トップに戻る

<< 前 次 >>

3/3 : プロローグ

単ページ   最大化   

 この病院の集中治療室の前に時計はない。だから、秒針が時を刻む音が俺の耳に届くはずもない。
 だとしたら、耳の奥の方で聞こえる規則正しい音は何なのだろうか。
「ふう……」
 溜め息が漏れた。
 覚悟はしていた――はずだった。それでも、いざこれでお別れだと思うと辛くて痛かった。
 お母さんが血を吐いて意識を失った後、傍にいた沙織は突然のことに呆然としていた。俺の幼馴染は身に着けていたカーディガンを朱に染めて、ただ目の前の母親を見ていた。
 対照的に、俺と弥生は「来るべきものが来た」とでもいうように、落ち着いて対処した。目の前のショッキングな映像は、まるでブラウン管を通して見ているように感じられ、現実味がなかった。
 俺は弥生にナースコールをさせると、病室を飛び出して直接主治医の元へ向かった。
 ――その後、緊急の処置がその場で行われ、母は移動式のベッドごと集中治療室へと運び込まれた。

 どうしてだ、どうして――。
 俺は母の死を「すでに一度経験して」いる。だから、言うべきことを言う為に沙織を病院に引っ張ってきたんだ。二度目は失敗しないように。
 もう思い残すことはない。母には安心して逝ってもらえる。そうやって、自分を納得させようとしていた。
 ――だけど、いざその時が来てみるとどうだ……。
「ちくしょう、二度目の方が辛いじゃねえか……」
 言葉にして吐き出してみても辛さまでは発散できなかった。ただ大きい穴が心に開いている、それだけだ。
 大切な人の死を二度も経験しなければならない理不尽さを憤りに換えて、心の穴を埋めようとする。それでも穴は埋まらない。
 ――その穴を埋められるのは母親だけなのだから。
 開く気配のない集中治療室の扉を見つめながら、俺は三週間ほど前の出来事を思い返していた――。



 三月に入り、ここ最近は温かい日々が続いている。特に今日はコートが必要ないくらいの陽気だ。母を亡くして以来全く元気のない沙織の様子を見に行くために、俺は今日も金沢家を訪ねようとしていた。
 住人が一人減った家の前の門扉を通過し、インターホンを鳴らすことなく合鍵を使って中に入る。沙織に俺が来たことが伝わるよう、なるべく大きな音がするよう乱暴にドアを閉めた。
「さおー、また来たぞ」
 返事はない。ここのところ毎日この調子だ。
 沙織の部屋のドアの前に立って、こう言う。
「入るぞ」
「……うん」
 そしてドアを開け、中に入る。沙織は部屋着のままベッドの上に腰掛け、何もない宙を見つめていた。
「もう体の調子は大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
 お母さんが死んだ後ショックのあまり体調を崩した沙織は、ずっと外に出ることなく家の中で過ごしていた。
「助……毎日、ゴメンね――」
 申し訳なさそうに言う沙織の顔に胸が痛んだ。
「ああ、どうせ暇だからな」
 沙織自身、いつまでもこのままでいるわけにはいかないとようやく思い始めてきたようで、俺はそろそろ沙織を外に連れ出そうかと考えていた。
「今日の昼飯だけどよ、久々に外で食おうぜ」
「……気を遣ってくれるのは嬉しいけど、そんな気分じゃ――」
「そのままだと、本当に心の芯まで腐っちまうぞ」
 俺の脅かすような言葉に何を言っていいか分からなくなった沙織は頷くしかなかったのだろう、静かに立ち上がってドアを指差し、こう言った。
「着替えるから出てて」

「もうだいぶ暖かくなってきたな」
 沙織を引き連れて昼前の住宅街を街の中心に向かって歩いて行く。
「そうだね」
 心ここにあらずといった様子の沙織は、先ほどから俺が何か言う度に相槌だけを打ってはまた黙り込む。
「……少しずつ立ち直ってくれよ」
 俺が沙織の頭を撫でてそう言ってやると、沙織は不思議そうな顔で俺を見上げた。
「う、うん」
 その時、確かに沙織からボーっとした雰囲気は消し飛んでいたが、大通りに近付くにつれてまた俯き加減で歩くようになっていった。

