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B―六話「西部戦線異状なし」

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 代金を払い、私達は外に出た。
 吉原とは言うと打たれたというのにケロっとした顔で、どこへ行こうかなぁ、と呟いてたりする。

「おいっ、吉原!」
「大きな声出さなくても聞こえる、何さ?」
「行くぞ!」
「次はカラオケがいいなぁ」
「ふざ……」
 ふざけるな、と言いかけるが、ある閃きにより出かけた言葉を飲み込んだ。
 今回この、さぼりに付き合えば今後何かしらの対策が立てれるかもしれない。
 うむ、中々の名案だ、決してカラオケとかいう所に行きたいわけではないぞ、うん。

「んあ? カラオケ嫌いなのか?」
「嫌い、というか行ったことすら無い」
「ふーん、まぁ好きな曲でも歌えばいいさ、どうせ二人だ」

 どうせ二人だ、二人だ、二人だ?
 誰と? 私と吉原が個室で二人っきり?
 なななななななななっ!
 そんなハレンチなっ!
 大体吉原とは出会っても、そんなにたっていないし……。
 い、いや、たしかに私だって彼氏がほしいとか思ったことはあるが。
 そそそそそそそれでも。やはり、二人っきりということは……。

「おい、佐々山? さーさーやーまー、佐々山さーん」
 そこで、ハッと気がつくと吉原の顔が目にアップで前に写しだされた。
「な、ななななんだ!? いいいい、いきなり話しかけるなっ!」
「いや、だって、一人でなんか異世界に行ってるから連れ戻したほうがいいかなと思って」
「お前が変な事言うからだろっ!」

 あまりにも恥ずかしくて。私は駆け足で街中を歩きだした。
「お、おい……、何処行くのー?」
 そう言いながら吉原は追ってくる、それを振り切ろうとしてさらに足を速める。
「なー何処行くのさー?」
 吉原は軽々とついてくる、さらに足を速める。
「おーい、きこえてるー?」
 さらに足を速めようとしたその時。
 私の視界が一匹の猫を捉えた。
 足を止めて目を凝らす。
 その猫は酷く弱っているようで、喧騒とした街の中ベンチの横で蹲っている。
 側から見れば、猫が日向ぼっこしているように見えるがアレは違う。
 呼吸が浅く早い、うなだれている。脱水症状を起こしているかもしれない。
 猫の方に近づき状態を確認しようと近づくと。
 猫は薄く目を開け、私の方に掠れた鳴き声で泣いた。
「っっっ! トラっ! どうして街なんかにっ」
 最初はよく毛色が似た猫だと思っていたが今の鳴き声で確信した。
 この猫は私が飼っている猫だ、あああ、どうしてもっと早く気づかなかったのだろ。
「ふー…ようやく追いついた、お、ヌコだモフモフさせろー」
「よ、吉原、ど、どうしよう、トラが…トラが…早くしないと、死んじゃうよぅ」
 一刻も早く、獣医などに連れて行くべきだが。
 トラがこの様な瀕死な姿で苦しんでいると思うと、悲しくて、不甲斐なくて……。
 とととにかく、早くなんとかしなければ、携帯、ああっ! 元々持っていなかったっ!
 ならば公衆電話だ、救急車は何番だったかっ ええいこうなったらそこらにある店から電話を。
 っと店の方に駆け出そうとした時。
「落ち着けっ!!!」
 吉原の一喝とともに脳天にチョップが繰り出された。
「む、むぅぅ……すまん…取り乱した」
「まぁ、どういう事情かわからんが、とにかく獣医だな、よし、わかった」
 そう言うと吉原はトラを抱え始めた。
 トラはというと元々人見知りする猫だから当然の如く暴れ始めたが。
 もはや暴れる余力も尽きたか、程なく暴れるのをやめた。
「んじゃ、ちょっくら行って来る」
「ど、何処に行くっ!」
「言ったろ獣医って、ちょい遠いから佐々山は学校に戻っとけ、んじゃあな」
 そう言い残すと吉原は教師から逃げるよりも早く走り出した。
 残された私はというと……。
 この熱い太陽に目を眩ませていた。
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文-「網駄目歩」挿絵-「桐霧」 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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