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見つからない、離れない 3

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 アパートの一階に管理人の部屋がある。
優奈は、自分が落ち着きを失いつつあるのに気付いて、あえてゆっくりとした動作を心がける。
流子は優奈から1メートルほど距離をあけてついてくる。
目聡い彼女のことだから、既に自分の態度に不審を抱いているかもしれない、と優奈は考える。

 だが仕方ない。もうあの匂いを嗅ぎながら暮らすのは耐えられなかった。
一人で隣の部屋を見に行くなど、なお出来ない。
匂い自体はけして酷くは無い。
意識しなければ数分で慣れてしまう程の匂いだ。
しかし、ある想像をしてしまった優奈は、そのかすかな匂いに地獄を味わうほどに苦しめられた。

 管理人の部屋の前に着く。
チャイムを押すと、中から、はぁい、と明るい声が聞こえた。
なんだか、お化け屋敷の中で見るプラネタリウムのような場違いな印象を受けたが、それは自分の勝手な想像によるものだと気付く。

 ドアが開いて、管理人の女性が顔を出す。こちらから挨拶する。
「あ、こんにちは」
「こんにちはぁ、どうなすったの?」
「えぇと、鍵を貸して欲しいんです」
つい言葉足らずになってしまう。
「あら、鍵をなくされたの?」
「いいえ、貸して欲しいのは302号室の鍵なんです。その・・・なんだか302号室からおかしな匂いがするので、調べさせて欲しいんです」

 管理人の女性はすぐに鍵を持ってきてくれた。
「じゃあ、行きましょう」
一緒に302号室を調べてくれるようだ。

 三人で階段を上がっていると、ほんの少しだけ心強い気持ちになる。
それと同時に、なんだか気恥ずかしくなった。
もしかして、友人を自分のとんでもない妄想に付き合わせているのかも知れない。

 三階にたどり着く前に、例の匂いを感じる。
もう少しでこの匂いの原因を知る事が出来る。
自分が想像している事が、ただの妄想なのかどうかを知る事が出来る。

 管理人の女性が302号室の前に立ち、部屋を開けようとする。
優奈は、急にそれを引き止めたい衝動に駆られた。
自分を抑える。
引き止めることはない。
わざわざ問題の解決を妨げることはない。
鍵穴に鍵が入る。
やめろ!
ドアノブに手がかかる。
そのドアを開けるな!
ドアが開く。
管理人の女性の顔が歪む。
ああ・・・
流子が眉をほんの少し持ち上げる。
彼女のこれほどまでに驚いた顔は、今までに見た事が無い。
だから開けるなと言ったのに・・・
優奈は、急に背中のあたりが寒くなるのを感じた。

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