルキウス、今の世界はクラウスが戦っていた頃よりも…皆が力を合わせて戦えるようになっているわ。だからもっと周りの人を信じて、自分を大切にして」

そう言って、母さんは僕を優しく抱きしめた。

「もし、世界中の皆が貴方を裏切っても、私達が貴方の味方であり続ける…愛してるわ、ルキウス」
「母さん」

父さんも、僕と母さんを包み込むように抱きしめる。

「忘れるな、ルキウス、俺も母さんも、ずっとお前と共にある…愛してるぞ、ルキウス」
「父さん」

母さんと父さんを僕も力いっぱい抱きしめた。

「……」

僕達はしっかりと抱き合うと、ゆっくりと離れた。
僕の姿はもう、幼い僕じゃない。
父さんと同じ位背が高い、現在の僕の姿に戻っている。

そんな僕を見て、母さんが少し寂しそうな顔をした。
その肩を、父さんがそっと抱く。

「ルキウス…ビビを助けてくれ、父さんは最後の最後で仲間を信じきる事ができなかった。だから母さんを守れなかった。だが、お前ならできる」

父さんの言葉に、僕は力強く頷いた。

「見ていてください、父さん、母さん、僕はきっとやって見せます」

玄関を開けて、僕は外へ出る。
まばゆい光が僕を包み込み、眠気に似た感覚がわいてきた。

ありがとう、父さん。
ありがとう、母さん。

僕の中にはいつも、誰よりも僕を理解して、愛してくれる人達がいた。
こんなに、こんなに嬉しい事はない。

二人が愛した世界を、僕は…僕達は絶対に守って見せる!
だから見ていてください!











目を覚ますと、そこは病院のベッドだった。

「ルキウス!?目が覚めたのかい?」

横から聞こえた声のする方に目を向けると、イシヤさんがこちらを驚愕の視線で見つめている。
僕は体を改めてみた。
メタルメゼツの攻撃で受けた傷は消えており、体にも異常は感じないし、頭もすっきりしている。
どの様にして治ったのかはわからないけれども、恐らく武真ノ太刀の持ち主になった事で得た「なのましん」という精霊の影響だろう。
行ける!これなら戦える!!

「確かにさっきまで重態だったのに…」
「ご心配をおかけしました、もう大丈夫です」

驚いているイシヤさんにそう応えると、僕は素早く着ていた病院着を脱ぎ、横に置いてあった皮鎧を身に着ける。
彼方から銃声や砲声が聞こえる、僕が倒された事で獣神将の率いるモンスター達が活発化して、市街へ攻撃を開始したのだ。

「イシヤさん、ビビは?それに、皆はどうしました?」
「あぁ、えー…、そうビビ君!ルキウス、ビビ君はまだ生きているぞ。例の贄の祭壇、そこを守っていた条約機構軍が襲撃を受けてな、負傷してここに運ばれてきた兵がその中にビキニアーマーの女の子が羊の怪物に捕らわれているのを見たと言っていたぞ!」

やっぱり、ビビはまだ生きていた!
よかった!!父さんの言っていた事は正しかったんだ!
贄の祭壇…かつて古代文明が使っていた生き物の魂を何らかの物質に変換する外道魔法を行う為の施設。
前に戦った獣神将エルナティはビビや僕の魂はかなり価値があると言っていた。
奴等は贄の祭壇を復活させて、ビビの魂を使ってなにかよからぬ事をするつもりに違いない。

「くそ!獣神将め!」
「ゲオルグさんが自分とこの傭兵の人達と救出に向かっていて、ソウイチ君たちもそっちに向かったらしいが…」
「僕もすぐ向かいます、イシヤさん、ありがとうございました」
「本当にもう大丈夫なのか?いや、そんな事はありえないが…」
「僕の中にいる精霊が力を貸してくれました、大丈夫です」

