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対蜘蛛男 前編

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[対蜘蛛男 前編]

 人間蝙蝠が敗れたにも関わらず、
"彼ら"に動揺の色合いは全く見られなかった。
「次は わたくしめに」
 腰の右手側に巻いたホルダーから拳銃を抜く、
西部劇然とした容姿格好の青年。
 テンガロンハットの鍔を銃口で押し上げて、
満面に湛える笑みを仮面ライダー参号に向けた。

「私めは "拳銃遣い"」
 拳銃遣いを名乗る青年の口上は、
敵の体勢が整うのを待つ意味合いがあった。
 但し、私的に士道を志した人間蝙蝠と異なり、
彼に正正堂堂の戦いを望む気持ちはない。

「この"火竜"の咆哮に 貴方は屈服します」
 拳銃遣いが握り締める拳銃の正式名称が
"二十四発式対超人級用大型拳銃 火竜"。
 密度と強度を人工的に高めた筋力でしか扱えず、
また改造された肉体をも撃ち貫くよう設計された
高反発高威力の特製拳銃であった。

「銀と、毒と、炸薬を練り込んだ専用弾が」
 銃口が、仮面ライダー参号を向いた。
古から退魔性を帯びているとされる銀は、
―…決して製造者が意図せず―…
仮面ライダー参号と、そして"彼ら"の
弱点の一つとなっていた。

「悉く貴方を撃ち貫く」
 錆びた歯車のように硬い撃鉄を起こしつつ、
右腕一本でつけた狙いは正確であった。
BANG!

 銃弾が風を裂く軌跡で仮面ライダー参号を襲う。

 巨岩を砕く量の炸薬が鋼のように硬い外皮を"抉る"。
 一滴で白鯨を殺す質の毒薬が、
炸薬で開いた傷口から全身へ廻る。
 毒薬によって全身の免疫機能が著しく弱まり、
銀の毒性が活性化した形で全身を蝕んだ。

 それが二十四回行われた。
見る間に身体を腐食、損傷してゆく仮面ライダー参号。
 クロス・ハンドとライダー・キックで失われた体力は
防禦行動一つ起こす暇さえ作れなかった。

「くっ」
 壊れた案山子のように膝をつき、
毒のために血もでない傷口に手を当てる。
 
「惨めだな」
 労せずして勝利した拳銃遣いが、
仮面ライダー参号を見下す。

「無様だな」
 その一言一言に嘲笑と侮蔑と、
そして諦観の色味が混ざっていた。

「死ね」
 視界が霞む仮面ライダー参号は、
彼の部分的とも云える"変態"を見逃した。

 肩甲骨の辺りから新たに
腕を四対八本生やした拳銃遣いは、
背に隠していた九本の大型拳銃"火竜"を
その全ての手に握り締める。

 右手の火竜にも弾が込められ、
十本の火竜が仮面ライダー参号を向いて
一斉に火を噴いた―…!


7, 6

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