「優斗、ご飯中くらい携帯置いときなさい」
「お兄ちゃん、ついに彼女できたんだね」
「あのな……隣の葵さんだぜ?」
食事中にも関わらず届いてくるメールに、俺は仕方がなく返していた。
くそ、女子ってこんなにもメールするのかよ。男は全然しないのによ。
「佐倉さんのところの娘さんね。仲良くしてる?」
「しすぎなくらいにね」
携帯の画面を一目見てふと箸が止まる。
>>優斗は囲碁しないの?
>面白いよ。
あんまり考えずに素早く入力し返信する。
悩んでいると思われたくないからな。
>>>囲碁?なんだよそれ。
>>どうしてもうやって欲しいのなら
>やってやってもいいけどな。
我ながら素直になれないと思った。損な性格だな。
囲碁か……教えてもらえるのならできそうだな。
それから俺の楽しいというか地獄なメールのやり取りは寝るまで続いた。
よく話題が尽きなかったな。布団の中でそんなことを思ったが、気にはしなかった。
それよりあんなに葵と話す?のは久しぶりだな……。
小学校以来か?いつもは囲碁とかいうやつの本ばっかり読んでいるし。
囲碁部がない時ぐらいしか一緒に帰れないしな……。
しかも、今日みたいに部活がない日までも石を触ってるし。
って、俺ってこんなに葵のこと想っていたのか……。
もう寝よ。うん、そうしよう。
「そっちよりこっちの方がいいんじゃない?」
「そう思う?でもね私はこっちから潰した方がいいと思うけど」
「それじゃあこっちで白が陣地を作ってしまう。最善の一手ではないね」
また朝から"囲碁"かよ。葵の隣で石を打っているのが、囲碁部の部員の一人だ。
どうやらこの学校は囲碁部の名門らしく、それで葵もここに入ったらしい。
ただの偶然の一致だったんだな。今になって確認。
それにしても……楽しそうにしてんな、葵。
俺と囲碁打ってもあんなに楽しそうに打ってくれるのかな?
「そこは挟んだ方がいいと思うな。こう逃げられたら黒はどうにもならないでしょ?」
「んーなら挟んだとして、こっちから白が伸びてきたらどうする?」
「その場合はね、先に取りに行くのがいいと思う。こっちから」
高度な会話してんな……。まったくわかんねぇ。
「あ、そうだ。佐倉さん、今度家に来て打たない?」
何?家に呼ぶだと?ふざけるなよ。
「待った。それなら俺と勝負してからにしろ」
「え、優斗……何言ってるの?」
「ほう、天元君も囲碁出来たんだ?」
くそ、馬鹿にしやがって。もう許さん!
「ああ、1週間後勝負だ!」
「いいよ、受けて立つよ。囲碁部の主将として」
「優斗……まったく馬鹿ねぇ」
あ、こいつ部長だったんだ。