B
「大丈夫ですよ、おばさん」
二胡は笑っていった、いったい、何が大丈夫なのか?
「毒ではないのです、安心してください」
「毒じゃないって………あの犬はそのお菓子を食べて倒れたんだろう?」
犬じゃないもん、ぽちだもん、と萌ちゃんがぐずりながら言った
はいはい、ぽちね。
僕は今の言葉をもう一度犬のところをぽちといいなおしていった。
まったく、だから子供は嫌いなのだ。
「はい、その通りです」
「そうですって………」
と二胡は微笑んでから、萌ちゃんの近くによって
腰を折り、体をかがめ、少し下からの目線で聞いた。
「ねぇ、萌ちゃん、萌ちゃんはぽちにチョコレイトをあげたのですね?」
「なるほど」
僕は呟いた。
うん、と萌ちゃんはこっくりと頷いた、まだ少し涙を流しながらも、きょとんとした表情をして、何故わかったのかと聞いた。
「なんとなくです」
「なんとなく?」
「そう、なんとなくです」
二胡は優しく言った。
「でももう、これからは、ぽちにチョコレイトをあげてはいけませんよ?」
萌ちゃんは頷いた。
「どういう事です?」
おばさんが聞いた、僕は説明するのが面倒だったので、二胡のほうを見た。
二胡は立ち上がり答えた。
「チョコレイトの原料にはカカオ豆が使われています」
おばさんは頷いた、それを見て、二胡は続けた。
「そのカカオ豆には、コーヒーの実に含まれるカフェイン、お茶の葉に含まれるテオフィリンなどといった物に似た構造を持つアルカロイドの一種であるテオブロミンという物質が含まれています、これは、哺乳動物の心臓に作用する効果があるのです、俗にいう強心性です、これは人間の場合だとチョコレイト等に含まれる量では有害ではないのですが、犬、ぽち等はこのテオブロミンにとても弱いのです、少しの量でも具合が悪くなってしまったり、酷い場合には死んでしまいます」
難しい単語の羅列におばさんは困惑していたが、「死ぬ」という言葉を聞いて、びくっ、と震えた、その様子を見て、二胡は優しい口調で続けた。
「でも、さっきの汚物の量から見て、おそらくそこまではいかないと思います」
それを聞いたおばさんは、少しほっとした表情になった。
「でも、犬は嗅覚はすばらしいですが、味覚はそれ程すごくないのです、そして飼い主に従順な生き物なので、与えられた物はすぐ口にしてしまう事があります、気をつけてくださいね」