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あ:相合傘

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~相合傘~


「え、でも悪いですし・・」
「大丈夫、もう一本あるし。」
普段から僕は、折り畳み傘を鞄に入れておくようにしていた。
「それにその傘、安いヤツだから。」
「でも・・・」
「じゃあ、明日にでもここの傘立てに挿しておいてよ。ここの本屋にはしょっちゅう来るんだ。」
「そうなんですか、私もなんです。それなら明日、必ず返しておきますね。」
そう言ってその子は僕の名前の入ったビニール傘を差して帰っていった。そして次の日も雨だった。
「あ、」
ちょうど、彼女が傘を戻しているところに居合わせた。
「本当にありがとうございました!」
僕の安っぽい傘を、それはありがたそうに差し出した。
「それじゃあ。」
と言って彼女は帰ろうとした。が、
「あ・・・」
「・・・もしかして、また傘ないの?」
「あはは・・・あのう、また借りてもいいですか?汗」

それからその傘はそこにあったりなかったりしたが、目立つように名前を書いていたためか、他の人が持っていくこともなかった。それに、たとえ傘を忘れてしまった日にもそれを使う気にはなれなっかった。
「あ、傘の人!」
彼女は僕のことをそう呼んでいた。
「やあ、今日はどうしたの?」
「漫画の新刊が出てるんです。傘の人は?」
「僕はコレ。」
「あ、それこんど映画化するみたいですよ。」
そんなやり取りを会うたびにしていた。それは晴れの日だったり雨の日だったり、しかしその本屋以外で会うこともなかったし、それどころかお互いの名前すらおしえ合ってない。
「傘の人は今何年生ですか?」
「三年だけど?」
「じゃあ、私と一緒ですね。大学とか決めました?」
「まあね。君は?」
「私も大体は。たぶんN大になりそうです。」
「僕はH大」
「わ、さすが傘の人!」
「N大っていうと、やっぱり引っ越したりするの?」
「多分・・・さすがにここから通うのは辛いかも。」

そして梅雨があけた。受験勉強で忙しくなったからか、本屋でお互いを見かけなくなった。
僕は無事にH大に合格し、久しぶりにその本屋に行くことにした。

その日も雨だった。

当然・・・いや、少しは期待していたが、彼女はいなかった。しかし、あの傘はあの時のまま、ちゃんとそこにある。
僕は差してきた傘を鞄にしまい、その傘を取った。彼女の手の温もりが伝わってくるようだった。広げてみると、永く放置されていたのがわかる。

「あ・・・」


_僕は久しぶりにその傘を差して歩いた。相合傘の下で一人、僕は泣いた。









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