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ロボットxと振り子時計

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 ボーンボーン、振り子時計が午前零時を知らせ始めた。とはいっても今、ここにいるのはロボットxという名のロボット一体だけ。誰も時間を知りたいものはいない。が、振り子時計はこうしてこの建物が建てられた時からずっと時を知らせている。
 
 この建物を建造したのはある大富豪だった。その大富豪の趣味は金を集める事。金を集める事が仕事で生き甲斐なのだ。凄まじい勢いで金を集めた。あくどい事もたくさんした。だが、しかし大富豪は自分の生活に金を使う事をほとんどしなかった。
 大富豪はよくこういっていた。
「金は永遠にして、最高の美だ。金は何にでも替えられるのだから」
 と。
 が、いくら金を集めても所詮人間。そんな彼にもやがて寿命が来た。
 葬式後、親族達を前にして弁護士が遺言書の内容を公開する。親族達は皆うずうずしていた。金が欲しくてたまらないのだ。何しろ、大富豪が残した遺産は相当なもので、親族で分割されて少なくなっても一生遊び暮らせる。金が手に入るのだ。金が。たくさんの金が。葬式の最中、皆は笑いを抑えるのに必死だった。
 だが、しかし弁護士が読み上げた遺言書の内容に一同は驚愕した。
 
 遺言書の内容とは簡略すると全財産は永久に保管する事だった。細かい保管方法が後に書かれている。

 やがて、驚愕は失望に変わり怒りに変わった。大声で罵倒するものもいた。
「あの金の亡者め。地獄まで金を持っていく気か。少しぐらい俺たちにわけてくれたっていいだろう」
 と真っ赤になって怒鳴るものがいたかと思えば、弁護士に泣きつくものもいた。
「お願いだから。少しでもいいからわけて。」
 弁護士は当然断る。
「無理です」
 しつこく弁護士に泣きつく。
「ちょっとでいいのよ。あなたにもあげるわ」
 そんな押し問答が繰り返された後、そのものは
「もういいわよ。けち!」
 という捨て台詞を吐き、外に出て行った。
 他の親族達もみなありとあらゆる罵詈雑言を大声で今は亡き大富豪に浴びせた。人でなしとか、糞野郎とか、カスめとかである。ついには
 「これは夢だ。夢なんだ。俺は豪華に一生をくらすんだ。ははははははは。けけけっ」
 と言い出すものまで表れた。そのものは精神病院送りになった。

 やがて親族達はみな不平不満を言いながら外に出て行った。当然といえよう。もし、金が手に入らないと分かっていれば親族は誰一人、大富豪の葬式に行かなかったろう。
 
 数日後、土地が買収され、建物が造られた。遺言書にはこう書かれていたのだ。建物を作り、その中に全財産を収用する事。壁の厚さは核爆発にもびくともしない厚さにする事。また部屋は二つ作り、入り口の部屋には強力なロボットと振り子時計を置く事。建物への侵入は許して構わない。
 その時からロボットxと振り子時計は働き続けている。無論何故自分たちが働いているかは知らない。

 大昔は、たくさんの人間が一攫千金を夢見てこの部屋に侵入した。がことごとく死んでいった。ロボットxは死体を建物の外に放り出すので周りは死体だらけとなった。栄養を吸って周りの草花は良く育った。振り子時計を置いたのは大富豪のせめて死んだ時間を知らせたやろうという気持ちらしかった。

 が、侵入者はもう来る事は無い。人類はとっくの昔に滅んでしまったのだ。だが、しかしそんな事はロボットxと振り子時計の知った事ではない。それからもずっと働き続けている。建物の周りは鬱蒼とした森林がだ。建物の上にまでツタが生い茂っているので空から見ても分からないだろう。
 
 今日もまた異常はなかった。ロボットxは補給をし始めた。ここの設備は半永久的、自動的にロボットxと振り子時計にエネルギーを供給し続けるのだ。

 そしてまたロボットxは任務を始めた。誰もとろうとしていない後ろの財産を守る為に。振り子時計とロボットxは永遠に働き続ける。大富豪の望みは果たされた。彼が生涯をかけて、集めた財産は永遠に守られ続けるのだ。ボーンボーン、振り子時計が午前零時を知らせ始めた。
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