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<ソウタ 2>

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<ソウタ>

「着きました。ここで確かですか?」
「ああ、ここだ」
 吸い尽くして、フィルターまで焼け付いた煙草を、車から降りて投げ捨てると俺は白いスニーカーの底で踏むつぶした。
 思いのほか力の入ったその動作は、天気や相変わらずの街や悪循環する自分への嫌気のせいだが、樋口をだんだんと恐れさせているようだった。
「やめるなら今だけど」
 着いたのは、海岸沿いにある一つの小さな貸し倉庫だ。港が近く、カモメの鳴き声やさざ波の音が風に乗って適当に飛んでいる。
 俺は取ってつけたような笑みで樋口を見た。言葉とは裏腹に、今更もう遅い、というニュアンスを伝えるためだ。それを的確に汲んでもらえたようで、彼は若干眼を泳がせたあと、静かに頷いた。
 貸し倉庫のシャッターを開けると、ムッとするような潮と錆の匂いが顔を覆いつくした。無意味と分かりつつもそれを手で払って、隅に積んであった三つのダンボール箱を力任せに破り、中身を確認する。
 俺の後ろからそれを覗いた樋口が息を呑むのが、背中越しに伝わってきた。中には衝撃の緩衝材に包まれた、黒光りする無骨なもの―――銃器が無造作に詰め込まれていた。無論、モデルガンなどではない。二つ目にはそれに詰める銃弾、三つ目には幾つかの猟奇的なほど大型のナイフが入っていた。
 チラと目にするまで気付かなかったが、さすがの俺も小刻みに震える手で箱を担ぐと、軽自動車のトランクに積んだ。
 積み終えた俺たちは、再び運転席と助手席に座り、お互い言うべき言葉もなく、長めの沈黙を味わった。
「……やるんですね、本当に」
 沈黙の間、新しく火をつけたつけた煙草が半ばまで燃えた頃、樋口は分かりきったことを尋ねてきた。いや、尋ねたというよりは、自問するような形か。
「やるな。間違いなく。―――怖気づいたか?」
「いえ。俺なんて、生きててもしょうがないですから」
 樋口は分かりやすい自嘲の笑みを口の端に垂らして、爽やかな顔つきとは裏腹な、毒の浮いた顔をした。
「……勘違いすんなよ。俺たちは自殺するためにするんじゃない。生きてることを実感するために、するんだ」
 自分で自分の言っていることに宗教臭さというか、胡散臭さを感じて呆れたが、樋口の顔に浮かんだ暗い影をかき消すことは出来なかった。
 彼は彼で、どうやら心や過去に、いろいろ余計なものが付き過ぎているらしい。
「しかし、まぁ……やっぱ二人じゃ心許ないなぁ」
「ですよねぇ……」
 俺の言葉にすばやく同意を重ねてくる温厚そうな青年は、どう見ても血なまぐさいことの似合わない風体をしている。お前じゃ頼りない、というニュアンスを含めたつもりだったが、気付かなかったようだ。
「まぁいい。別に焦って実行する理由もないし、ちょっと時間つぶしに行こう」
「え、ああ、はい。どこへですか?」
「とうの昔に潰れた工場だ」
「……は、はぁ」
 いまいち俺の意図がつかめてないような顔をして樋口はアクセルを踏むが、なんのことはない。
 俺も自分が何を考えているのか、よく分かってないだけだ。無理もない、混乱してるのだろう。もうどうにでもなってしまえ、そんなヤケクソな感情が俺の頭の中では渦巻いていた。自暴自棄なのは生まれつきだが、今は、特に。
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