男は寝起き早々十二時を当に過ぎている時計を見てこうつぶやいた。
「一体俺は何をしているんだろうか」
男は十数年前に会社を辞めて以来ずっと家で怠惰な生活を送っていたのだ。金は親の金と自分が働いてきた金で何とかなった。だがその金もこの頃つきかけてきている。ずっと家の中で引きこもりだ。男に理解を示してくれた母親が数年前に死んだ時も男は外に出なかった。男は一人部屋で泣いていた。そのときに男と激しい口論をした父親は今は生活費を稼ぐためにアルバイトをしている。だが父親もいつまで働けるか。いや、いつまで生きていられるか。男はふとそういうことをたまに思う。そして反省するのだが、いつもその時限りなのだ。気がつくと男はこれで何回目か分からない引きこもりをやめる決意をしていた。男は自分の部屋がある二階から玄関へと向かった。いつもならここで終わりである。だが、しかし今日の男はいつもとは違った。
男は勇気を振り絞りドアを開け庭に出た。十数年ぶりの外である。ここまでやっただけでも驚異的なことだったが、男はさらに門へと手をやった。家の外に出るためである。
が、そこからが進まない、男は何分間も門へ手をやったまま。その時男の頭の中にはさまざまな感情が渦巻いていた。出なくてはいけないという感情と出たくないという感情が激しく闘っていた。勝ったのは出なくてはいけないという感情だった。
男が勇気を振り絞って道路に出たその瞬間横から車が突っ込んできて男は死んだ。