いつかの日常風景
俺は今、自宅に友達を呼んでゲームをしている。ストリートファイター、俗に言う格闘ゲーム。略して格ゲー。
「なん……だと……? 俺のチュンリーのスピニングバードキックを……全て、ブロッキング……だと……ッ!? 大した奴だ・・・」
「よええwwwwwコンボすら覚えてないとかどんだけだよお前wwwwwwww」
実に二十六連敗。
友人の執拗なブロッキング具合に、さすがに温厚な常識人である恋愛体質の愛されボーイな俺も脳の血管がプッチンしそうな勢いだ。
「え? なに? まだやんのwwwww」
まるで天の道をゆき全てを司っているような態度。断じて許せるものではない……ボッコボコにしてやらなければ気がすまない……。
「結構……! 次は、俺の土俵でやらせてもらうっ……!」
そこで俺はPCの電源を点け、USBポートにコントローラーを乱暴に挿す。
「貴様に地獄を見せてやる……!」
「東方っすかwwwww萃夢想でも負けねえしwwwwwww翠香でボッコボコにしてやんよwwwwwwwwwww」
「萃夢想……だと……? 違うな……これは『花映塚』だ……ッ!」
「花映塚っ……!? まさかの……シューティング……! 俺の最も苦手とするものの一つ……弾幕っ……!」
冷や汗を垂らす友人を他所に、俺は着々と対戦の準備を整える。
キーコンフィグは既に完璧……人間対人間……難易度はもちろん……“彼岸花”っ……! いわゆる、最高難易度……!
「さあ、自機を選べ……。俺はもちろん、魔理沙だ……!」
「……っ!? 後方からのレーザー……バックからヤる気満々……! ほぼ初心者に違いない俺にとって、かなりの強敵っ……!」
「お前が俺ん家に持ってきたソフトだろうがwwwwwさっさと選べよダラwwwwwwwwww」
「あれ、そうなん? ……記憶にございませんwwwwwwww」
そう言いながらも、友人は迷うことなく小さい方のウサギを選んだ。
てゐ……典型的な、ニコ厨っ……! 何も賭ける勇気が無い……ビートまりお以下の友人っ……! 負ける気がしない……。
「じゃあやるか」
「おう」
先程までのテンション転じて、ゲームが始まった瞬間、沈黙が二人を支配する。早くもスピーカーからは“ピチューン”という効果音が鳴り、友人の表情がこわばる。
対する俺は余裕綽々。何も考えずに乱射されてくる敵のボムを華麗に避けながら、じわじわと友人のケツを狙う。
「ピチューン」
「うるせえwwwwwこっから本気出すわwwwwwwww」
「ピチューン」
「まだいけるつってんだろうがwwwwwwww」
「ピチューン」
「……まだ一回戦じゃんwwwww次からてめえ泣かせてやんよwwwwwwww」
ちなみに俺はノーダメージである。
その後もあれよあれよと十回ほど。一向に当たる気配を見せない俺に対し、友人は手汗で俺のマイコントローラーを汚しながらPC画面を凝視している。
そういえばさっき、コイツったらポテチ食ってたな。手洗ってないな。まじぶっころ。
「そういやさ、お前さっきポテチ食ってたのに手を洗ってないだろ」
カチカチ。
「細けえよwwwww俺ん家じゃそんなの気にしねえwwwwwww」
カタタッ、カチ。
「ここは俺ん家だカス」
カタタタタタタ。
「は? いやだから、しつけえよwwwww」
カタ……。
「ピチューン」
「は? wwwwwwなにしてんのwwwwwwwww話してる最中とか反則すぎだろwwwwwwww」
「うるせえさっさと手洗ってこいよばか野郎wwwwwww」
その後、余裕ぶっこいてたら一回負けた。
男同士ではあまり感じたくない切ない感じの空気が流れたので、二人で仲良くHalo3をやりました。おわり。