「ねぇ風流……」
「ん~?」
「チューしようか」
―――
姉と俺は血の繋がりが無い。
なんでも両親が交通事故とかに合ったらしい。
それで家ぐるみでつきあっていた吉原家に姉が養女として迎えられたのだ。
この時俺は5歳、姉は6歳、俺にとっては畏怖の存在でしかなかった。
日常を侵す異端者、そう俺は見ていた。
が、そんな事を知ってかしらずか、たぶん知らないんだろうなぁ。
姉は俺によくちょっかいを出してきたのだ。
そりゃもう姉という名目の大侵略ですよ。
アイスは食われるは、外に無理やり連れて行くはー、喧嘩はするはー。
何時しか俺は立派な弟として役目を果たしていたのだった。
時は流れ小学生時代。
小学生というと安易な約束やー告白などして自滅した奴らも多かろう。
ちょっとマセてくる五年生の時の話だ。
当時俺のクラスにはマドンナ的な女子がいた。
男児どもはこぞって彼女の気を引こうと色々としたものだ、さりげなく。
もちろん他の男子などに見られた日には明日からどうしよ的な。
リストラされたお父さん的な哀愁を漂わせるはめとなる。
まぁそんなこんなで俺も玉砕した一人という事を記しとこう。
あの放課後の夕焼けは今でも覚えている……、ただただ赤かった。
そんなわけでブレイクンハートされた俺は泣き泣き家に帰ってきたわけなのだが。
そこで運が良いのか悪いのか。
ちょうど友人の家から帰ってきた姉とはちあわせしたのだ。
泣いてる姿を見せたくなくて、逃げて、逃げと追いかけられる定理なわけで。
結局は全てあらいざらい語っちまったんだよなぁ。
そうすると姉様は今の様な微笑を浮かべながらこう言ったのだ。
「なーんだ、大丈夫、お姉ちゃんがお嫁さんになってあげるよ」
まー……何を思ったんだろうなぁ俺も、
荒みきった心が姉を天使と幻視させたんだろ、そうに違いない。
思わず姉に抱きついて絶対だよ、とか言っちまったんだ、うん、というか普通逆だろ。
まぁそんなわけで姉は本気にしちゃって。
もう、風呂に入ってくるわー、寝込みおそってくるわー。
よくぞ俺の貞操が守られたものだと、一途に妹のおかげだ。
何処かで区切りをつけなくては……。
姉の事は嫌いではないが、いや、むしろ好きなほうだが、なんというか。
異性として見れないというか、姉は姉ですからーー。
――そろそろ現時逃避やめようか。
「あの……、姉ちゃん?」
「うん?」
そう傾ける顔は何時もの微笑と少し赤くなった頬だった。
何時もならシレって言うくせに、こんな時ばっかり本気になるからズルイと思う。
俺は……どうすればいいんだろう。
姉の事は嫌いじゃない、でも、何か違うような気がする。
俺は姉ちゃんの弟で。姉ちゃんは―……。
「俺のこと―――」
そう続きを言おうとした瞬間に、屋上に設置してある大型スピーカーから。
授業終了のチャイムがけたたましく鳴り響いた。
「あーぁ、もうちょっとだったのに、ま、いいか~じゃ、またお昼にね」
姉は俺からあっさり離れドアの方にトコトコと行ってしまった。
残されたのは自分一人。
「……、一体なんだったんだ」
呟くが夏空に響く蝉にかき消され、太陽の光に目を眩ませる。
空は今日も青い……。