教会へ
ゼルがロストールについて、リエルに連れられて行った先は、
教会の門から一度出て、敷地をぐるりと回った先の広い墓地の端にある、
もう使われていない古くて小さなレンガ造りの教会でした。
本当に場所はここでいいのか、というゼルの問いに、
リエルはニコニコして間違いありません!と言い切るので、
少し困ったまま塗装の禿げた扉から入ります。
大きくドアがきしんで、気の抜けた音を立てて閉まると、
中には朽ち気味のベンチや、ボロボロの彫刻が並んでいて、
真っ白な百合の花が飾られて、香りが鼻に届いてきます。
丸いステンドグラスから入る色とりどりの光が、空中の埃を輝かせて、
心なしか、神秘的に感じられます。
ゼルが見回すと、最前のベンチに座る人影を見つけます。
リエルをみると、嬉しそうに頷いて人影のほうを手で示すので、
恐る恐る近づいて行くと、足音に気が付いたのか、
その人影は本を読むのをやめて、眼鏡をはずしてこちらを見上げてきます。
ゼルは大きく目を見開いて、真っ黒な髪で銀色の目をした
美しい顔の彼をみて、思わず名前を呼びます。
「ジルベール…!」
「…なあに、ゼル。」
名前を呼ばれた彼は心底嬉しそうに八重歯を見せて笑うのでした。