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07『超越者の呪文』   作:モモンジャ

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超越者の呪文


「あんたは人生に意味を求めますか?」
「は?」

うざったい程長いひげの鼻メガネ。OLの制服。靴はスニーカー。
道端で遭ったその妙な格好の女(?)は、
高校へ通学中の唐突に俺にその質問をした。
そんな質問にまともに答えるのは哲学好きか中二病患者ぐらいだ。

「俺、急いでるんで」

そうとも。今から俺はジャンプの立ち読みという重大な用事があるのだ。
いちいちこんな変人にかまってはいられない。

「あんたは今から人生の過酷さを知ります。ご武運をお祈りしますぞ」
「あ、ありがとうございます」

なぜ礼を言うのかもわからないまま俺は走り出した。
その人物自体が面白すぎることに気づき、若干名残惜しくはあったが、
始業ベルが鳴る前にジャンプを読み終えてしまいたかったから。


コンビニでジャンプを読み終える。
こうして授業の休み時間に友人にネタばれしまくるのが俺の日課だ。
今までも食いつく友人とか、キレる友人を見て楽しんでいた。

だが、今日だけは少し様子が違ったのだ。

「うおいコラ谷山!!」

クラスメイトの野球部かつゴリラ野郎、鬼口が叫ぶ。
谷山、とは俺の苗字だ。

「なんだよゴリぐち。バナナでも無くしたか?」

冗談混じりにそんなことを言うと、
鬼口はいきりたって俺につかみかかってきた。

「おまえジャンプのネタばれしやがったな!?そうだろ!」
「あぁ……うん、そうだけど」
「このくそやろうが!!」

俺はそのまま百裂ビンタの計にあった。
いったい俺が何をしたというのか。
いやそりゃネタばれはしたが、改めてここまでキレられるとは想定の範囲外である。

腫れ上がった頬をさすりながら俺は自分の席につく。

「なんかゴリぐちフラれたらしいよ」
「へぇ、っていうか彼女いたんだアイツ」

女子生徒の会話が聞こえてくる。
なんだ、そりゃ。
いわゆるやつあたりってやつじゃねーか。
俺は災難にあったと思いつつも、日ごろの行いについて反省を余儀なくされた。


3時限目の体育の時間が終わったころ、なにやら生徒が教室でざわざわと騒いでいた。
「えーちょっと財布ないんだけど」
「ない、ない!私のも!」
「俺のもだ!」

なんだよまったく……空き巣にでも入られたのか?
しかし、皆が盗まれたなら俺も盗まれてるかもしれんな。
どれどれ。

確認した自分の鞄の中身を見た瞬間、冷や汗が流れた。
誰が入れたかしらないが、本やDVDがいくつか入っていた。
タイトルは「肉欲狂いの熟女たち」「乳神」「中出し極上娘」ときている。

こんなものを周りに見せるわけにはいかない、と反射的に俺は隠した。
それが、まずかった。

「おい、谷山。今なんか隠したろ。ちょっと見せてみろよ」
「いや、なんで俺が鞄の中身お前にみせなきゃいけないんだよ……」

皆の視線が俺に突き刺さる。
違うんだ、と誤解を証明してやりたかったが、このままだとどちらにしろ晒し者だ。

「ねぇ、谷山君。私たちの財布、まさかその中に入ってるの?」
「入ってねぇって!」
「じゃあ見せてよ」
「見せない!!」

俺は全力で逃げ出した。

「待てコラぁ!」

被害者勢も全力で俺を追いかけてくるようだ。
階段を駆け下りて校門へ走る。
学校の外にでて中身を捨ててしまえば、とりえあず晒し者にされるのは避けられる。


外へ出てすぐにある、コンビニのゴミ箱の所に着いた。
追手もさすがに外までは追ってこなかったようだ。
ゴミ箱に鞄の中の18禁軍団をすべて捨てた。
と、そのとき後ろから声がした。

「やぁ、何をしてるのかね?君は」

校長だった。
俺に言わせればあんたが何してるんだと言いたい。

「ちょうど外に用事があってねぇ。出ていたんだけれども」

誰も答えろなんて言ってない。

「2年の谷山君だったかな?まだ学校は終わっていないよねぇ」

俺は遅刻魔で有名だった。
遅刻理由は主に漫画の立ち読みだった。
その悪名は校長にまで届いていたようだ。

「さっき捨てたものについても詳しく聞きたいなぁ」
「いいえ先生誤解d」
「あとで校長室にくるようにね」
「はい」



結局、財布は空き巣の仕業だった。
不信人物の目撃証言があったそうだ。
エロ本とAVは鬼口による俺への嫌がらせだったらしい。
ドサクサでゴリラ扱いしたのを根にもって、
わざわざ野球部の部室に置いていたのを持ってきたようだ。

それらとは一切関係なく、俺は校長にさんざん絞られた挙句、
今回のことで完全に晒し者になったしまった。


帰り道。
へとへとになって帰っていた俺の前に、またあの変なヤツが現れた。
そいつはうざい鼻メガネをくいくい中指でいじりながら俺の顔を覗きこんできた。

「ひどい目にあったようですな」
「おまえ、何ものだよ」

俺がそう聞くと、そいつは言った。

「まぁ超越者、っていうとしっくりくるかな」
「そんなものに絡まれるとは災難だぜ」



「でもさ、『人生っておもしろい』よね?」

その言葉は呪文のように俺の頭に響いた。
俺は叫んだ。

「ああ、まったくだ!!」

 
7

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