ヤマンバ
ある日彼が都会の群衆の前で思索にふけっていた時だった。通りがかった少女の群れの一人が彼に声をかけた。彼女はヤマンバのような格好をしていた。
「おにーさんヒマなの?」
彼はそういう風に声をかけられることは慣れていたので思索をやめずに返答をすることができた。
「いやーちょっと世の中がわからなくなってさ……」
すると相手の少女たちは「なにそれー」とか「道に迷ったのー?」と気楽なことを言うのだった。彼はふとそんな彼女に問うてみたくなった。
「君たち世の中でわからないことってある?」
すると彼女たちはこう返すのだった。
「ハァ?何それ?ワケわかんない」
彼は彼女達にわからないことがあるかと問うたのに対してそれ自体がわからないという返答を受けた。彼女達が見事に脱構築の論証を体得していることに彼は驚いた。
その後彼女たちと行動を共にしていると段々と彼女たちの様式というものが理解できるような気がした。彼女たちは自分達のルールを持っているのが彼には興味深かった。例えば自分達のグループ内で同じ男とは付き合わない、付き合ったらグループを出る等だった。彼女たちはそのようにして自分たちの世界を生きているのだと思った。彼はその時なんとなくレヴィ・ストロースが理解できたように感じた。
彼女たちと別れると彼は記念にリーバイスのジーンズを買って帰った。