駅、プラットホーム、であい
男は昨日しこたま酒を飲まされ、そして電車に乗り遅れた――最悪の展開である。
彼の飲酒による失態はこれが初めてではなかった。酒を勧められると断ることができず、許容量を超えて飲み続ける。そして寝坊をする。定番化されたパターンだった。
これがコメディであれば、『そういう個性を持つキャラクター』ということで、もしかしたら片付くかもしれない。しかし現実は違った。
次に遅刻したらクビだぞ――
「…あったま、イテェ……」
電車が矢吹宏一を置いて走り去って行った。宏一の顔は真っ赤で、口は半開きだった。え、うえぇ、と呻いてすぐに、プラットホームにしゃがみ込んで嘔吐を始めた。
宏一の涙は、嘔吐にのみ起因するものではなさそうである。
次に遅刻したらクビだぞ――
「…けほっ、くそっ、あああ、終わった……くそ、終わった」
ふらふらと立ち上がり、宏一は鉄の柱を思い切り蹴った。
「終わっちまったよ、こんちくしょーーーーがーーーーーー!!」
「…うるさい」
陰から、ボソッと声がした。
階段の下、朝なのに暗いその陰に、制服姿の少女が座っていた。
「なんだぁ、キミぁ、あんちゃんに文句言うだか?」
宏一は方言丸出しで少女に迫った。少女はそれに取り合わず宏一のスーツの袖を引き、耳元で言った。
「誰もいないところ、いこう」
駅のトイレで、宏一は少女と交わった。
宏一は舌で少女の乳首を弄ぶ。少女は声こそ漏らさないが、身を捩じらせ、快感がせり上がってきている様子が見てとれた。
――なんなんだ?
宏一は、状況の整理がつかぬままに、少女の体を味わっていた。今はただ、本能のみで動いていた。
右手中指は少女の陰部を薄い布の上から擦っていた。左手はもう片方の胸を塞いで、捏ね繰り回していた。
少女の口から遂に声が漏れ出す。言葉にならない短い音の連なりだったが、それが返って感情の高まりを感じさせ、宏一の性欲を煽った。
「いくつだ?」
宏一はチャックを下ろしながら声を抑えて言った。
「いくつだよ?」
「…わすれ……んっ…!」
宏一は舌打ちした。宏一はズボンを下ろした。宏一は少女の下着を破くような勢いで脱がせた。
「ッ!」
少女の表情が変わった。明らかに悦んでいる。
「知らねぇぞ年なんて……お前が言わないのが、お前が誘ってきたのが悪いんだからな……! 警察来たらそう言うからな、俺は……!?」
犯罪行為――そう自覚しながらも、宏一は腰を振り続けた。
「あっ、つ、う、んぅ……」
狭くて具合のいい、男に好かれる性器を持つ少女。宏一はすでに達しようとしていた。
「ガキのクセに……一体何人に抱かれてきてんだっ……」
「わすれ、たぁ……」
「忘れすぎだろ、このっ……いくからな、もう、いくぞっ!」
「あ、たしも、」いっ――」
宏一は全てを放った。会社への鬱憤も。酒への恨みも。暴力的な衝動も。そして何より、自分への憤りを――
宏一は、暫し繋がったまま余韻に浸った。やがて引き抜くと、少女の膣から少量の精液が流れ落ちた。
「…お前、名前は?」
「わすれ……」
またかよ、宏一は深い溜息をついた。それとほぼ同時に、少女は何かに気付いた顔をした。
「…あ……思い、出した……今。あたしの名前」
少女は洗面台に片手をつきながら、宏一の方を向いた。
「なんてーの?」
「美羽」
物忘れの激しいその少女は、美羽と名乗った。