無事を証明するように、僕はイシヤさんの前で軽快に飛び跳ねてみせる。

「ううむ…いまだに信じられんが、精霊というのはやっぱりすごいな」
「ありがとうございました」

感心するイシヤさんにお礼を言い、戸を開ける僕、途端、そこにいた誰かと鉢合わせてしまった。

「おわっと…ルキウス!?寝てなくて大丈夫なのか?」
「あんた、怪我は?」
「ショーコさん!メンさん!」

そこにいたのはビビの友人のショーコさんとメンさんだ。
お見舞いに来てくれたらしい二人は、僕が完治しているのを見て驚いている。

「もう大丈夫です、ありがとうございます、今、外はどうなってます?」
「あんたが倒されて勢いずいたモンスター連中が交易所を攻めてきてあちこちで戦ってるよ」
「条約機構軍はそれの相手で手一杯でビビの助けに行けないし…そうだビビは今」
「贄の祭壇にいるんですよね?任せてください!僕がビビを…」

そこまで言った時、僕の心のどこかでまた僕が僕だけの力でビビを救おうとしているぞ!と声がした。
今の声は…父さん?
でもなぜ?

「ルキウス?」

急に固まった僕を心配して、ショーコさんが僕の顔を覗き込んできた。

獣神将も、その配下のサイボーグ獣戦士も、古代ミシュガルド文明の超科学で身を守っていて、それを破るには相当の技術や魔力がいる。
戦いの専門家ではないシーフのショーコさん達に獣神将達と戦う力はない。
彼女達を戦いに巻き込むのは間違っている。
確かにショーコさん達は今じゃミシュガルドでも指折りの凄腕シーフだけど、それでも…。

…待って、僕は戦う事にだけくくって考えていたが、そうじゃない。
この二人なら、僕にできない事ができる。
確かに戦う事はできないかもしれないが、例えば贄の祭壇の罠や、隠れた通路を見つけたり、獣神将の弱点を見つけてくれるかもしれない。
それに…。

「ショーコさん、メンさん、二人にお願いがあります、ビビを助けるのを手伝ってください」

僕は二人をまっすぐに見つめて、口を開いた。
二人は一瞬面くらった様子だったが、すぐに真剣な表情になる。

「何か考えがあるんだね?」
「はい!危険ですが、お二人は僕が必ず守ります!だから…」
「ふっ…ルキウス」

メンさんは僕の肩に手を置いて、ちっちっちと指を振って見せる。

「ビビを助けられるってんなら、アタイ達は喜んで引き受けるし、あんたに守ってもらう必要もないよ」
「今の私達があるのはビビのおかげと言っても過言ではない、獣神将は確かに恐ろしいが、ビビの為なら戦ってやろうという気になる」

やっぱり、そうだ。
二人とビビはまだ僕が物心ついて間もない頃から…10年以上もビビと仲良くやってきた大親友、二人もビビの為に戦いたかったんだ。
二人ほどの大ベテランなら獣神将が如何に恐ろしいかは身をもって知っている、でもその上で、ビビや僕に力を貸してくれようとしている。
僕は二人の言葉に胸が熱くなるのを感じると共に、ビビの人としての魅力にもう一度気づき、必ずビビを助けて、二人も守り切ろうと誓った。

「ありがとうございます、二人とも!………行きましょう!」
「ああ!」
「ビビめ、この借りは大きいよ」

二人を引き連れて僕は診療所を飛び出し、まずは贄の祭壇に最も近い交易所の西の外壁へと向かう。
西の外壁では条約機構軍に所属する青い制服の甲国の兵士達が慌ただしく行き交い、必死に外壁に群がるモンスター達と戦っている最中だった。
壁の外にはイェーガー、ケッツアー級の様々なモンスターが群れをなし、壁をよじ登ろうとしたり、穴をあけようとしている。
それ目掛けて砲や鉄砲を撃ち込んだり、弾薬や物資を運搬したりと忙しく行き交う兵士達の中に、僕は全体を指揮している片腕の女性、ナファさんを見つけた。