 正直、俺も辛かった。
 あの日、俺が昼過ぎにバイトに出るため自室を後にしようとしたまさにその瞬間に、病院に居るお父さんから連絡があった。俺は店長に断りの電話を入れることも忘れ、そのまま病院に向かった。
 病院に到着したときの、お父さんと沙織の沈痛な面持ちは今でも鮮明に思い出せる。俺が着いた時点で母は既に集中治療室の中に居て、俺と母の間は分厚い扉で隔てられていた。
 そして、担当の医師が中から姿を見せ、集中治療室に通された時には既に母は亡くなっていたのだ。
 翌日には通夜、その翌日に葬式、出棺と、全ては納得がいかないほどスムーズに進み――。
 気が付けば、俺の第二の母親は灰になっていた。
 母の衰えた姿を見るのが怖くて、ろくに見舞いにも行かず、そして死に目に会えず、言いたいことも言えず――。
 俺は母に何も出来なかった。
 そして、沙織は目の前で母親が血を吐く場面を見たせいで、二日のうちはまともに口も利けない状態になってしまった。
 沙織のために何とか自分の心に鞭打って金沢家に通い、そして今に至っている。

 俺は左隣で歩いている沙織を横目に見ながら立ち止まった。
 葉の茂ってきた街路樹が窮屈そうに並んでいる通りの交差点――その歩行者用の信号は赤だった。
 赤。血液の赤。母を燃やした炎の赤。――死の赤。
 俺たちの目の前を多くの車が通り過ぎていくのが、意識の奥の方で感じられた。

 信号が青に変わり、俺の不吉な連想ゲームは終わった。
 さあ、歩き出そう――と、俺たちが渡ろうとしている横断歩道とは逆の横断歩道の方に何気なく目をやった。
 次の瞬間、俺の視界に入って来たのは「人が飛ぶ」ところだった。
 街路樹の視角から飛び出してきた信号無視の中型のトラックに気が付かなかったのか、対岸の横断歩道を渡ろうとしていた長い黒髪の女性の身体が中に撥ね上げられていた。目を見開きながら宙を舞う彼女の表情は、とても強く印象に残った。
 さらに悪かったのは、沙織がほとんど無意識のうちに車道を横断しようとしていたことだ。
「沙織――!」
 俺に名を呼ばれ、初めて自らの身に迫った危機を悟ったのか、沙織の顔に驚愕と恐怖、さらに焦りが浮かぶ。
 そして――、それが俺が最期に見た沙織の表情だった。



「……はじめまして、こちらへどうぞ」
 気が付くと、俺の目の前に妙齢の女性がいる。いくつもの疑問があってもおかしくないはずなのに、どうしてか何も気にならない。
 俺は言われるがままに女性について行った。意識がはっきりしてくると、どうやらここが役所のような建物の中であることが分かってくる。
「ご説明申し上げます。貴方は下界にてお亡くなりになりましたので、こちらと――」
 そう言って、彼女は茶色い封筒を取り出して俺に渡した。中を覗くと一枚の紙が入っていた。
「そして、こちらの書類に必要事項をご記入の上、あちらの窓口へお持ち下さい」
 事務的にそれだけ言うと、女性はさっさと歩き去ってしまった。
「はあ、分かりました。どうも」
 俺は彼女の背中に会釈をして、書類記入のために設けられたスペースへと移動する。
 机の上で封筒を逆さにして軽く叩くと、「死亡証明書」と書かれた用紙が出てきた。役所側の印は既に押されていて、どうやら俺は署名すれば良いだけのようだ。
 さっさとサインを済ませ、もう一枚の方の書類に目を通す。「死亡状況調査書(日本語圏用)」と書かれたその書類は、フリガナ付きの氏名、生年月日、国籍やら住所、本籍、さらには死因など、いくつもの記入欄があり、その中で最も大きい空欄は「死亡時の自身及び周囲の状況」を記すための欄になっているようだ。その欄にはいくつか注釈があり、覚えている範囲で構わない、他人が自己の死に関わる場合はその旨を記し、さらに関わった人物の氏名などが思い出せる場合は具体的に書かなければならない、などと明記されている。
 面倒な手続きだと思いながらも、俺はバイトの面接に使う履歴書のお陰で書き慣れたいくつもの項目を埋めていき――書き損じた個所はご丁寧にも用意された修正液で直し――最後に、もっとも書き慣れない欄には「交通事故」と書き、その下の大きな空欄に「幼馴染である金沢沙織がトラックに轢かれそうになっているところを助けに入り、身代わりになる」と記した。

