――――其の2
ここはどこ?とか、あなたはだれ?むしろ、ぼくはだれ?なんて、質問するのはやぼったく感じられた。だから、
「この子、乳牛なの。」
彼女のいう、この子、とは牛のことだろう。草原の上に金ダライが置かれていた。彼女に手綱を引かれて、牛は、―――乳牛なら、女の牛なのか、―――モゥ、と鳴いて、金ダライの上に、ゆっくり移動した。
「牛乳が取れるわ。しぼってみない?」
うん、と答えた。べつに断る理由もなかった。
乳牛の下腹部には、4つの乳首がぶら下がっている。ぼくはかがんで、そのうちの一番近い一房を握ってみた。ほんのちょっと力を入れて、握ってみた。案の定、ミルクは出なかった。もっと強く握らないと出ないのだ。けっこう強くしないと乳が出ない気がした、ので、思いっきり握った。
乳牛はモゥ、と鳴いて、少し震えた。ミルクは、出なかった。
「もっと優しくよ。そんなに強く握ったら痛いわよ。この子がおとなしい子だったから良かったわ」
彼女の手が僕の手に添えられた。
「ごめん」
彼女に謝ったのだか、乳牛に謝ったのだか、本人でもよく分からなかった。
「いいよ。力は、これくらい」
彼女の手から僕の手に、柔らかくて、それで居て力強い、そんな圧力が伝わる。
果たして、ミルクは乳首から勢いよく飛び出し、金ダライには規則的に打ち付けられる、白い液体が満ちていく。
「力はね、弱すぎても強すぎてもダメなの。力に限らないわ。全部のことがそうじゃないかしら」
そうだろうか。そうかもしれない。ぼくの手の圧力に合わせて規則的に飛び出す白い液体を見つめながら、ぼくは思った。