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朦朧

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 学校の教室で、少年が窓の外を眺めながら欠伸をしている。十五歳ぐらいだろうか。今は、授業中だが、彼はそんなことはまるで気にしていないようだ。
 彼は少しばかり、朦朧としていた。いつものことだ。別に病気だからという訳ではない。
 彼の頭の中はいつも霧がかっているようで、彼と現実世界の間には薄い膜が張ってあった。薄いが、破れづらい膜だ。
 彼にはこれといった夢がなかった。もっともこれはこの年頃の少年には普通のことかもしれない。が、彼には小さな目標すらなかった。ただ毎日穏便に過ごしていく日々。何の代わり映えのない日々。
 彼は別にこれらの日々を望んで、送っているわけではない。とはいっても刺激的な日々を送りたいというわけでもなかった。  
 が、何故か根拠もないのにこう思っていた。いつか、変わるさ。いつかきっと。と。
 
 いつの間にか、少年は大学に入った。別にやりたいことなど何もないので、周囲に入れと言われた大学に素直に入学した。
 大学を出ても、少年—いや、もはや青年というべきかは何をしたいか分からなかった。
 とりあえず、会社に入った。会社でも、一生懸命、働く訳でもなく、サボるわけでもない。ほどほどに働き、まあまあ昇進した。
 そして、いつの間にか定年になっていた。引退後の彼は、何もやることがないので、一日中テレビを見ていた。彼は、よく欠伸をした。少年の頃のように。

 そしてついに、人生の終わりが来た。重い病気にかかったのだ。
 病院の一室で、いまや老人となった元少年は思った。一体俺は何のために生きてきたのかなと。
 が、答えは出なかった。病気のせいでさらに意識が朦朧としてきたからだ。いや、それだけではないかもしれない。もし、ここで彼の意識が鮮明になったとしても決して答えは出なかっただろう。

 やがて、意識はさらに朦朧としていき……。
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