「…ルキウス!」
「ナファさん!」
「お前、怪我はいいのか?」

こちらに気づき、それまで厳しく周囲に指示を出していたナファさんは少しだけ表情を緩めてたずねてきた。

「大丈夫です、精霊が力を貸してくれました」
「精霊が…?」
「はい、ご心配をおかけしました!」
「…そうか、よし」

僕の返答にナファさんは一瞬戸惑ったか、すぐに表情を引き締め直す。

「持ちこたえられそうですか?」
「案ずるな」

ナファさんがそう答えた時、伝令の兵士がナファさんのもとへと駆けてきた。

「対空監視所より報告!敵エフューゴイーグル接近!!」
「エフューゴイーグル!?」

伝令の兵士の言葉に、僕は一気に緊張した。
エフューゴイーグルは超音速で飛ぶ能力を持った巨大な鳥の様なモンスターだ。
口から強力な火炎弾を放ちながら高速で飛び回るあのモンスターが飛んで来たら、この西壁は簡単に破壊されてしまう!
これは僕が戦うしかない!

「ナファさん、僕も加勢します!空の太刀を使えばエフューゴイーグルにも対抗できる!」
「案ずるなと言っている、我が国の空軍が今こちらに向かっている。ここは我々に任せて、お前は贄の祭壇に向かってくれ、そこに…」
「ビビがいるんですよね?でも、ここの戦いを放っておけません、甲国空軍の戦闘機じゃ…」

プロペラで飛ぶ甲皇国の戦闘機じゃ音より早く飛べるエフューゴイーグルには歯が立たない。
それはナファさんだってわかっているはずだ。
でも、ナファさんの顔には嘘のない自信が浮かんでいる。

「ふっ、来るのは最新鋭のジェット戦闘機だ、エフューゴイーグルにも負けん」
「ジェット戦闘機?」
「ここは任せろ!民間人を守るのは我々軍人の使命だ、お前は…お前にしか守れない者を守れ」

ナファさんの言葉に応じる様に、下でわっと歓声が上がった。
壁の下を見ると、青い鎧を身に着けた騎士団がモンスターの群れに横合いから突撃をかけ、次々と斬り倒している。

「突撃!突撃!!青騎士団の強さを獣神将に思い知らせろ!」

あれは…ルドフィコさん!力を貸してくれるのか!?
更にそれに続く様に、機銃を装備した動力自動車がサイレンを鳴らしながら突撃してくる。

「蹴散らせ!撃て!撃って撃って撃ちまくれ!」

車から身を乗り出し、銃を撃ちながら、ダークさんが檄を飛ばす。
青騎士団も巡視隊も、壁からの援護射撃も相成って全くモンスターを寄せ付けていない。

「なんだアリャ」

メンさんの声がして振り返って空を見上げると、見慣れない機影がすごい速度で飛来して、僕らの頭上を通過していった。

「わあ…」

動力飛行機!しかも初めて見る型で、エフューゴイーグルと同じ、後部から何かを噴射する方法で飛んでいるように見える。
アレが、ジェット戦闘機。
すごい速度だ、確かにアレなら、エフューゴイーグルにも負けない。
更に尾翼をよく見ると、「竜狩り」のエンブレムが書かれている。
ヴェルトロさん……本国から戻ってきてくれたんだ!

「スゲーなルキウス、アレならあのお化け鳥ともやりあえるんじゃねえか?」
「っ……――うん!」

僕は自分が一人で戦っているわけじゃないんだな、と改めて思った。
僕の見えない所でも、大勢の人達が力を合わせて戦っているし、強くなっている。
特別な力を手に入れた為に、やはり僕はいつの間にか周りを信じる力を失っていたのかもしれない。

「さあ行け、ルキウス」

僕の横にナファさんが立って、笑顔でそう言った。

「よし!行くぞ!」
「ルキウス!」
「はい!!」

ショーコさんとメンさんの声に、僕は力いっぱい応えると、壁から飛び降りる。


待っていてくれ、ビビ!必ず僕が…僕達が助けに行くぞ!!


つづく
9

参加者一同 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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