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純粋文芸批判恋空最高

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 哲人は恋空を読んで涙した。彼はソシュールの言語学的地平から見てすべての小説には差異しか存在しないことを知っていた。現代の思想を盛り込み、そして刺激を与え欲求を充足させる機能として彼はそれを小説だと認めた。彼はむしろ森鴎外の舞姫などを読んでは雅文体によって安易に差異化された商品として排斥した。

 彼にとってそういった文学は露骨にさえ見えた。彼は小説の機能を覆い隠し、そしてあたかもそれが純粋な空想の産物であったり、古くは『詩』と言ったものにすり替えようとする稚拙なトリックに嫌悪した。彼は恋空を安易な商売であると批判する人間を見ては、舞姫ほどの安易な権威は存在しないのではいかと声を挙げたくなるのであった。彼は露骨な性描写よりもむしろそれがあたかも美の象徴であったり詩的なものとして描かれることを愚かだと感じた。そういった露骨さが隠されていることが彼にとってはいっそう露骨なものとして映った。

 彼はまたライトノベルを好んだ。その嗜好は幼いころに商業文化によって条件づけられたものの延長であると彼は認めていたが敢えてその条件を理知によって覆すことを拒んだ。多くのものは同様の刺激でありふれていたがそれでも彼は欲することを止めなかった。彼は日に五冊のライトノベルを買っては通学途中に読破しその日の内にゴミ箱へ捨てた。

 なぜ彼がライトノベルに大した刺激を求められないことを分かっていながらその習慣を続けているのには理由があった。彼はライトノベルはまだ文学よりはマシであることを知っていたからだ。彼は現代の思想とは異なる昔の文学作品に触れては嫌悪感を感じた。彼はたとえそこに現代に通じる思想の文脈を見つけたとしてもそれを拒んだ。何故ならばそれは未来に向けての思想であるからだ。たとえそれによって未来に向けた新たな思想が生まれるのであろうとしても彼は今現在の思想しか必要としなかった。
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