「どうだい、君も一本吸ってみるか?」
彼女はお茶を誘う如く軽く彼に向けて煙草を一本差し出した。
「自分まで犯罪者になるのは御免です」
「ふむ…、人は大きかれ小さかれ何かしら
『犯罪』の名が付く事はしてきていると思うが、ま、いい判断だ」
そう言いながら口元の煙草から紫色の煙を揺らめかせる。
手元では火を付けられる事を拒まれた煙草をくるくると玩んでいた。
「だからって進んで犯す事はないですよ」
「正論だな……しかし興味はあるだろう?」
「無いと言ったら嘘になりますけどね、でも吸いたいとは思いません」
その一言で興味を失ったかの様に、彼女は視線を彼から窓えと移す。
表情は普段はただ淡々としているのだが今は何となく面白くないと言った感じに見えなくも無い。
「ふー……不味いな…」
単なる呟きが、他意の重みとして圧し掛かってくる。
つまる所これは……、拗ねているのだろうか?
「はぁ……わかりました、部長一本ください」
「ほぅ、さっきはいらないと言っていたじゃないか」
その時の部長の顔は、獲物が罠にかかったという感じで。
悪い意味で良い笑顔をしていた。
「気が変わって煙草を思いっきり吸ってみたくなったんですよ」
「ふふ……なるほど気がかわってか、ほら」
部長から煙草を受け取り、火をつけてもらう。
それを、思いっきり……吸うっ!
「ゲホッ…っ! ガホッ! うぇぇえええぇぇぇッッッッ!」
「ハハハハハっ、本当に思いっきり吸うとはな、いや、面白いっ!」
あ、頭がクラクラする……、やっぱり吸わなきゃよかった、き、気持ち悪い。
部長も僕を見て何故か大うけしているし……ううう。
「ぶ、部長は……、こんなもん吸ってるんですか……」
「そのうちなれるさ、おっと、灰は零すなよ」
「わかってます……」
部長から差し出された携帯灰皿を受け取り半分も吸っていない煙草を捻じ込む。
その様子を見て、部長は少し眉毛を動かした。
「ま、君にあげた煙草だ別に何も言わないさ」
なら何でそんなに不機嫌なんですか……。
「ふー……、酷い目にあった……まだ頭がクラクラする」
咳込みで出た涙を手で拭う、
部長は以前とプカプカと何時もどおりの倦怠そうな顔を煙と共に浮かばしていた。
「あ……、きたな」
「へ? 誰がです?」
「妹」
そう言いながらゆっくりとした動作で吸っている煙草を揉み消しゴミ箱に放り込む。
何時もの事なので何も言うまい……。
「妹さん? えーっと……、あの記憶が正しければ生徒会のあの子ですか?」
「ん、あぁ…そうだよ」
憂鬱そうに窓を閉めていく。
その時、勢い良く部室の扉が開かれた。
「姉さんっ! また煙草を吸ったなっ!」
「いや、吸っていたのはそこの彼だ」
キッ、と強い視線が自分に向けられる、思わず竦み上がりそうになった。
妹さんは部長と比べて背が小さく、その趣味の人が好きそうな印象を受ける。
「また出まかせを言って…、今回は姉だからと言って見逃しはしないっ!」
「ふむ…、ならどうやって吸っていた事を立証させる?」
「手を出してください」
部長は一瞬苦い顔を見せた、それと非対象に妹さんは勝ち誇った顔をしている。
「万事急須だな……ここは素直に、……逃げるっ」
「「え?」」
そう言い残して部長は窓から、思いっきり飛び降りた。
「姉さんっ!」「部長っ!」
窓に駆け寄るが、もはや部長の影も無かった。
「部長……、貴方は本当に何者なんですか?」
問いは言えど答えは無く、窓から吹く風を受けただ佇む。
「美術部の部員さんか?」
「え、あ、あぁはい、そうです」
おっと、妹さんが居る事を忘れていた。
「念のため、手を出してくれ」
「えっ?」
あーーーハハハハハハハハハハハ。
忘れていた、自分も吸ってしまった事を。
以後、逃げようとして、捕まり。
部長の代わりに始末書を書いたりと散々だった。
部長…恨みますよ…。
〈あとがきと説明〉
妹……とは佐々山の事です。
速攻で書き上げたのでいずれ書直します。