VOL.1 孫娘
夏休みも終盤に近付いたある朝―――—。杉並区の閑静な住宅街にある二世帯住宅の瀟洒な邸宅。
「じゃ、行ってくるねー!」
厚手の黒淵メガネが生真面目かつ真っ直ぐな性格と、微かな幼さを残す柳原若葉は、モスグリーンの半袖Tシャツと、ジーンズのホットパンツ、素足にサンダルといったいでたちで元気に玄関を飛び出す。大好きな水泳、100m平泳ぎの代表として参加する大会は一週間後。練習に余念がないのだ。明朗活発な健康優良児は12歳のこんがりと日焼けした素肌を、この後プールサイドで晒す筈だった。そして紺色のスクール水着を水中で躍動させ、青春を謳歌する予定でもあった。が、しかし、彼女が行き着いた先は学校でもプールでもなく、生き地獄のような監禁場所、だった―――—。
僅か数分後の事だ。若葉は突如、拉致の恐怖を味合わされる羽目となった。白いハイエースの中に押し込められ、待ち構えていた男二人は、用意周到に若葉の逃れるための気力と、はるかに力で勝る犯行者たち抵抗する勇気を奪いにかかる。12歳の少女に、とてもこの凶行から逃れることなどできはしない。身悶えるが、男には尾後から両肩を鷲掴みにされていたためTシャツが引きちぎれる。日焼けした太腿を振りあえたが、サンダルが脱げ足首を前から男の腋に挟まれた。
「い、いやッ…やめてッ! 放してッ! た、助け…てぇッ…あ、あぁッ、いやあああああぁぁぁぁ――――――—ッ!!」
閃光を放つスティック状の凶器を首筋に存分に押し当てられた若葉は、ビクン・ビクン・ビクンと成長著しい女児の体躯を痙攣させるしかなかった。
男たちのコンビネーションはなかなか秀逸だった。電撃から解放され、力尽きたように車中に横たわる若葉の鳩尾に正拳をヒットさせる。うぅッと呻く若葉、その薄ピンク色の唇に粘着力抜群の布テープがねっとりと貼られた。それではまだ、この少女を支配下に置くに不足と言わんばかりに、背後の男が若葉の手首を後ろに回し、荷造り用結束バンドで厳しく結わく。次いで、ホットパンツから延びる健康的な素足もぴしりと揃えきっちりと縛めた。若葉は、自らの身に何が起こっているのか、この男たちが誰なのかも理解できず、ただただ恐怖と理不尽な運命に、外れかけた眼鏡の下で瞳を潤ますのだった。