A-五話「雄作戦」
妹に泣かれ、蹴られ斬らて教室を追い出されてしまった。
それにしても、大嫌いか。
「……死のう」
妹に嫌われるぐらいなら死んだほうがマシだ。
誰だってそうに決まっている、たぶん。
授業中なので誰も通らない廊下をトボトボと歩く。
考える事は全て妹との楽しかった日々の事だ、今となっては意味の無い虚像となってしまったが。
あぁ、それでも一度は聞きたかった「大好きだよお兄ちゃん」と。
あ、やべ、ニヤケが止まらん。
「はぁ~……」
現実と妄想のギャップに気づき溜息が出る。
こんな事なら亮と一緒に帰ってればよかった、なと今更ながら思う。
肩をさらに落とし階段をのそのそと上がりドアの前に立った、ここを開ければ屋上だ。
屋上のドアに手をかける、普段なら鍵がかかっているはずだか。
今日は何故か開いていたが、こちらとしては好都合だ。
ドアノブを回し外に出る、心地よい風が開けると共に吹き抜けた。
「あー気持ちいー……」
「そうだね~」
むにゅっ……。
……?
背中に今朝と同じ柔らかい感触が、これがデジャブって奴か。
……、あの、その、ベルトを外そうとしないでください。
こんな事をしてくるのは記憶をたどるほどでもなく、姉様だろう…。
深く息を吸い、溜息として出す。
「姉ちゃん、なんでいるんだよ……」
「えー? 風流がこの世の終わりっていう顔で階段上っていくんだから。心配だから後ろついてきたんだよ」
そう言い姉はいっそう強く抱きしめてきた。
自分の後ろにいる姉の存在をいつもよりいっそう強く感じる、暖かい……。
「…………、別に何でもないよ」
「ほんとにぃ?」
姉は抱きついたまま肩に顎を乗せ自分の顔を覗き込んでくる。
なんだかその視線がムズ痒い。
「ほんと、なにもないから」
「……、そう」
ならよかった、彼女はそう呟き瞳を伏せた。
軽い沈黙が屋上からの風と共に流れる。
「さて、戻るか」
「んー、もう少しだけ」
「姉ちゃん……俺が単位やばいって事知ってるだろ? だからさー……」
「こうしてると暖かいでしょ」
「……うん」
恥ずかしいとも拒むことも出来ずに。
なすがままだが、それが嫌だと感じたことはなかった。
前よりいっそう強い風が吹き抜ける。
でも、寒くはなかった。
「ねぇ風流……」
「ん~?」
「チューしようか」