「次の方、どうぞ」
 自分が並んでいた窓口の担当者に呼ばれ、俺は前の人物に倣い、言われる前に二枚の書類を提出した。
「確認し、照合いたしますので少々お待ち下さい」
 担当者は必死に書類に目を落としているようだった。できれば沙織がどうなったのかを尋ねて見たかったが、忙しなく書類の文字を追って動く手を見ていると、遠慮した方がいいように思えた。
「……? 少々お待ち下さい」
 少し経って、突然担当者が眉を顰めた。そして、奥のオフィスの方へと消えていく。
 何か書類に不備でもあったのだろうかと不安になっていると、今度は奥の方から茶髪の若い女性が出てきた。
「あー……ごめんなさい。別室で対応させて貰ってもいいですか?」
 先ほどまでの機械的な口調の応対とは違う、多少馴れ馴れしいとも言える彼女の様子に、何故だか俺は安心した。
 俺は言われるがままに奥の方の部屋に通され、ふかふかの椅子に座らされた。そして、対面に座るのは俺をここに連れてきた茶髪の女性だ。およそ公務員らしからぬ出で立ちの彼女だったが、ここに来る前に周囲の人に敬語で話しかけられていた様子を見ると、意外と偉いのかもしれない。
「まずははじめまして。私はハル=アーヴィスと言います。あなたは高宮助さんでよろしいですね?」
「はい」
 明らかに日本人ではない名前を聞かされ多少の困惑はあったものの、俺は黙って頷いた。
「単刀直入に申し上げます。今回のあなたの死亡はこちら側のミスです。よって、あなたは一ヶ月間の人間界での猶予期間の後、元の生活に戻っていただくことができます」
「……ミス?」
 俺が訝しげに尋ねる様子を見て、ハルと名乗った女性はこう言った。
「ごめんなさい、今のあなたには現状を疑問に思うことが出来ないように細工――人間の言葉に換えるなら、催眠を施しています」
「はあ……」
 よく飲み込めず、とりあえず相槌を打ってみると、目の前の女性が言った。
「いいですか、落ち着いてください。その催眠を解きますので、今からあなたには死亡したショックや現状への疑問、その他の感情が一気に戻ります。絶対に落ち着きを失わないでくださいね?」
 そして、彼女が目の前で指を鳴らしたその瞬間、初めて俺は今、自分が立たされている状況の異常さに気がついたのだ。
 ヒトの感情ってものは、その力が限界値を超えるとうまく表現できなくなるのが常だ。そして今、俺の驚きと困惑のメーターは振り切れていた。
 俺はどうしてこんなところにいるのか。俺が死んだというのは本当なのか。沙織は無事なのか。目の前の女は何者なのか。今の俺は、何を言わされても語尾が「のか」で統一されてしまうだろう。
 俺の体の中で加速する心臓の鼓動だけが物を言う。口は空中でただ虚しく動くだけで、喉から声を出すこともできない。手足は混乱のあまり痺れて動かないし、目で訴えようにも視線が動かなかった。
 そんな俺に優しく声をかける茶髪の女性がいる。
「深呼吸をして落ち着いて。落ち着いてくれたら、全てを話すから」
 初対面の相手に敬語も使わず、さらに命令口調で話しかける――。通常の場面では考えられないことだが、こと混乱した相手を落ち着かせる目的の上では非常に有効だ。
 彼女は俺たちが向かい合いながら挟んでいるテーブルの上まで身を乗り出し、俺の手を取った。他人に触れられて初めて、自分の掌がじっとりと濡れていることに気が付いた。
 しかし、彼女はそんなことを気にしない様子で俺の手を強く握る。痛いくらいに両手を握られ、口の中にたまったものを嚥下して喉を鳴らしたとき、俺は初めて冷静になれた気がした。
「よし」
 彼女は俺の様子を見てそう言うと、握っていた手を離した。
 俺は大きく息を吐くと、震える声で頼んだ。
「今の状況を教えてもらえますか」

