ぼーっとしている君に。
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「ちょっと、きいてる?」
きょう子はふくれっ面で見上げた。十一月の風はだんだんと冬のにおいを増し、僕はマフラーに顔をうずめた。
「き、きいてるよ。」
「まったくもう。そんなんだから学校でも先生に目をつけられるんだよ?」
「ほんと、なんで僕はよく注意されるのかなあ~?」
遠くにみえる高層ビルの間に太陽が潜っていくのを眺めながら、僕たちは歩いた。西の空は澄み切ったグラデーションに彩られて、その少し上には一番星が輝いていた。
「ほら、またぼーっとしてる。あたしよりあの星のが気になるんだ。」
「きょう子みたいにきれいだな、って。」
自然に、唇からもれた言葉に自分でも驚き、耳が熱くなるのを感じた。でもそれは普段から思っていたことで、決してこの場しのぎではないことを伝えようと彼女のほうに弁明の視線を投げかけた。その彼女は、夕焼けより赤くなっていた。
「い、いきなり何よごまかさないでよっ!」
「あ・いやほんとだって。そのいつも思ってたことが、するっと出てきちゃったんだ。」
セミロングの黒髪。しなやかな指先。そして輝く瞳。少しおせっかいでうるさいところもあるのだけども。
「やっぱり僕ぼーっとしてるみたい。秘密にしてたのに。」
彼女のことを想っている、その気持ちはあまり表にださないようにしていた。だしたら、この関係が変わりそうな気がして。変わらないのがいいのか、変わるのがいいのかさえも僕にはわからない。
「ふふ。」
夜の寒さが増してきたからだろうか、彼女の頬はほんのりピンク色に染まった。
「ぼーっとしている君に効く、栄養を教えてあげる。ビタミンK。知ってる?」
「いや?初めてきく名前。何それ?」
「ビタミンKのKは」
彼女は足を止め、背伸びした。街灯に長くのびた、二つの影が重なった。