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フラグ

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「なんてこった、気付いたら放課後だ!」
「寝てたもんなぁお前」
 隣のドクオが呆れ気味に言ってきたが、気にしない。
 あの後、俺は放課後まで寝ていたらしい。
 全く随分な睡眠欲の持ち主だと関心せざるをえない。
「クー、よく大人しくしてな。偉いぞ」
 俺の心地よい睡眠を邪魔してくれなかった辺り、流石は俺の邪気眼である。
「あなた様の望みは叶えるのが私だから」
 気づけば頭の上に乗っていたクーがそう言う。
 全く何を考えているかわからないが、主人想いなヤツである。
「お前の能力、本当凄いな」
 そんな俺らのやりとりを見て、ドクオは今度は羨ましげに言ってくる。
「羨ましくてもやらんぞ」
「いらんわ、幼女」
 短いとも長いとも言えない付き合いのコイツが、ロリコンではないことが分かった。
 もちろん、俺もロリコンではない。

 そんなこんなで、俺達は下駄箱まで来た。
 さっさと帰って、早いところアニメでもゲームでもしようかねぇなんて思っていた。
 すると、靴の上に――本来あるはずのないものがあった。
 何を隠そう、今や幻のアイテム「ラブレター」である。
 形状がまさにソレだ!
 ハートのシールで封がしてあるし。
「……日本始まったわ」
 逸る気持ちで、すぐに文面を確認する。
 そこには、三階まで来て下さいとだけ書いてあった。
 名前も書かないところが、乙女の恥じらいを思わせて胸にくるものがある。
 これは嬉しすぎるぞ。

「ドクオ」
 限りなくクールを装い、友人の名前を呼ぶ。
「なんだ内藤」
 しかし答える声も、なぜかクールだった。
「俺はこれから、私用があるから一緒には帰れない」
 ゆっくりと開いた下駄箱の扉を閉じて、回れ左をする。
 今来た道を戻る形になるが、そこには忘れ物を取りに戻るのとは違った意味があった。
 俺はドク男に何かしらツッコミを入れられるだろうと考えたが、それでもつっきるつもりだった。
「奇遇だな、俺もなんだ」
 だが、その言葉で俺は背後を振り返らざるを得なかった。


25, 24

  

「何?」
 驚いた顔で振り返ったその先には、ドク男と、その手に握られている紙。
 俺のと入っていたのは違うが、その内容の意味はきっと同じ。
「本当に奇遇だが、悪いことは言わない。お前のはきっと罠だ」
 だがあのドク男にまさか、そんな手紙が届くワケがない。
 そう思った俺は素直に、ドク男にそう言っておいた。
 これは親切心である。
「おいおい。俺のは大丈夫だが、お前のこそ絶対罠だぞ内藤」
 しかしドク男は、あろうことか俺の手紙を疑ってきた。
 きっと、いままでシャイで俺に告白できずにいた女子が精一杯の勇気を振り絞って書いただろう手紙を、だ。
 ここでこの手紙を疑うという事は、その子の思いを踏みにじること。
 俺にはそんなこと、できるはずがなかった。
「そこまで言うなら、今から行って事実を証明してやる」
 だから俺は威張れた。
 俺を慕ってくれた可愛い女の子の心を、裏切ることなんてできないからだ!(キリッ
「おうおう言うじゃねぇか、俺だって証明してやるよ」
 しかしドクオも負けてじと威張る。

「俺は三階に用がある!」
 自信満々に宣言する。
「俺は二階に用がある!」
 余裕そうな顔でドクオが言ってくる。
 どうせすぐにその顔は、絶望で染まるだろうにかわいそうな男である。
「ならドクオが先に事実が分かるのかお」
「ああ、絶対笑ってる顔だがな」
 じりっと、互いの足は同時に床を踏み込んだ。
「間違ってたら、罰となんか奢れよ」
「それはこっちの台詞だバーローwww」
 そして、ドクオの言葉が言い終わると同時に――
「俺のところにいるのは絶対に可愛い子だー!」
「俺のところにいるのは、確実に清純派美少女だー!」
 疑う心など微塵も持ち合わせることなく、走った。

 階段を二段飛ばし、時たま三段飛ばし。
 横にはドクオが似たような速度で並走している。
「俺はここだ! 健闘を祈る!」
 けれど二階に差し掛かり、別れる。
「心折れないようにな!」
 俺はそこでそんな台詞を残すと、親指を立てて二階の廊下へとドクオは姿を消した。
 負けじと、走る。

 一瞬、脳裏に由華のことが思い浮かぶ。
「今は目の前、俺を待ってる子の方が大切だ!」
 階段を駆け上がる足に力を込め、踏み込んでいく一歩一歩で彼女の姿を消していく。
「ついた! 待ってろよ、今いくからな」
 気付けば、目的地である三階へやってきていた。
「あなた様」
「ん?」
「進言したいことがございます」
 いままでどこにいたのか、急に俺の頭に乗っかると、クーはそんなことを言い出した。
「許す、申せ」
 彼女に倣って、俺も妙な言葉で応じた。

「敵です」
 短く、けれどはっきりと、言う。
「邪気眼使いが、近くにいます」
「新手の……邪気眼使い……!?」
 瞬く間に、場の空気が変わるのを感じた。
 ゆっくりと廊下の中央に立ち、周囲に注意を向ける。
 すると聞こえてきた、金属音が近づいてくる音。
「あいつ、そうか」
 そいつはゆっくりと姿を現した。
「来てくれて嬉しいよ、内藤」
 男とも女とも分からない声の主は――

「フリーバトルだ! 始めよう、戦いを」
 西洋の甲冑を着込んだ、あの教室にいた、クラスメイトだった。
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