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第四話『unfair』

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「今日は、人生最悪の日と言っても過言じゃないな。とんだ災難だ。」

ブロロ、と排気音を立てて走る車に揺られながら

初老の男性は、舌打ちをして忌々しそうにそう吐き捨てた。



警備の奴等は、何をやっていたんだ!?

ビルが何者かによって爆破されるだというテロ行為は、

この平和ボケした日本では考えきれない事だ。

―――――――あぁ、腹立たしい。

しばらくは、完全に再建するまでうちの会社はろくに機能しないだろう。

株価は、大暴落。そして、この様な事態を許してしまった警備についても

近々、無能なマスコミ共に言及される羽目になるだろう。


ビルに関しては、保険金がおりるとして気付いたら

中に置いてきてしまった娘を救出させる為に、馬鹿高い金を

支払って、【JOAT】 に依頼したのも腹立たしい。

一方で、ビルの状況を見れば、【JOAT】に依頼せねば

自身の娘はどう考えても助からないだろう

心の内で、それもまた一つの事実である と男は思った。



男が、そうイライラしながら今後の後処理について思案していると

突然、車が赤信号でもないのにストップした事に気付いた。


「どうした?」

目の前の運転席へと呼びかける。


今度は何だ? こっちは急いで後始末をしなければ

ならないというのに、こんな所で停止して時間を食うとは。


窓から、外を見回して周りに一切の車両が走っていない事に、

ふと疑問を抱きつつも会社の現状を考えればどうでも良かった。


「それが、何者かが前方の道のど真ん中に立ったままで前へ進めないんです。」


クラクションを喧しい程に、鳴らしながら

その音に掻き消されぬよう運転手が大声で此方を向いて言う。


―――――――何者か?


あぁ、腹立たしい。

どうやら今日は、とことん厄日らしい。

こんな訳の分からない事にも遭遇してしまう羽目になっている。


「分かった、もう良い。

私が、道を退く様に言ってくる。」


何か物を言うのに、気弱そうな運転手を見て時間がかかりそうだ

そう、私は思った。


まどろっこしい、だったら自分が言いに出た方がマシだ。直ぐに済まそう。


男は、そう考えながら車のドアを開けて、降り

道を塞いでいる訳の分からない人物へと歩み寄る。


遠目から見て何者かは、どうやら男のようだ。

顔立ちからして20歳前後と言えようか。

黒のトレンチコートを着ていて、若者の流行という奴なのだろうか

大して、日が照っている訳でもないのに真っ黒のサングラスをかけていた。

そして、その青年はじーっと歩み寄って来る私の方を見て黙って見続けている。



「フェア《公平》じゃないな

―――――――あぁ、フェアじゃない。」

不意に、ぼーっと立ち尽くしている青年は口を開いた。


「は?」

間の抜けた返事をしてしまう。


―――――――フェアじゃない? 何のことだ?


「そうだろう?社長さん。 アンタは、フェアじゃない。

だから、この俺がこうして奴の代わりにアンタに対峙している。

これは、―――――――ペナルティだ。 オーケー?」



何がおかしいのだろうか、嘲笑しながらそう目の前の青年が、

言い終わったと同時に自身の後方から、凄まじい爆発音が聞こえた。


「!?」

何が起きたのかと反射的に、私は後ろへと振り向いた。


「な―――――――!?」

呆然。

振り向いた先にあったのは、先程まで自身が乗っていた乗用車。

それが、逆様にひっくり返っていて炎上していた。

そうして、車が炎上していく様を見て只、唖然とするしか

なかった私へと後方から声がかけられる。


「どうした?かかってこないのか?

俺との勝負は、既に始まっているぞ?

分かり易いようにゴングを鳴らしてやったつもりなのだがな。」


そう呼びかけられた方向へと、青ざめた表情をしながら

顔を向けて何が何やらと理解できていない私は落ち着き、思索する。


ゴング?


もしや、この青年が先程の爆発を引き起こしたと言うのか?

嫌、ありえない。

遠隔操作による爆発でもない限り―――――――


そこで漸く私は、事態を理解した。


「成る程。御前が今回のテロ事件の犯人か。」


遠隔操作。 それを考慮すれば全てに合点がいく。


しかし、先程の私の言葉を聞いてもいなかったかの様に青年は


「ん、待てよ? ふむ、翌々考えてみれば此れは御前にとって

フェアじゃないな。俺が直接出てくる事によって、奴にとっては

フェアになるだろうかとは思ったが、これでは

俺の力が圧倒的過ぎて話にならん。

フェアじゃない――――あぁ、フェアじゃないな。すまない。

良いだろう、フェアにする為にチャンスをやる。選べ。

今からまた、あのビルへと引き返して奴が居る

火の中へと入りに行くか、それとも―――――――――」


本当に、何が楽しいのだろうか。

高圧的に言いながら相変わらず青年は、嘲笑している。



それを見て、とても腹が立った。 我慢ならない。

ビルが炎上しているのも、

私がこうして足止めを食らっているのも、

全ての元凶は目の前のコイツのせいなのだろう。

沸々と、怒りがこみ上げてくる。

蒸気の様に、湧き上がる怒りと殺意を抑え付けながら

私はギュッと拳を固めて、何かずっと呟いている青年を見据えた。


何、これでも学生時代はかなりならした方だ。若造等には、遅れは取らん。

逆に、注意するべき事は怒りの余り男を殺してしまいそうになるかもしれない

という点のみだった。

気を付けよう、殺す一歩手前までで己を押しとどめておけ。

そう、己に念を押して青年へと地を強く蹴って駆けた。


「―――――ここから一歩も動いてはならないというハンデを

背負った俺と闘うかどうかだ。さぁ、選べって・・・・何だ?

もう決めたのか、つまらないな。しかも、最悪の選択の方を。」



訳の分からない事を言い続けている青年へと容赦なく飛び掛る。

なめられたものだ。 そう、私は思った。

自己陶酔しているのだろうか青年は一度たりとも此方を向かず、

ぶつぶつと呟き続けていたのだから。







     「全く―――――――愚かだな、御前は。」







飛び掛ってくる初老の男性を見据えて、くっくっと青年は嗤う。


此処に、不公平極まりない理不尽な裁決が下された。
5

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