 それから始まった彼女の説明は世界の常識から逸脱していた。この役所が人の死を司る機関だというのだ。そして彼女が言うには、この機関を運営しているのは神だという。さらに、俺の死についての説明が続く。
 まず一つ、「俺、高宮助は確かに死んだ」。
 二つ目、「ただし、これは神側の関知しないところによる死――専門用語で『非業の死』と呼ばれるらしい――であるので、正当な手続きの後に俺は生き返ることができる」。
 三つ目、「手続きは人間界で一ヶ月間に渡って行われ、その間俺は擬似生命を得て過ごすことができる」。つまり、手続き中は普通に生きた体で暮らすことができるということらしい。
 そんな説明が終わった頃、目の前の女は溜め息をついてこう言った。
「……と、ここまでがマニュアル通りの説明」
「……マニュアル?」
 俺が聞き返すと、説明中の態度よりも数段砕けた感じで彼女が答える。
「おかしいでしょ? 人間が思ってる神様なんかより、ずっと人間臭くて」
 続けてこうも言った。
「今のがマニュアル通り、つまりは役所的な説明だったの。ここからは何でも質問に答えるから」
 そう言われた瞬間、俺の心のタガが外れて、堰き止められていた疑問が溢れだした。
「……ここはどこなんですか?」
「――もうお役所仕事はお終い。見た目にはそんなに歳が違って見えないんだから、遠慮しないで。私のことはハルって呼んで。多分、その方が日本人には呼びやすいから」
 俺に長いセリフを咀嚼しているような心の余裕はない。ただ頷いて、聞き直す。
「ここは?」
「神様の世界と言えば分かりやすいかな」
 神様の、世界。
「正直、信じられない」
「ええ、そうでしょう。大半の人がそうだから、死んだ直後にここに来た人にはさっきみたいな催眠――ありていに言えば魔法がかけられるの。そして、『非業の死』が認められた人からは、直ちにそれを解くように決められてる」
 聞いてもいないことまで話してくれる彼女は、今の状況のことなら何でも知りたい俺にとってはいい語り部となってくれた。
「ここは天国? もしくは地獄?」
「俗にそう言われている場所もあるけれど、ここはそのどちらでもない。ただ、人の死やら運命やらを管理する機関ってこと」
 理解はできても、なかなか納得することは難しい。
「じゃあ、ハルさん、あなたは――」
「女神って言うのが適当、かな」
 そう言われ、俺は目を見開いた。そして彼女の姿を凝視する。
 さっき彼女自身が言ったとおり、俺と大して歳は変わらないだろう。茶色く染めた髪を伸ばしている。俺たちの世界のどこにでもいる、若い女性に見える。背中に羽が生えているわけでもないし、神々しい光を放っているということもない。
「ぽくないでしょう?」
 俺が考えていることを見透かしたかのように得意気に笑う彼女は、単なる気のいいお姉さんに見えた。そう思うとなんだか緊張が取れて、普段通りに振る舞えるような気がしてきた。
 ここまで来て余裕が生まれた俺は、死ぬ直前のことを思い出した。
「沙織――沙織は?」
「沙織……? ああ、あの書類の――」
 そう言うと、ハルは懐からさっき俺が記入したばかりの書類を取り出して広げた。
「助、あなたは彼女を助けて身代わりになった、と」
「そのはずだ」
 記入したときの精神状態では何も思わなかったが、自分の死の状況を書いていたと考えると変な気分だった。人間の名前を書くと書かれたその人間が死ぬ、そんなノートの話があるが、そのノートに記入しているときもそんな感じなのだろうか。
「残念だけど」
 ハルが口を開く。一瞬、背筋が凍った。
「先のことは分からない」
