「あと2週間だな」
せわしなく動き回るクラスのみんなを横目に、必死に台本に喰らいついている私。
その横で笑いながら余裕そうに辺りを見渡している剣崎君がそう言った。
"もう"という意味なのか"やっと"なのか検討もつかないが、私はこの2週間は長く感じられた。
台詞合わせのために剣崎君とほとんど一緒に居たし、1年分くらい話をした。
話せば話すほど、彼という人格に引き込まれていった。
ちゃんとしており一貫性がある考え。間違ったことはちゃんと指摘する強さ。
部活でいつも見ていた背中からは想像もつかなかった。
それを今私は身近に感じている。充実時間を過ごしているんだ。
残り2週間ともなると、学校中が慌しくなってくる。
変な背景画みたいなものが美術室にあるし、女装した人なんかもよく見る。
看板を作っていたり、机やパンフレットなどを作っているクラスもある。
授業はまだ結構あるが、週に5時間は文化祭の準備時間になっている。
1日1時間計算だ。それだけこの学校が文化祭に力を入れているというのも分かる。
当日は外部からのお客さんも来ることになっており、生徒も皆気合が入っている。
――あと2週間なのにまだ台詞覚えてないって、大丈夫かな?私。
「うっす~。ガンバってる?」
そこに現れたのは……って男装!?
私の驚いた顔を見て嬉しかったのか、にんまりと笑っている。
上下を白いスーツで着こなしており、長い髪はそのまま放置されているが、上品さが際立っていた。
知らない人がぱっと見たら、男性だと本気で思うと自身をもって言える。
にやにやしながら肘で突いてくる綾香を尻目に、私は剣崎君に視線を戻した。
「もしかして、私たちもコスプレするのかな?」
「コスプレっていうか、衣装だな」
苦笑を隠し切れずに返してくれた剣崎君にも、綾香はいいでしょ~といいながら迫っている。
男装したいから自分は男の役にしたんだな。私の配役は女なのに。
「瑠奈と剣崎君の衣装はもう少しでできるから、また今度袖通してみてね」
はぁ。もう今から憂鬱だ。
――そして、文化祭当日となる。