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やります。魔法少女になります!

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「どうなってるの?」

「きびー。朝ごはんよ」

 お母さんが用意してくれた朝ごはんを食べ、ランドセルを背負ってきびは急いで公園へ向かった。何事もない朝は昨日と同じだ。同じ朝食。同じ天気。道を歩く同じ人の会話。

「ルシアン!ルシアーン!黒猫のルシアーン!」

 きびは公園で黒猫の名前を呼んだ。ルシアンがカラスに襲われた辺りだ。

「夕方じゃないといないのかなぁ?」

「誰?あなたは……」

 ルシアンが茂みから現れた。
 きびは疑問に思っている事を一気に吐き出した。

「ルシアン!どーなってるの!昨日と同じ事が今日も起こってるのー!家にいたルシアンだって消えてここにいるし、おかしいよ!!」

「待って、待って!何言ってるのかわからないわ!それにあなたいったい……」

 きびは落ち着きを取り戻し昨日の事をルシアンに話した。

「なるほど、あなたとは今日が初めて会ったわけじゃないのね」

「どうして明日に行けないのかな?」

 ベンチに座ってきび達は考えこんだ。

「願い事をかける時何て言ったの?」

「えーと。たしか……」

 きびは願い事を思い出してみた。

「時間を昨日に戻して!今日を無かったことにして!!……って」

「今日を無かった事に……原因はそれじゃない?」

「じゃあ、もう一度願い事をすれば明日に行けるって事?」

「ええ」

 ルシアンは浮かない顔をした。

「よかった!簡単じゃん!」

 きびは魔法の水晶玉を3つ手のひらに乗せ願い事をした。

「町の時間が明日も進みますように!」

 水晶玉が輝き出すと光が破裂する様に消えた。

「あれ?どうしたの?」

「……町の時間を止めてるからそっちに魔力が使われてて、残りの魔力で時間を戻すには足りないのよ」

「そんな。じゃ、どうするの?私達ずっとこのままこの日を繰り返すの?」

「魔女がいれば。魔女が力を貸してくれれば、町の魔法は解けると思う」

「じゃあ魔女に会いに行けばいいんだ!」

「でも、簡単じゃないの。私達魔女じゃない者が魔女界に行くには魔女の道標みちしるべが必要なの。人間界にいる魔女を探すとなると、この世界に何人の魔女がいるのか……砂漠で米粒を見つける様なものよ」

「そんなぁ~。…………でも、いるかも知れないんだよね!本物の魔女がこの世界に!」

 きびは嬉しそうに言った。

「喋る猫もね」

「これから探す方法を考えよう!」

 きびは立ち上がった。

「何を探すって?」

 お母さんの声がした。
 きびはゆっくりと振り返るとお母さんが仁王立ちしてこちらを睨んでいる。

「随分ゆっくりしてるじゃない。あんた、学校行ったんじゃなかったの?ここで道草食って何してるの?学校から電話があったのよ!心配させて!速く学校行きなさーーい!!!!」

「は、はい!」

 鬼の形相でお母さんに怒られ、きびは急いで学校へ向かった。
 学校でも先生に怒られた。この時だけは速く明日にならないかと思ったきびだった。

「きびちゃん今日、どうしの?」

 給食になると向いに座るしろが話しかけてきた。

「色々あって、学校に来るの忘れてたの……」

「なんか疲れてるみたいだね」

「うん……」

 給食の時間になると教室のスピーカーから音楽が流れた。この音楽は放送委員が自分達の好きな音楽を校内に放送できる。今流れてる曲はプリティープラムのエンディング曲だった。オープニング曲を流さなかったのはアニメの曲だとすぐにわかってしまうからだろう。バラードの様な落ち着いたメロディーがきびに閃きを与えた。

(そうだ。放送……放送すれば良いんだ!)


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

 学校からの帰り道、きびは公園に寄った。ルシアンを呼んでみるも返事は無く現れなかった。仕方なく家に帰ると、リビングになんと、ルシアンがダンボール箱の中でスヤスヤと眠っていたのだ。

「もう~大変だったのよ。きびが学校に行った後この猫苦しそうに鳴き出してぐったりしてるんだもの。動物病院連れてったら風邪だって言うのよ。家に連れて来ちゃった」

「私も心配だったんだ~このねこ……」

「お母さん、これから買い物行ってくるから留守番よろしくね」

「はーい。行ってらっしゃい……」

 きびは横目でルシアンを見た。ルシアンは片目を開けて

「にゃーん」

 と、鳴いた。

「よかった。公園にいないから心配しちゃった」

「えへへ。お世話になってます」

 少し気怠そうだが朝会った時より元気そうだった。
 きびは早速思い付いた魔女の探し方について話した。

「あのね。給食の時思い付いたんだけど、放送とかどうかな?魔女に声を届けるの。魔女にしか聞こえない声で、助けに来てって!私達が探すんじゃなくて、魔女に私達を探してもらえばいいんじゃないかって!」

