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兄弟

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 あるところに無職の男がいた。彼は生まれてこのかた働いたことがなかった。就職活動すらしたことがない。が、彼は別に働けなかったわけではない。むしろ有能なほうだった。
要するに彼は働きたくなかったのだ。

が、彼は生活に困窮しているというわけではなかった。なぜなら彼の両親は結構な財産を残したからだ。少なくとも後数十年は暮らしていけるほどの財産を。それに彼の兄は働いていた。工場で働いていた。仕事は大変そうだった。そして兄はいつも遅く帰ってきてたいていゲームやパソコンをやっている彼に対し、決まってこういうのだった。
「お前は気楽でいいな」
 彼はそれにむっとしながら、多少後ろめたさを感じていた。だが彼は兄に対しこういうあだ名をつけていた。

『愛すべき馬鹿』
毎日、毎日働き続ける兄は彼からしたらばかにしか見えなかったのだ。

 ある日兄がいつもより早い時間に顔色を悪くして帰ってきた。いつもの文句は兄の口からは出なかった。翌日兄はいつものように出勤していった。彼はそれを見送ると珍しいことに散歩に出かけた。彼は結構な距離を歩くと公園に入った。なんとそこには鳩に餌をやっている彼の兄がいた。彼が兄をみつめているとやがて、兄のほうも彼に気づいた。しばらくの、沈黙と気まずい雰囲気の後兄は力なくこう言った。
「俺、会社クビになったんだ」

 翌日から兄はさまざまな手段を用いて、就職活動を始めた。が、折からの不況で兄はなかなか就職先を見つけることができなかった。
ある日の夕方兄はゲームをやっている彼に対し突然こうつぶやいた。
「もう俺就職できそうにない。これからは気楽にやろうな。」
 その瞬間彼の胸にわずかながらあった後ろめたさは全部なくなった。それと同時に兄にこれまでにない親近感を抱いた。兄弟は仲良く二人でゲームを始めた。これまで二人の間にあった壁は崩れ去った。

 これから二人は幸せに暮らすだろう。多分……。






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