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第十五話「遊園地」

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 誰もが梅雨が明けるのを待っている気がするくらい、じめじめとした日が続いている。
生憎今日も雨が降っていて、俺は休日を自分の部屋で読書をしながら過ごしている。
新入生勧誘のための演劇も歓迎会も終わり、部活動は一息付いた感じだ。
あの日以来、村山とは部活動で顔を合わせても、ほとんど事務的なことくらいしか話さないし、川本との会話も減った気がする。
華美に至ってはピアノの練習が忙しくなったらしく、顔すら合わせなくなった。
 俺はどうしたいんだろう? 気がつけば高校三年の六月だ。受験勉強にも最近身が入っていない。
川本と村山は俺に対して全力でキモチをぶつけてきてくれた。
そのキモチを俺は全力で受け止めているのだろうか? 結局の所、逃げているだけじゃないか。
華美に対してだって、結局、台本のこと、キスのことを話せないまま舞台に上がって、
華美に言われたから本当のキスができた。俺は華美のことが好きだけれど、あの時、キモチを自分から伝える勇気は無かった。
 雨は昨日の夜からずっと降り続いている。
「ブーブーブー」無機質な着信音が鳴った。携帯を開く。部長の関川からのメールだ。
内容は、来週の土曜日に俺と関川と華美と川本の四人で遊園地に行かないか、ということだ。
そんなベタなダブルデートみたいなことに俺が本気で乗るとでも関川は思っているのだろうか?
携帯を机の上に置いて、ベッドに寝転がる。
 俺はどうしたいんだろう? 全力でぶつかったほうがいいんじゃないか? 受験も恋も。
気分は乗らないけれど、このまま自分のキモチをうやむやにしておくのは違う気がする。
机の上の携帯を取って、俺は関川に返信を送る。「参加希望」とだけ。
短いけれど、初めて自分のキモチをぶつけにいった四文字だ。

     *

 月曜日になって、俺は放課後の教室で、関川に遊園地の件について聞くことにした。
「なあ、土曜日の件なんだけど」
「ああ、遊園地の件ね。なんか最近お前、木内とも川本とも仲悪い感じだから、みんなで遊べばよくね? と思ってさ」
「そうなのか」
「そうなのか、じゃねーよ。お前のことなんだから。でも、大地が参加するとは思ってなかったけどな」関川が照れくさそうに笑う。
「このままじゃいけないからな」
「何をだよ。女の子と遊園地に行くのに、お前本当に真面目っつーか、固いというか。まあいい、当日遅刻しないようにな」
「ああ、分かっているよ」俺達は遊園地の件を話した後、途中まで関川と一緒に下校した。

     *

 ダブルデート当日。
どうやら、真っ先に集合場所に着いたのは俺のようだ。
梅雨で雨が続いていて、久しぶりの晴れの日だからか、駅前の交差点には、これから土曜日を楽しもうという感じのカップルや家族連れが多い。
そんな光景を見ながら、他のメンバーの到着を待つ。
少し日差しが暑いくらいだ。梅雨が終われば夏が来る。もちろんまだ梅雨は続くけど。
「大地待った?」白のワンピース姿で華美は現れた。
「全然。ただ、関川と川本がまだ来てない」華美の白のワンピースを見るのがなぜだか恥ずかしくて、視線を逸らしてしまう。
「そうなんだー。部長なのに遅刻とかけしからんな」俺は華美の言葉に思わず少し笑ってしまった。
「もうすぐ来るんじゃないかな。それより、なんだかんだで華美と会うの久しぶりだな。ピアノは良い感じなの?」
「うーん、それなりにね。できることをやってる感じかな」
俺の携帯が鳴った。
携帯を開いてみると、関川からのメールで、内容は、関川と川本が来れなくなったということだ。
俺は、すかさず関川に電話を掛ける。
七コールまで掛けた所で、只今電話にでることができないことを知らせる留守番電話サービスに繋がった。
「どうしたの?」
「理由はよく分からないけれど、関川と川本、二人とも来れなくなった」
「おー。じゃあ、大地と二人になっちゃったね」
「まあそういうことになるな」
「優香ちゃんと久しぶりに会いたかったのにな」華美が左手で髪の毛をいじっている。
「残念だけど、仕方ないな。どうする、二人で遊園地行くか?」
「うん、そうしましょう。今さら家帰ってもすることないしね」
「じゃあ、電車乗って向かうか」俺達は駅に向かって歩き始める。
 今日、俺はキモチをぶつけようと思っている。今まで生きてきてまだ誰にも伝えたことのないキモチ。
誰かを、好きという感情。抑えようとしても、抑えられない感情。
上手く伝えることができるだろうか? 関川と川本が居てくれたら、少し緊張がほぐれたのに。
だけど、どの道告白する時は、二人だ。俺と華美。
華美は俺に告白されて驚くだろうか? 告白をOKしてくれるだろうか?
不安と緊張が入り混じって俺の心拍数は上昇している。
その緊張を悟られないように、いつもより多めに自分から話題を出しながら、俺と華美は二人で遊園地に向かう電車に乗り込んだ。

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