「悪くないアイデアだわ。……でも、その声がどこまで届くのか……水晶玉の魔力も半減してるし町の外の状況もわからないから、広範囲は期待出来ないわね。この町の中に魔女が居てくれたらいいんだけど」

 うーん。と2人は腕を組んで悩んだ。きびがちらっと時計を見るとこご5時を回っていた。

「あ、待って!この時間は……」

 きびは慌ててテレビをつけた。

「プリティープラムの再放送の時間だ!」

 きびはアニメを見始めた。オープニングの歌が流れる。

「放送……これよ!」

「へ?」

「きびちゃんの記憶を使って魔法少女物のテレビ番組を作って放送するのよ。テレビを通してなら拡散しやすいはずだわ」

「魔女もアニメ見るの?」

「魔女界にもいるのよ。ヲタクって奴がね」

 ルシアンは微笑んでウインクしてみせた。
 ルシアンの記憶は、きびの魔法によって更新された。町のループから外れたためきびと同じ時間を過ごせる様になった。お母さん達の記憶にはルシアンは前から飼っている猫だという事にして魔法をかけた。

「こういう魔法は効くんだね」

「町に比べたら範囲が狭いからね。でも、親御さんの時間はまだ戻さない方がいいわ。混乱するから」

「うん……」

 きびは不安そうな顔をした。

「ねぇ、番組ってどうやって作るの?」

「色々考えたんだけど、コレを使いましょう」

 ルシアンはテレビの下に置いてあるDVDレコーダーを指差した。

「DVD?」

「の、ディスクの方。録画を移すディスクあるでしょ?それに私の見た記憶をこっちに移して欲しいの」

 きびはダビング用のDVDディスクをテレビ横の棚から取り出した。

「コレに私は、ご主人様を石化されたシーンを移して。きびちゃんは黒マントの少年に襲われた日を書き込んで。あとは編集して魔法少女の番組っぽくなれば誰か釣れると思うの」

「何かゆーちゅうばーみたいだね!」

「ゆーちゅー?まぁ、そんな感じでとにかくやってみましょう……それで大まかな設定を考え……なきゃ……」

「ルシアン?」

「なんだか……体が……力が入らなくて……」

「大丈夫?そう言えは、ルシアン体調悪いんだっけ……」

 ルシアンが床に臥せてしまった。
 気丈に振る舞っていたが、疲労が溜まっていたのだろう。魔女探しの番組作りはきび一人で進める事にした。

「……ごめんね。きびちゃん」

「まかせて!ルシアンはちゃんと休んでね」

 きびはディスクにルシアンの記憶とあの日起きた記憶を魔法で移した。赤い水晶玉が光る。魔女のための魔女の番組。この町に何が起こったのか分かる様にしなくてはならない。

「んじゃ、サクッとやっちゃいますか!あ、その前に……」

 きびはこれをどうするか考えた。
 ノートを広げてこの後の大まかなあらすじを書いた。きびはノートに魔法少女が着る衣装と変身するためのアイテムの絵を描く。

「いいじゃん。これ、かわいいじゃん!あはっ!まずは……この魔法の水晶玉を……魔法のアイテムに変えちゃえ!えい!」

 赤い水晶玉が光ると水晶玉は魔法少女が変身するためのアイテム、魔法のブローチに変化した。ブローチの真ん中には赤い水晶玉が埋め込まれている。きびはブローチを胸元辺りに服に付けた。

「変身!」

 胸元のブローチが赤く光るときびの服も光り出した。服は形を変え、魔法少女の服となるフリルの付いたワンピースへと変わった。

「やっぱり魔女っ子はこうでなくちゃね!プリティープラム見たいな番組作るぞ!……どうやって編集するんだろう?」

 きびは取り出したDVDディスクを眺めた。

「映像の中に私が入って、必要なシーンといらないシーンを魔法で消したりくっ付けたりすればいっか!じゃ、出てこい!魔法のステッキ!」

 胸元の魔法のブローチから光の球が飛び出し、アルトリコーダーサイズの杖が現れた。先端には赤い宝石が付いている。それは王笏おうしゃくによく似ていた。きびは杖を手にするとDVDに向かって魔法をかけた。

「映像の中に連れてって!」

 きびの体は透けてDVDディスクに吸い込まれる様に消えた。

 DVDの中に入るとルシアンの記憶の世界が目の前に広がった。
 外国の街並み。灰色の町。石化された灰色の人。彷徨うルシアンと迎えに来た魔女。突然現れた黒マントの少年に襲われたシーンが流れた。

(これがルシアンの記憶……この人がルシアンのご主人様……)

 映像はルシアンとご主人様との別れで終わった。

「待ってて、きっと元通りにするから!」

 一週間後、きびはDVDディスクの中から魚が飛び跳ねる様に出て来た。きびの部屋のベッドに着地するとルシアンが出迎えてくれた。
 この頃になるとルシアンの体調も回復し起き上がれるほど元気になっていた。