「それじゃ、俺が轢かれる前に撥ねられてた女の人のことも分からないか」
 他人ではあったが、気になって仕方がない。何せ、交差点の中央に投げ出されたあの様子では、彼女が別の車にも轢かれるのは必至だ。
「他人のことを気にする余裕があるなんて、不思議だね」
「……体験すれば分かるよ。人が死ぬところを見たら嫌でも意識するようになるさ――」
 あの場面のことを思い出し、俺は身震いした。
「悪いけど、まだ説明しなきゃいけないことがあるの」
 重くなった雰囲気を払拭したかったのか、ハルが言った。俺は黙ってハルの顔を見て、いつでも話が聞ける体制をとる。
「助には、これから一週間、ここに用意された部屋で暮らしてもらうの。その後、決まりに従って『死んだ月の前の月』をやり直してもらう。これが蘇生のための手続きになってる」
「前の月をやり直す……?」
 話がよく飲み込めなくて聞き返す。
「『非業の死』は言うなれば運命のエラーで、これを回復するためには月単位で修正する必要があるの。この世界の人命の管理は月ごとになってるから、前の月からやり直さなくちゃいけないわけ」
「それってもしかして、過去をやり直せるってことか?」
 難解な話に置いて行かれそうになりながらも、なんとかついていく。
「そうなんだけど――その一ヶ月間、絶対に守らなくちゃいけないルールがあるからよく聞いて」
 ハルは真剣な面持ちで続けた。
「まず、『自分が死んだこと、または生き返ったことを他人に告げてはならない』」
 そんなことを言っても信じてはもらえないだろうが、死後の世界のことを一般人に伝えてはならないというのは何となく分かる気がした。
「次に、『自分が死ぬ前に経験した未来について、その事象が発生する前に他人に間接的にであっても伝えてはならない』」
「……悪い、分かりやすく言ってくれないか」
 また事務的な説明に戻ってしまったハルに頼むと、ハルは口元を緩めた。
「そうだね――助の場合は二月一日から手続きを始めてやり直すわけだけど、すでに二月の間に起こった事柄を知ってるでしょ? それを他人に伝えちゃうと矛盾や混乱が起こるから禁止されてるの」
「……タイムパラドックスってヤツだっけか?」
 SFにはあまり詳しくないのでよく分からないが、そんな言葉が当てはまった気がする。
「さらに、『自分が知っている未来に積極的に干渉してこれを変えてはならない』」
「なるほど」
 これは分かりやすい。つまりは未来を変えちゃいけない、ってことだ。
「『担当者が蘇生対象を保護観察し、以上の事柄を遵守していることを確認する』――今回の担当者は私がやるから」
 他の堅苦しい奴らより、ハルが担当してくれた方がいいかもしれない。
「『一ヶ月が経過した時点で、対象は完全に蘇生させられる。期間内に禁止事項を破った場合、対象は蘇生することなく死亡する』」
「死亡する……?」
 冷たい雫が背中に落ちたような感覚がした。
 俺が怖気づいている様子を見て、ハルが慌ててフォローする。
「今言ったことを守ってれば絶対に大丈夫だからさ。多少は私も甘く見るし」
「……そんなにいい加減でいいのか?」
 ハルという人間、いや女神像が少しずつ分かりかけてきたような気がする。
「うん、形式的なものだからね」
 ハルはそう言い切ると、立ち上がってさらに奥のドアを指差した。
「この奥に助のための部屋があるから、気になることがあるかもしれないけれど今日は休んで」
「……あ、ああ」
 俺は言われるがままに奥の扉を開き、部屋へと進んだ。
38, 37

NAECO 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る