「出来たーー!」

「お疲れ様きびちゃん。」

「あとはテレビに流すだけだね!」

「そうね!取り敢えず試しにテレビの砂嵐が映る時間帯に放送してみましょう」

「テレビの砂嵐?」

 きびは不思議そうに首を傾げた。

「そっか、きびちゃんは夜中までテレビ見ないから知らないのね。放送が終わると番組が映らず砂嵐の様な映像が流れるの」

「へー。魔女って終わりまでテレビみるんだね」

「時々ね……」

 ルシアンが遠い目をした。ルシアンのご主人様はテレビを見ながら寝る時がよくあった。テレビのスイッチを切りご主人様に毛布を掛けるのをルシアンはしていた。何度言ってもやめられないのだと駄々を捏ねていたのをルシアンは思い出した。

 そして、ついに新聞のテレビ欄には載るはずの無いテレビ番組のタイトルが書かれきび達の番組がテレビに流れた。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

『トキメキウィッチ!シュガール』

 始まりはルシアンの記憶からだった。
 ご主人様との別れで人間へやって来たルシアンは魔女を救うため、人間で魔法少女を探す事になった。
 ここで人間界の日常シーンが始まり、きびのナレーションが入る。

「私、佐桃きび小学四年生!魔法少女に憧れるちょっぴりお茶目な女の子!」

 きびは学校へ行く途中、カラスに襲われている黒猫を救うと、赤い石を落として黒猫はすぐにどこかへ行ってしまった。
 きびはそれを拾って学校へ行き、友達といつもと変わらぬ日常を過ごしていた。(ここら辺はきびによって日常を脚色してある)
 学校からの帰り道で異変が起きる。
 敵である黒マントの少年が登場し、怪物顔付き球体が現れ人々を石化させ苦しめていく。
 人々を襲うのを目撃した友達しろとあらせが危ない目に遭うと、きびの持っていた赤い石が輝き出した。

「な、なに?コレは!」

「Transformiトランスホールミと叫んで!」

 朝の黒猫が塀の上から叫んだ。

「猫が喋った!」

「いいから、はやく!」

「トランスホールミー!」

 赤い石が輝き出すときびの体は光に包まれ着ていた服が魔法によって変わった。

「もも色の空より降り立つはエデンの御使みつかい。トキメキウィッチ!シュガール!ルヂェータ!」

 魔法少女に変身したきびは戸惑いながらも黒猫の言葉に耳を傾けた。

「それは魔法少女の服よ!魔法少女に変わった今なら魔法が使えるわ!胸のブローチを押してみて!」

 言われた通りブローチの宝石を押してみるとボタンの様に少し凹み、どこからか不思議なメロディーが流れると光が飛び出し杖が現れた。
 きびは、今にも襲われそうなしろとあらせに向かって魔法の杖を振った。

「扇風機よ出ろ!」

 顔のある球体から吐き出される灰色の煙が扇風機の風によって押し返される。

「な、なんだ?」

「煙が押し返されてるわ!」

 あらせとしろが驚きながら言った。
 シュガールルヂェータは杖を敵に向け呪文を唱えた。

「シュガール砲発射!!」

 杖の先端にある宝石の様な部分が光だし光線が放たれた。煙を吐いている怪物に当たると爆発して散った。
 怪物が爆発すると黒マントの少年は消えてしまった。

 何事もなかった様に人々は石化から元に戻った。
 きびはほっと一安心するも、そばにいた黒猫が倒れてしまう。家に連れて帰ると息を切らせながら黒猫がきびに言った。

「わたし……帰らないと……魔女界が……」

「無理だよその体じゃあ!」

 黒猫は折り畳まれた毛布の上に横たわっている。きびに向かって手を伸ばす。

「お……お願い。魔女達を助けて。あなたの力が必要なの!」

「なんだかよくわかんないけど、これのおかげで助かったんだからやっちゃう!!」

「ありがとう……シュガールルヂェータ」

「とりあえず元気にならなくちゃね!」



 黒猫は、なんだか薬品臭い場所に連れて行かれた。

「ここは?」

「病院だよ」

 部屋の奥からなにやら物騒な物を持って白衣を着た人が近づいて来る。
 黒猫に大きな注射が刺さった。

「ギニャアアアアアーーーー!!!」

 映像が切り替わり、ルシアンが猫の姿のままテレビの向こうに向かって話し出した。
 画面下にテロップが流れ町の名前やきびとルシアンが出会った公園の住所の文字が流れた。

「この番組を応援してくれる魔女を募集しています。この町に現れる怪人黒マントと戦ってくれる仲間が来てくれるのを待っています。でも、気を付けてあなたの側にも怪人黒マントは現れるかも……さて、来週はみんなもシュガールと一緒に戦ってくれるかな?またね。バイバ~イ!」

 テレビは砂嵐になった。
4, 3

弧ノ海カルル 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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